Yahoo!ニュース

次の「朝ドラ」ヒロイン、清原果耶の実力がわかる『透明なゆりかご』

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

5月17日から、新たなNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』が始まります。

ヒロインの永浦百音(ながうら ももね)を演じるのは、清原果耶(きよはら かや)さん。

脚本は、清原さんの初主演作だった『透明なゆりかご』(NHK)も手掛けた、安達奈緒子さんです。

現在、深夜に再放送中の『透明なゆりかご』を見ると、あらためて清原さんの実力と可能性が分かります。

『透明なゆりかご』という秀作

それは、2018年のことでした。

綾瀬はるか主演『義母と娘のブルース』が話題を呼んだ、夏ドラマ。

この時期、NHKでは、「目立たぬ秀作」が放送されていました。それがドラマ10『透明なゆりかご』です。

物語の舞台は、由比朋寛(瀬戸康史)が院長を務める産婦人科医院。

そこに看護師見習いとしてやって来たのが、高校の准看護学科生である、青田アオイ(清原果耶)でした。

産婦人科のドラマといえば、近年だと綾野剛主演『コウノドリ』(TBS系)の印象が強いですよね。

総合病院における最新の「チーム医療」が描かれていました。

しかし、チーム医療という優れた仕組みも、由比のところのような個人病院ではとても無理です。

妊婦さんと家族に寄り添う

その代わり、由比は個々の妊婦さんとその家族に、可能な限りコミットしていきます。

むしろ、そのために独立したと言っていい。

確かに、由比の病院を訪れる妊婦さんたちは、それぞれの事情を抱えています。

受診歴のないまま来院し、出産後に失踪する人。自らの持病のために出産を断念しようとする人。出産後の血圧低下で、命を落とす人もいます。

また、このドラマは、「死産」や「中絶」といった重いテーマも、果敢に取り込んでいました。

中には、14歳の中学生が「妊娠・出産」するという回もありました。

その判断に至るまでの、本人や家族の葛藤をきちんと描き、さらに出産から9年後の母子の姿も見せていたのです。

何より好感がもてたのは、どのエピソードでも、「わかりやすい結論」を下していなかったことです。

妊婦さんやその家族は、理想や倫理だけでは、なかなか白黒つけられない、まさに「グレーの部分」で悩んだり、傷ついたりします。

そんな彼らを静かに見つめていくのが、清原さん演じるアオイでした。

「清原果耶」という逸材

実はアオイ自身も、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された過去をもっています。

また、感情の起伏の激しい母親(酒井若菜)との関係も、うまくいっていません。

自分に自信が持てなかったアオイが、命の現場に立ち会うことで少しずつ成長していく。

当時16歳だった清原さんは、「ドラマ初主演」で、しかも「難役」でありながら、アオイが憑依(ひょうい)したかのような熱演を見せていました。

大きな可能性を感じさせる新人だったのです。

原作は沖田×華(おきた・ばっか)さんの同名漫画。

脚本は、『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)などで知られていた、安達奈緒子さん。

女性が抱える、やるせない気持ちまで丁寧にすくい上げながら、生真面目でいて温もりに満ちた、「命」のドラマを構築して見事でした。

そして今度の清原さんは、気仙沼生まれで、気象予報士を目指すという、モネです。

主演・清原さん、脚本・安達さんの「ゆりかごコンビ」が、朝ドラという舞台で、どんな物語を見せてくれるのか。

期待しながら、開始を待ちたいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事