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異色の刑事ドラマ『メゾン・ド・ポリス』は、原作を超える面白さ!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

異色の刑事ドラマ『メゾン・ド・ポリス』

『インディゴの夜』や『モップガール』などで知られる、加藤実秋さんの小説を原作としているのが、金曜ドラマ『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)です。

ひと言で内容を説明するなら、新人女性刑事が、退職刑事専用のシェアハウス「メゾン・ド・ポリス」に暮らす“おっさん”たちの力を借りて事件を解決していく物語、ということになります。

昨年、大いに話題となったドラマに『おっさんずラブ』があり、おじさんというか、“おっさん”に注目が集まりました。

また、ドラマにおけるシェアハウスという「器」、もしくは「場」も、すっかりお馴染みのものとなりました。

そんな両者が合体したイメージ。しかも、刑事ドラマというところが、『メゾン・ド・ポリス』の特色でしょうか。

高畑充希さん主演の刑事物なのですが、主人公の牧野ひより(高畑)をサポートする、おっさん(退職刑事)たちの活躍こそが、このドラマのミソです。

おっさんたちの「キャラクターショー」

まず、このシェアハウスに暮らす面々のキャラクターと、それを演じている俳優たちのマッチングの妙が見事です。

シェアハウス「メゾン・ド・ポリス」のオーナーは、元警察官僚の伊達(近藤正臣)。警察内部での影響力をしっかり保持しています。

次が、ひよりと同じ柳町北署にいた迫田(角野卓造)。最後まで「所轄」勤務にこだわった職人肌の元刑事です。

シェアハウスの管理人(ただし、通いです)は、現役時代に現場経験がなかった高平(小日向文世)。家事はもちろん、住人たちの健康管理もしっかりやっています。

藤堂(野口五郎)が所属していたのは科捜研。今も自分の部屋には、鑑定のための機材が山積みです。かなりの女好きみたいですが、野口五郎さんが楽しげに演じています。

そして、一番よく働くのが元捜査一課の夏目(西島秀俊)。管理人である高平の下で、いわゆる雑用を一手に引き受けている感じ。集中して何かを考えるには、「アイロンかけ」が一番というのも面白い。

こんな5人のおっさんたちが、ひよりと共に事件を解決していくのです。それでいて、5人はいずれも単なる「いいひと」じゃない(笑)。「おっさんをナメるなよ!」というドラマの姿勢が痛快です。

「アレンジ」が効いた物語展開

第1話では、人を焼死させる動画をアップする事件が発生。それは5年前の「デスダンス事件」の模倣犯の仕業かと思われました。

当時、犯人を逮捕したのが夏目でしたが、その犯人はずっとえん罪を主張しています。ひよりは夏目の誤認逮捕を疑うのですが、彼女自身が罠にはまり、窮地に陥ってしまう・・・。

第2話では、女性の独居老人の「密室殺人」。また第3話は、猫を殺害するだけでなく、その遺体に青いペンキをかけるという「青猫事件」が起こりました。

実は、どちらも第1話同様、加藤さんの小説がベースになっていますが、かなりのアレンジを施してあります。

たとえば「密室殺人」編は、原作では被害女性が働いていた、消費者金融の人たちが事件に関わっていました。それがドラマでは小学校のPTAに変えてあり、消費者金融の店長はPTA会長になっています。そこから事件の背景に奥行きが生まれていました。

このドラマ、黒岩勉さん(『謎解きはディナーのあとで 』など)の脚本によって、原作小説の面白さが倍加されています。

さり気ない「現代性」

刑事ドラマというのは、見る側にどこか緊張感を強いるところがあるのですが、こんなにリラックスして見られる刑事ドラマも珍しい。

また、ひより(高畑)はヒロインであるにもかかわらず、決してリーダーではないし、「面倒くさいなあ」と思いながら、5人とつき合ったり、助けてもらっています。そのほど良い「距離感」も、ドラマとして巧みだと思います。

かつて、TBSは『七人の刑事』という集団刑事ドラマの名作を生んだわけですが、『メゾン・ド・ポリス』はいわば、ひよりを加えた『六人の刑事』です。それでいて集団というより、互いにリスペクトする個人の集まり、「ゆるやかな連帯」といった雰囲気が好ましい。

さらに、このドラマには、女性の働き方、パワハラ、熟年離婚、定年後の人生、シェアハウスという暮らし方、オトコの家事といった現代的テーマが、重くならず、そしてさり気なく散りばめられています。

最後になりましたが、ひよりを演じる高畑さんが、やはりうまいですね。演技のシリアスとコメディの配分が抜群で、おっさんたちのムチャぶりに困惑しながらも、彼らに助けられ、同時に彼らを元気にしているヒロインが、ピタリとはまっているのです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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