Yahoo!ニュース

始動した木村拓哉主演『グランメゾン東京』は、今期ドラマの真打か!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

始まりましたね、木村拓哉主演の日曜劇場『グランメゾン東京』(TBS系)。10月クールの、いわゆる秋ドラマも、他の作品がすでに2~3話を放送したタイミングでのスタートです。

以前は、よくフジテレビが月9でやっていた、「後出しジャンケン方式」(と私は呼んでいます)ですが、普通に始めても、他局より遅らせて始めても、ダメなドラマはやはりダメなので、作品の評価とはあまり関係ありません。

それでもTBSの関係者は、少しヤキモキしたかもしれません。何しろ、この日はラグビーW杯の日本vs.南アフリカ戦が他局で放送されていたし、TBSも巨人vs.ソフトバンクの日本シリーズ中継があったりして、日曜劇場も大幅に遅れてのスタートでした。

さて、『グランメゾン東京』です。冒頭、いきなりのパリでした。主人公の尾花夏樹(木村拓哉)がシェフを務める自分の店で、フランス大統領はじめ要人たちの会食です。

順調にメニューが進んでいたのですが、突然、食事中の大統領が倒れてしまいます。え、何が起きた? よくわからないまま、レストランの中は大騒ぎに・・・というのが「3年前」の出来事でした。

そして、現在のパリ。あるレストランの面接で、自分を採用して欲しいと熱弁を振るっているのは、早見倫子(鈴木京香)です。試しに料理を作って、それで判断してもらうことになります。

部屋の窓の外では、今は無職らしい尾花が、その成り行きを聞いていました。しかも尾花は中に飛び込み、「自分をもう一度使ってくれ」と訴えて、追い出されます。尾花はこっそり倫子をサポートしましたが、結局、彼女は採用されませんでした。

帰国しようとする倫子。街の中を尾花と並んで歩きます。ここで視聴者には、3年前の出来事は、料理にアレルギー食材が入っていたために起きたことが明かされます。また10年間やってきた店を閉めた倫子が、パリで一から修行して出直そうとしていたことも。

そんな倫子に、尾花が提案します。「レストラン、やらない? 俺と」「2人で世界一のグランメゾン、つくるっての、どう?」って、かなりイキナリだけど、木村拓哉に誘われたんじゃなあ(笑)。

というわけで、舞台は東京へ。倫子の家のクルマで寝泊まりする尾花。ある日、2人は評判のフレンチの店に出かけます。その店「gaku」で再会するのが、かつて尾花と一緒にパリの店「エスコフイユ」をやっていた、京野陸太郎(沢村一輝)でした。

京野は、江藤(手塚とおる)がオーナーのこの店で、ギャルソン(給仕)をしていたのです。また、尾花にとっては、パリの三ツ星レストラン「ランブロワジー」での修行仲間だった、丹後(尾上菊之助)が「gaku」のシェフでした。

尾花の動きを警戒した丹後は、この後、倫子を自分の店に引き入れようとします。しかし、倫子は逆に京野を引き抜こうと、江藤と丹後に正面からぶつかっていきました。京野が肩代わりしてもらっていた、1000万円の現金を持参して。殴り込みの京香姐さん、貫禄の見せ場です。

そして、とある古いビル。倫子と尾花が店を開こうという場所です。そこに京野がやって来ました。「gaku」のオーナーが、料理も客も無視して、経済効率だけを考えていることに嫌気がさしていたし、やはり尾花の料理には「人を動かす力」があるのです。

これで3人がそろいました。とはいえ、しばらくはメンバー集めが続きそうです。パリ時代からの知り合いである、料理研究家の相沢(及川光博)や、尾花の店で働いていた平古(玉森裕太)も東京にいるからです。それに、「gaku」の丹後たちも、目障りな尾花に対して、このままではいないでしょう。さらに、3年前の食物アレルギー事件にも、どうやらキナ臭い真相が隠れているようです。

初回を振り返って、一番印象に残ったのは、というか一番ホッとしたのは、木村拓哉さんが、ちゃんと「尾花夏樹」に見えたことでした。いや、「そんなの、当たり前じゃん」と言うなかれ。これって、「木村拓哉主演ドラマ」では大事なことなのです。

木村さんの主演作が、時として「キムタクドラマ」などと言われてきたのは、まさに、そのあたりの問題でした。パイロットや天才外科医を演じていても、登場人物より、木村さん本人が前面に出ていて、物語に集中できなかったりしたのです。

すでに、2015年の『アイムホーム』(テレビ朝日系)で、「俳優・木村拓哉」としての存在感はあったのですが、その後の『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)や『BG~身辺警護人~』(テレ朝系)では、脚本や演出のせいもあり、やや心配しました。

しかし今回は、「尾花夏樹を演じる木村拓哉」ではなく、「木村拓哉が演じる尾花夏樹」を安心して楽しむことが出来そうです。それくらい木村さんの演技はナチュラルであり、他の出演陣とのマッチングや掛け合いにも無理がありません。

初回では、結構大事な場面での「偶然」がありましたが、全体の流れで見ていると、それほど気になりません。物語として、偶然が必然に見えてくる。さすが黒岩勉さん(『メゾン・ド・ポリス』など)のオリジナル脚本です。これがどんなドラマなのか。登場人物たちがどんなキャラクターなのか。テンポのいい展開の中で、巧みに明示していました。

さらに、この初回の演出を担当していたのは、『アンナチュラル』の塚原あゆ子さんでした。どうりで、映像のキレもいいはずです。

ドラマタイトルの「グランメゾン東京」は、これから開く、お店の名前だったんですね。尾花たちは、ミシュランの三ツ星を目指すと言っています。それがどれほど難しいことなのか、私も含め多くの視聴者にはよくわかりません。

またフレンチに関しても、一般的なことしか知らない人が少なくないはずです。それでも、「料理」という舞台で、何か素晴らしいものを生み出そうとする「大人たち」がここにいることは、しっかり伝わってきました。そして、今期ドラマの「真打感」も。初回としては、それで十分だと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事