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「霧山くん」は再びアメリカへ!『時効警察はじめました』が、おわりました。

碓井広義メディア文化評論家
公式アカウントより

連ドラとしては12年ぶりに復活した『時効警察』シリーズ、その名も『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)が終っちゃいました。全8話なので終了も早い。

主人公は、すでに時効となっている未解決事件の真相を探るのが「趣味」だという警察官、霧山修一朗。演じたのは、もちろん前作同様、オダギリジョーさんです。

まず、総武警察署時効管理課という舞台も、そこにいる面々も変わっていないのが、うれしかったですね。

捜査の女房役である三日月しずか(麻生久美子)、いつもうるさい又来(ふせえり)、表情から感情が読めないサネイエ(江口のりこ)。そして、大抵の発言が皆から無視される課長の熊本(岩松了)も相変らずで、ホッとしました。

ドラマの構成もまた見慣れたものでした。ほとんどはゲストが真犯人であり、今回も小雪(新興宗教の教祖)、向井理(ミステリー作家)、中山美穂(婚活アドバイザー)など豪華な顔ぶれが並びました。

むしろ犯人がわかっているので、見る側は安心して霧山の推理を楽しめるのです。印象に残っているものとしては・・・

第3話で「MISTAKE」というダイイングメッセージが、実は「ミス武田」を改ざんしたものだったり、第5話の「蕎麦アレルギー」を利用した手口だったり。

また第6話の凶器がプロレスのトロフィーだったりしましたが、いずれも「ミステリとしてはちょっと弱いんじゃない?」という、独特のユルさが好きでした。

ドラマ後半の解決篇で霧山が言う、あの「決まり文句」がいいんだ。

「一つ、お断りしておきますが、これからお話しするのは、あくまでも僕の趣味の結果です。事件そのものは、すでに時効ですから、この事件の犯人が誰だろうと、僕がどうすることもありません」

そして、「後は、犯人である、あなたのご厚意に甘えるしかありません」と続きます。

あれが聞きたくて、毎回見ていると言っても過言ではありませんでした。

さらに、このドラマの醍醐味は全編にちりばめられた、いや散らかしっ放しの小ネタの数々です。

時効管理課に勤務する、というか、たむろしているメンバーの無駄話、バカ話はもちろん、事件現場の最寄り駅の名前が「手賀刈有益(てがかりあります)」だったり、捜査に同行した刑事課の彩雲(吉岡里帆)が、日清の「どん兵衛」じゃなくて、本物の「わんこそば」をひたすら食べ続けたり。

また、三日月が霧山との接近を「ウッシッシ」と、ほくそ笑む。これの元祖は大橋巨泉さんですから。懐かしいなあ。

分かる人が、いようといまいと、本気で面白がっている現場の様子が目に浮かびます。時々、仲間由紀恵さんと阿部寛さんの『トリック』(テレ朝系)を思い出しました。

最終回。霧山は、再びアメリカに行っちゃいましたねえ。三日月の言葉じゃないけど、また12年も帰ってこないなんてことがないよう、祈ります。

もしも当分は戻ってこないなら、その間に、ぜひ『熱海の捜査官』(同)を復活させていただきたい。

『熱海の捜査官』は、2010年に放送された、オダギリさんと三木聡監督コンビによるカルトドラマのこと。

もっと言えば、『ツインピークス』や『ピンクパンサー』など、往年の名作へのオマージュが散りばめられ、『時効警察』以上に、分かる人には分かる、分からない人は分からなくていいという、確信犯的に不親切設計なドラマです。

オダギリさんが、FBI特別捜査官クーパーみたいな広域捜査官を演じ、保安官トルーマンみたいな警察署長は松重豊さんでした。

『時効警察はじめました』の最終回に、絵本の『ウォーリーを探せ』みたいな衣装で登場していた松重さんを見て、『熱海の捜査官』を思い出した次第です。

それにしても、来週から「霧山くん」も「三日月さん」もいない金曜の夜になるかと思うと、俄然寂しくなりますね。

ありがとう! 時効警察の人々。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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