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前略、倉本聰さま。『北の国から2021』が見たいです。

碓井広義メディア文化評論家
五郎の石の家(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

今年3月24日、『北の国から』の主人公、黒板五郎を演じた田中邦衛さんが亡くなりました。88歳でした。

4月3日、フジテレビは追悼番組として、『北の国から ’87初恋』を放送しました。

横山めぐみさんが、ヒロイン「れいちゃん」を演じた、名作の1本です。

平均世帯視聴率は、何と9.4%に達しました。

ほとんど予告なしの放送だったにもかかわらず、最近は新作ドラマでもなかなか難しい、10%近い数字を獲得したことは驚きです。

そして、北海道・富良野にある、ドラマのロケ現場「五郎の石の家」に、田中邦衛さんのための「献花台」と「記帳台」が設置されたのは、4月10日のことでした。

田中さん、そして「五郎さん」をしのんで集まった人は、初日だけで1800人に達したそうです。

連続ドラマ『北の国から』全24話が放送されたのは、1981年10月から82年3月まででした。

83年からはスペシャルの形となり、『北の国から2002遺言』まで続きます。

放送されていた20年間、徐々に年老いていく五郎の姿がありました。

その一方で、成長し、大人になっていく子どもたちの仕事、恋愛、結婚や離婚、いや不倫までもが描かれていきました。

見る側は、フィクションであるはずの「黒板一家」を親戚か隣人のように感じながら、五郎と一緒に笑い、泣き、悩み、純や螢の成長を見守り続けたのです。

彼らと同じ時代を生き、年齢を重ねてきた人たちの中で、2002年からの「その後の20年」はもちろん、「現在」も物語は続いているのではないでしょうか。

そうでなければ、34年前に放送された作品が多くの人に視聴され、主演俳優と彼が演じた劇中の人物を慕って、たくさんの人がわざわざ富良野まで足を運んだりはしません。

やはり『北の国から』は、見る側の心の中で、終わってはいないのでしょう。

しかも、今年は「放送開始40周年」に当たります。

6月3日の読売新聞などの報道によれば、40周年記念として、第1回が放送された10月9日前後、富良野に当時の出演者などが集まる「同窓会」の計画があるそうです。

そんな話を聞いていると、どうしても、こう思わずにはいられません。

『北の国から』の新作が見たい!

『2002遺言』から約20年を経た、「現在の黒板一家」に会いたいです。

前略、倉本聰さま。

『北の国から』の新作が見たいです。

黒板家の人たちは、たとえば東日本大震災を、どこでどんなふうに経験し、昨年からのコロナ禍の中、どう生きているのか。

もちろん、今、田中邦衛さんはいません。

でも五郎さんは、今もどこかで、いや、きっと富良野で、飄々と暮らしているような気がします。

純は、蛍は、何をしてるンだろう。何を思って生きてるンだろう。会ってみたいです。

前略、倉本聰さま。

『北の国から2021』の脚本を、ぜひ書いてください!

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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