Yahoo!ニュース

古田新太主演『俺のスカート、どこ行った?』は、異色の「学園ドラマ」にして快作!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

元祖「学園ドラマ」から半世紀以上

高校を舞台にした学園ドラマの元祖といえば、夏木陽介主演『青春とはなんだ』(1965年、日本テレビ)です。そのあと同じ夏木さんで『これが青春だ』(66年、同)、竜雷太主演の『でっかい青春』(67年、同)と続いていきます。

70年代に入っても、村野武範主演『飛び出せ!青春』(72年、同)や中村雅俊主演『われら青春』(74年、同)などの人気作が生まれ、日本テレビは学園ドラマの総本山みたいになっていきました。

これらに共通するのは、教室や授業ではなく、部活が物語の中心にあったこと。また主演俳優が演じる教師たちは、ラグビー部やサッカー部の部長を務めているという設定がパターンです。“不良”だった生徒たちが、仲間との友情や教師との信頼関係によって成長していく姿を描いていました。

『青春とはなんだ』から半世紀以上が過ぎて、学園ドラマも大きく様変わりしています。たとえば、同じ日本テレビで今年の1月クールに放送された、菅田将暉主演『3年A組―今から皆さんは、人質です―』。SNSなどの「匿名という名の暴力」をテーマにした、トガった学園ドラマでした。

「3年A組」から「2年3組」へ

そして今期、注目したいのは古田新太主演の『俺のスカート、どこ行った?』(日テレ、土曜夜10時)です。

主人公は、新米高校教師の原田のぶお(古田)、52歳。現代文の先生です。

強烈なインパクトは、その見た目ですね。前髪ありのおかっぱボブに、原色系のブラウスとスカート。足元はしっかりハイヒールです。しかもそれが、あの古田さんですから!

原田先生は逃げも隠れもしない、堂々のゲイで女装家。自身でゲイバーも経営していたこともあります。故あって、校長(いとうせいこう)の依頼で豪林館学園高校に赴任し、2年3組の担任になりました。

このドラマ、まず原田先生のキャラクターが秀逸です。学校での初日、ざわつく生徒たち。中には、「キモい」とか「ヤバいおじさん」とか揶揄する者もいたのですが、「俺は、ヤバいおじさんじゃない。かなりヤバいおじさんだ!」と一喝します。

生徒たちに「LGBT」の説明をする時も、トランスジェンダーは「社会が割り当てた性別とは別の性別で生きる人」なのだと言い、「わたしはゲイ、そして女装もしている」と続けます。LGBTといっても様々な人たちがいることを伝えて、見事でした。

担任する2年3組には、リーダー的存在の明智(永瀬廉)や東条(道枝駿佑)などがいて、最初から原田に反発します。彼らは、いつもマスクをしている内向的な若林(長尾謙杜)をいじめたりしているのですが、原田が学校を辞めなければ、若林が屋上から飛び降りるという、危ない「仕掛け」で挑戦してきました。

原田は、常識はずれの対応でこの企てを無化すると同時に、若林が自信を取り戻すことに成功します。やるなあ、原田先生!

また、チアダンス部の臨時顧問を務めた際も、部員の川崎(高橋ひかる)が足を痛めていることを見抜き、ひたすら長時間の練習に明け暮れる女子生徒たちに、「オーバーワークはケガのもと」と注意。その上で、知り合いのショーパブに部員たちを連れて行き、秘密の特訓を施します。

人間の“本質”を見抜く力

原田先生、やることは一見破天荒なのですが、その背後には経験に裏打ちされた道理と知恵が隠されている。何より、曇りのない目で人間の“本質”を見抜く力が抜群です。

これから、どんな妙手を繰り出すのか。そして2年3組の生徒たちが、どんなふうに変わっていくのか、楽しみです。

そうそう、前述のいとうせいこうさんをはじめとするキャスティングも面白い。生真面目で、ちょっと杓子定規な生活指導の長井あゆみ先生が松下奈緒さん。原田先生との衝突が見ものです。

そして、2年目にして早くもやる気を失ったように見える、マイペースな里美萌先生に、乃木坂46の白石麻衣さん。原田に向かって、「ぽこちんは、どうしてるんですかあ?」と、素朴にしてストレートな質問を投げかけていました。

しかも、原田が「俺のぽこちんは大きいよ」と答えると、「でかちんかあ~」と嘆息(笑)。いやいや、乃木坂の白石嬢にこの台詞を言わせるあたりがアッパレです。

脚本は、秀作『平成物語』(フジテレビ系)などを手がけてきた加藤拓也さんによる、嬉しいオリジナル! 異色の「学園ドラマ」として、今後の展開が大いに期待できます。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事