Yahoo!ニュース

「突破力」と「防御力」の両輪で挑む、日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)の原作は、『半沢直樹』や『下町ロケット』などでお馴染み、池井戸潤さんの最新同名小説。左遷によって弱小ラグビー部の責任者となったサラリーマンが、チームと自分自身を再生していく話です。

大泉洋さんの「突破力」

制作陣も演出の福澤克雄さんをはじめとする“チーム半沢”の面々ですが、始まる前からヒット、いや大ヒットを期待されているわけで、そのプレッシャーは大変なものだと思います。

しかし、立ち上がりを見る限り、まったく委縮していないんですね。むしろ積極的に攻めている。

その象徴が、主人公の君嶋隼人役に大泉洋さんを抜擢したことでしょう。もちろん大泉さんは人気者です。とはいえ、看板ドラマ枠としては冒険であり、挑戦であることは確かです。役者としての力量だけでなく、大泉さんが持っている無敵のユーモアとペーソス、計測不能の“突破力”が欲しかったのかもしれません。

また、松たか子さんが演じている隼人の妻、君嶋真希の存在にも注目です。

勤務するトキワ自動車で大きな力を持つ、常務の滝川(上川隆也)に歯向かったことで、隼人は本社から府中工場へと飛ばされました。自宅のリビングで意気消沈する夫。でも、真希は慰めたりはしません。

「勝負するって決めたんでしょ? なら負けたって仕方ないじゃない。工場だろうと、どこだろうと、胸張って行きなさいよ!」とピシャリ。愛情を込めた、見事な叱咤激励でした。

松たか子さんの「防御力」

この「真希」ですが、実は池井戸さんの原作小説には登場しません。つまり、シナリオの作成段階で生まれた人物ということになります。脚本を手掛けているのは、『下町ロケット』などの丑尾健太郎さんです。

そして結果は、大正解でした。

なぜなら、「日曜劇場」の主人公は、ややもすればドラマ的ヒーローになりがちだからです。真希がいることで、隼人というキャラクターに、人間味を含む奥行きが与えられる効果が生まれました。

そういえば、「真希(まき)」という名前を聞いて思い出すのが、2017年のドラマ『カルテット』(TBS系)です。

軽井沢の別荘で、不思議な共同生活をすることになった4人の音楽家。その一人が、松たか子さん演じる、第一ヴァイオリン奏者の早乙女真紀でした。

「真紀(まき)」は、ネガティブ思考で心配性。自信がないので、声も小さい。でも、ここぞという場面で、突然思い切った行動に出る。そんな女性でした。

同じ「まき」でも、今度の真希は、真紀とは真逆のタイプです。しかし演技派の松たか子さんだからこそ成立する役柄という意味で、2人の「まき」は同じです。

愛すべき「恐妻」が、家族というチームを、厳しく、そして優しくガードする。

ラグビー部の新監督問題はまだ揺れているものの、すでに隼人は役員会で優勝宣言までしてしまいました。ラグビーにサラリーマン人生を重ねたこのドラマも、試合同様、もう後へは引けません。

「組織と個人」という古くて新しいテーマを掲げ、企業内部の人間ドラマを描くと同時に、「One for all, All for one」を標ぼうする、ラグビーというスポーツの醍醐味も十分堪能させてくれそうです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事