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絶好調だった、テレビ東京の「深夜ドラマ」に拍手!

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

1月クールで俄然光っていたのがテレビ東京の深夜ドラマです。『日本ボロ宿紀行』、『フルーツ宅配便』、そして『デザイナー渋井直人の休日』。テレ東じゃなければ出来ない、深夜ならではの名品ばかりでした。

この中の『日本ボロ宿紀行』については、先月、「見ないで終わるのは惜しい、深川麻衣『日本ボロ宿紀行』は奇跡の脱力系深夜ドラマ」と題して書いたので、他の2本について記しておきます。

●濱田岳主演『フルーツ宅配便』

番組タイトルの「フルーツ宅配便」は、咲田真一(濱田岳)が雇われ店長をしているデリヘルの店名でもあります。在籍する女性たちには、みかん(徳永えり)やイチゴ(山下リオ)といったフルーツの名前が付いているのです。

そんなメンバーに加えて、新人が毎回入ってくる。どんな女優が、どんな女性として登場するのか。それがこのドラマの大きな見どころでした。

たとえば、詐欺に引っかかり借金を背負っていたのがモモ(成海璃子)。客に本番をさせておいて後から金をゆする、困ったタイプがサクランボ(筧美和子、好演)です。そしてブルーベリー(中村ゆり)は、一度は逃れた覚醒剤に再び手を出し、自首することを選びました。

咲田は確かに主人公なのですが、彼を軸にドラマが展開されるわけではありません。主体はむしろ嬢たちです。

嬢たちそれぞれが抱えた事情やトラブルの中に、今どきの社会や生(ナマ)の人間の姿がさりげなく映し出されているのです。

また嬢たちは密室で客と向き合うのですが、サービス行為そのもののシーンは映像で見せません。それは鈴木良雄さんの同名原作漫画のスタイルでもあり、その抑制と禁欲ぶりが好ましい。

咲田が付き合っている同級生・えみ(仲里依紗)が所属する、悪徳デリヘル店の経営者・沢田(田中哲司)と、フルーツ宅配便のオーナー・ミスジ(松尾スズキ、怪演)の対決も見ものでした。

『ビッグコミックオリジナル』で原作漫画の連載が続いていることもあり、続編も十分期待できそうです。

●光石研主演『デザイナー渋井直人の休日』

主人公はタイトルのまんまで、デザイナーの渋井直人(光石研)。52歳の独身男です。

音楽を聴くのはレコードで、外出時にはダッフルコートがお決まりです。仕事はできるし、それなりにおシャレさん。何より渋井は「心優しき中年おじさん」であります。

美術系を含むサブカルにもくわしくて、自分が好きなものには強いこだわりを持っている。女性に対しては、それなりに意欲も野心もあるけれど、あまりモテない。

そんな渋井の楽しくも、ちょっとほろ苦い日常が淡々と描かれていきました。

インスタで知り合った女性(内田理央)とのデートは店がどこも満員で、ホテルのレストランに誘ったつもりが、結局は誤解されて決裂しちゃいます。その笑える展開は同情に値するほど。

また昔なじみのスタイリスト(臼田あさ美)に呼び出されていい気分になっていたら、実は不倫相手と別れた直後で、単に癒やしを求めていただけでした。それを知ったときの渋井というか、光石さんの、「ちょっと切ないけど、オレは落ち込んだりはしないぞ」という表情がいいんだなあ。

さらに居酒屋で出会ったOLさんであるカモメ(黒木華)は、やや天然でかなりマイペース。だけど翻弄されている渋井は実に嬉しそうでしたね。

個人的には、かつて住んでいた、そして仕事場もあったりした、代々木八幡や代々木上原周辺の映像も楽しめました。

毎回、本当はドキドキしながら、あくまでも“ステキなおじさん”であろうとする渋井は確かに痛い(笑)。でも、その痛さがかわいく見えてくるのが、光石研という役者の持ち味であり真骨頂です。

脇役が主役となった快作『バイプレイヤーズ』を思い出させるこのドラマ、光石さんにとって、なんと俳優生活40年で初の「連ドラ単独主演」でした。拍手!

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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