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小さな話題で振り返る、2018年の「テレビ界」

碓井広義メディア文化評論家
(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

今年も残りわずかとなりました。「あんなこと」や「こんなこと」があった2018年のテレビ界を、小さな話題で振り返ってみたいと思います。ということで、7月から12月までの「下半期編」です。

テレ朝が放送を見送った、朝日放送制作「幸色のワンルーム」

このドラマでは青年と女子中学生、それぞれの複雑な心理や葛藤が描かれていました。2人の関係性も含め、一般的な意味での『誘拐』と呼べるかどうかも見どころであり、単純に犯罪を美化するとはいえない内容でした。

自己規制で放送中止した場合、視聴者はこうした判断を行うことさえできません。さらにこのドラマは動画配信されており、全国で視聴可能です。期せずして、系列体制の意味も問われることになりました。

“章立てドラマ”の増加

連続ドラマの場合、第1回放送時には大きく宣伝できますが、それ以降なかなか告知することができません。しかし、“第2章スタート”などと銘打つことができれば、視聴者に対する注意喚起になりますよね。

視聴者も新しい物語が始まるとなれば、『ここから見始めてもいいんだ』と考える人も出てくるでしょう。また、制作サイドに対する刺激にもなります。不調のドラマが途中からでも巻き返すことに、多少なりとも寄与するのではないかと思います。

さくらももこさんの逝去

まる子は、決して品行方正なわけではなく、成績優秀でもありません。妬んだりひがんだりするなど、素直ではない部分もあります。ある種のズルさや嫉妬心といった毒も持ち、煩悩のような人間のダメな部分を体現しているのが、まる子です。

一方で、友だちを大事にし、家族が大好き。一面ではなく、人間が持っているウラオモテ両面がエピソードとして盛り込まれる。だからこそ、時代を超え、人間の普遍性がしっかりと表現されています。それが「ちびまる子ちゃん」が広く受け入れられてきた要因でしょう。

女優・柏木由紀、「西郷どん」に出演

柏木由紀さん、初めての登場シーンから、インパクトがありました。貧乏な西郷家の嫁ということでスッピン顔のボロ着姿。しかも妊婦で産気づき出産の場面まであった。とてもアイドルとは思えない役回りです。

セリフは棒読みで演技が上手いとはいえませんが、一所懸命さは伝わってきました。これまでもドラマに何本か出ていますが、今回はAKBの柏木由紀としてでなく一人の女優として挑戦しているのを感じました。

芦田愛菜、朝ドラ「まんぷく」の語り

芦田愛菜ちゃんは、2011年から、日清の『チキンラーメン』のCMに出演していました。ひよこの着ぐるみのかわいらしい姿が好評でしたが、今年はチキンラーメン誕生60周年。

しかも、そのCMキャラ『ひよこちゃん』は、ひよこの世界と人間界をつなぐ存在でもありました。まさにドラマの世界と視聴者をつなぐ存在の語りと同じ。この二重、三重のリンクに、すごいな、NHK大阪放送局と感じました。

さらに彼女は、11年の『江』で大河ドラマに出演。同年には『マル・マル・モリ・モリ!』で、『紅白歌合戦』にも鈴木福くんと一緒に出ました。14歳にして、NHKの3大看板番組を経験した女優さんになったとも言えます。

「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」芳根京子が助演女優賞

芳根京子さんはドラマ『高嶺の花』で、純真な女性が“愛すること”を知ったことで、みるみる豹変していく様を好演しました。前半と後半とで別人のような印象を与えたほどです。

石原さとみさん演じる姉と差別化しながら、自分の立ち位置、役割を果たしながら、芳根さんらしいところもしっかりと見せてくれました。

日テレの3冠王陥落 

日テレは90年代、当時トップを走っていたフジから王座を奪いました。その頃の日テレはフジを熱心に研究していましたが、いざトップに立つと、研究してまで乗り越えようとする目標がなくなってしまった。

現状維持が求められる中、視聴者も日テレの番組に慣れてしまい、刺激的でなくなってしまったのではないか。そんな中で、他局が日テレの番組作りや編成を研究し、追い付いてきたのでしょう。

「イッテQ」疑惑とバラエティーの演出

視聴者からみれば、エンドロールに名を連ねる以上、『現地』も番組制作陣の一員です。人気番組だからこそきちんと検証し、視聴者が納得できるように説明する責任を日テレは負っていたのですが・・・。

NHK受信料値下げ35円と「チコちゃんグッズ」

今年のビッグヒット「チコちゃんに叱られる!」。大人は知っていて子供が知らないという通常の構図を逆転させ、子供が大人をタジタジにさせる。設問が絶妙で、たしかに・・・と視聴者も考え始めてしまう仕組みをうまく作っています。

そして、私も欲しくなるもんなあ(笑)、チコちゃんグッズ。大ヒット間違いないと思います。商売が上手いですね、NHKは。

しかし、こと受信料となると、まったく視聴者のことを考えていません。数十円の値下げなら、ありがた感は全く無いし、むしろ番組の中身の向上に使ってもらってかまいません。

約400億円もの視聴者還元が月に数十円にしかならないのなら、テレビ草創期の街頭テレビじゃありませんが、4K・8Kがどれだけすごいのか、駅前にでも設置して見せてほしい。

もしくは、シールでもいいから「チコちゃんグッズ」を配布したほうが、視聴者はよっぽどありがたいかもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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