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やったことないけど、うまく言えないけど、ほっこり共感する「面白CM」!?

碓井広義メディア文化評論家
ポテト丸のふるさと、じゃがいも畑(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

自分たちがCMしている「商品」を持っていない、使っていない。いや、「商品名」もうまく言えない。でも、なんだかほっこり共感してしまう。そんな面白CMがあるのです。

星のドラゴンクエスト 「稲垣吾郎さんの告白」編

SMAPが解散したのは2016年12月のことでした。2年以上が過ぎて、稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんは、それぞれの活動を展開しています。とはいえ、テレビ画面に3人が一緒に出てくると、やはりその華やかさには格別のものがあります。

ゲーム「星のドラゴンクエスト」のCMで、3人がプロデューサーに就任しました。目の前をキャラクターたちが行き来するのですが、なぜか稲垣さんの反応が微妙で、他の2人は困惑気味です。

そして突然、稲垣さんが「僕、ドラクエやったことないんでね」と衝撃の告白。

しかも、稲垣さんの「あれ? 僕、何か変なこと言った?」という表情がまた笑えるのですが、CMしている当人であるにもかかわらず、その「商品」に触ったこともないと言っているわけで、見ている側もびっくりです。

思えば、既存のユーザーはもちろん大事ですが、まだユーザーになっていない「これからの人」を巻き込むことも、CMの重要な役割でしょう。CMに限らずですが、何事も無理に同調したり嘘をついたりせず、正直に本当のことを言う。そこから新たな共感が生まれるのかもしれません。

ベビースター ポテト丸「早口チャレンジ」編

毎年、春になると楽しみにしていたCMがありました。1978年から10数年も続いた、小学館の学習雑誌のCM「ピッカピカの一年生」です。

たとえば北海道編では、「僕は今度、ちくさむ、あ、いや、月寒(つきさむ)小学校に入ります、よろしく!」なんて言う男の子がおかしくて、かわいくて、当時も見ていると涙が出ました。

ポテト丸のCM「早口チャレンジ」編にも、往年の傑作に劣らぬ“名優”たちが登場しています。

たとえば、こうた君。じゃがいもの真ん中から顔を出し、「ぽってのポテトな・・」と言ったところで間違いに気づいてストップします。続けての再チャレンジでも、「とってのポテラの・・」と散らかり放題のまま。結局、キャハハハ・・と笑って誤魔化して、おしまいとなるのです。

正解は「とってもポテトなポテト丸」なんだけど、こうた君の笑顔のおかげで、ポテト丸まで好きになっちゃいそうです。

CM「ピッカピカ」の生みの親である杉山恒太郎さんが、著書『ピッカピカの1年生を作った男』の中で言っていました。「新しいもの」は、必ずどこかに「懐かしさ」を持っていると。 

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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