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『大恋愛~僕を忘れる君と』特別編は、難病モノを超えた「愛と覚悟」の物語

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

6月5日(金)夜、『大恋愛~僕を忘れる君と』特別編の第1話が放送されました。

2018年の秋クール、金曜ドラマの枠でスタートする前、正直言って懸念がありました。まず、恋愛ドラマであることはわかったのですが、自ら「大恋愛」だと言い切る、大胆なタイトルに驚いたのです。

また当時、番組サイトでは「若年性アルツハイマーにおかされた女医と、彼女を明るく健気(けなげ)に支える元小説家の男」の物語だと紹介されていました。

「なんだ、よくある難病モノかあ」と思ったり、「韓流ドラマみたいな話?」と感じたりする人も多いのではないかと気になったのです。似たようなシチュエーションだと、韓国映画『私の頭の中の消しゴム』(2004年)といった佳作もありましたから。

そうそう、『私の頭の中の消しゴム』のヒロイン、ソン・イェジンさん。最近は、Netflix『愛の不時着』が話題ですよね。

そして、『大恋愛』のヒロインは戸田恵梨香さん。どんなドラマでも的確に役柄を表現できる力を持つ女優さんですが、当時、「代表作は?」と聞かれたら、すぐに答えられませんでした。

またムロツヨシさんは、当時も今も、個性派という呼び方がぴったりな、いい意味でクセの強い俳優さんです。たとえば『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)のようなカルトドラマでの怪演は誰にもまねできません。「そんな2人で難病系恋愛ドラマ?」と心配したのです。

しかし実際に始まってみると、まさに杞憂(きゆう)でした。ヒロインの北澤尚(戸田)は難病を抱えていますが、それは単なる恋愛の背景ではありません。生きること、愛することを突き詰めて描くための設定になっていました。

新人賞を取りながら筆を折っている作家、間宮真司(ムロ)は、尚にとってようやく出会った運命の人です。しかし自身の病気を知ったことで、後に、尚はうそをついてでも真司と別れようとします。

今回の特別編、来週も続くようですが、基本的に「放送回数未定」ということなので、どこまで見せてもらえるのか、分かりません。できれば、これから描かれる2人の「愛と覚悟」を、きちんと見直してみたいのです。

特に戸田さんは、もしかしたら朝ドラ『スカーレット』より、いいかもしれません。いや、本来は順番が逆で、『大恋愛』での高評価は、『スカーレット』での起用にもつながったはずなのです。

それを承知で言えば、『大恋愛』の戸田さんは、いずれこのドラマの名場面となる、絶品の「泣き笑い」が象徴するように、ひときわ輝いていました。もちろん、ムロさんも。そんな2人の演技を再度見ることができるのは、喜ばしいことです。

ちなみに、脚本の大石静さんは、この作品で、「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」18年10月期の「脚本賞」を受賞しました。

切ない物語でありながら、どこか明るい世界観。「記憶を失っていく恋人」というベタな設定であるにもかかわらず、説得力のあるストーリー展開。2人の魅力的なキャラクターと会話の妙。

この特別編でも、あらためて大石さんの熟練の技を楽しみたいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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