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後半突入の『おかえりモネ』、真面目過ぎる「朝ドラ」も悪くない!?

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

前半の「宮城編」が終了し、先週から後半の「東京編」に入った、朝ドラ『おかえりモネ』。

ここまでの印象を、ひと言で表現するなら、「真面目過ぎる朝ドラ」でしょうか。

「真面目過ぎて悪い」という話じゃありません。「真面目過ぎる朝ドラも悪くないじゃん」と思うのです。

まず、ヒロインのモネこと永浦百音(清原果耶)って、実に真面目な女性ですよね。

2011年3月11日、モネの故郷・気仙沼は東日本大震災に襲われました。

彼女はその当日、たまたま他の街にいた。つまり、本来ならいるべき「現場」にいなかった。「体験」しなかった。

そのことを、家族や友人たちに対して、ずっと後ろめたく思い続けていたモネ。その心のありようが、すごく真面目です。

また、自分の進路というか、将来について、あれこれ思案していましたが、最終的に志望したのは「気象予報士」でした。

その仕事が、自分のためというより、誰かの役に立つからであり、もっと言えば、「人の命を守る」ことにつながる仕事だからです。とても真面目な考えです。

そして、医師の菅波先生(坂口健太郎)の力も借りながら懸命に勉強し、資格試験に挑戦し、見事合格を果たす。真面目だから出来たことです。

これまで浮ついたような出来事もなく、地道に働き、地道に学んできた、努力家のモネ。周囲にいるのも、基本的に真面目な人ばかりでした。

真面目なヒロインが、真面目な人たちと過ごした、故郷での日々。

モネは大きなトラブルや心配事に遭遇することもなく、ほぼ平穏に暮らしてきました。

そして東京に来てからも、順調な出足です。

採用面接もないまま、いきなり「現場」に放り込まれ、結果的には気象予報の仕事への参加が許された。

その真面目さも含め、モネのキャラクターを周囲が認めてくれたからです。

気象情報会社「Weather Experts(ウェザーエキスパーツ)」に所属する、気象キャスターの朝岡覚(西島秀俊)。

気象予報士の神野マリアンナ莉子(今田美桜 いまだ・みお)、野坂碧(森田望智 もりた・みさと)、内田衛(清水尋也 しみず・ひろや)たちも、みんな真面目ですよね。

気象情報は、何よりも大切な「命」を守るためのものであり、彼らはそれを扱うわけですから。

そして、ドラマの中の放送局では、気象予報士だけでなく、気象情報を伝えるグループのスタッフも含めた全員で、「正確な情報」を伝えることに真摯に取り組んでいる。

その姿勢は、「気象はチーム戦です」というセリフが象徴しています。

というわけで、モネが気象予報士として一人前になっていく日々が描かれる「東京編」も、基本的には真面目なエピソードがベースだと思われます。

それは、かつての朝ドラのヒロインたちに見られた、自己実現という名の出世物語や成功物語とは一線を画すものでしょう。

おそらく、「他者のために、他者とともに」といった精神の持ち主ならではのストーリー展開になるはずです。

タイトルが『おかえりモネ』ですから、どんな形かはともかく、いずれは故郷の人々の役に立つべく、故郷に帰ると予想されるヒロイン。

でも、しばらくは、東京という未知の「現場」における、主人公の生真面目な切磋琢磨を応援していきたいと思います。

不安感と閉塞感に満ちた時代には、地に足のついた、真面目過ぎる「朝ドラ」も悪くはないですから。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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