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『99.9―刑事専門弁護士―』シリーズは、「俳優・松本潤」の代表作になるか!?

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

「食わず嫌い」はもったいない『99.9』

ときどき、主演俳優がジャニーズ系と聞いただけで、そのドラマを「見ないよ」と言う大人に遭遇することがあります。しかも「自分の見識がそうさせるんだ」みたいな、ちょっとエラソーな態度だったりします。もちろん個人の自由ではあるのですが、そんなふうに即断するのは、もったいないと思うのです。

一昨年に続く第2シーズンを迎えた『99.9―刑事専門弁護士―』(TBS系)は、「食わず嫌いじゃ、もったいない」の典型でしょう。今回も嵐の松本潤さんが、ひょうひょうと真相を探っていく弁護士、深山大翔(みやまひろと)を快演しているからです。

『夏の恋は虹色に輝く』

実は、松本さん主演のドラマということで、思い出す1本があります。8年前、正確には7年半前でしょうか。2010年の夏クールで放送された、『夏の恋は虹色に輝く』(フジテレビ系)です。いわゆる「月9」枠でした。

確かに、ドラマはフィクションです。想像の産物であり、嘘話であり、絵空事です。どんな登場人物が、どんな行動をしようと、作り手の勝手かもしれません。「しかし、度合いってものがあるよね」とツッコミたくなったのが、このドラマの初回でした。

主人公は売れない二世俳優、楠 大雅(松本 潤)。憂さ晴らしにと、趣味としては“異色”のスカイダイビングをするのですが、ある日、パラシュートの“トラブル”で風に流されます。着地予定の場所から大きく外れ、“どことも知れない”森に降下。枝に引っかかって宙づりに。

しかし、その木の下は“ちょうど”道になっており、一人の女性(竹内結子)が“たまたま”通りかかります。彼女は“なぜか”ハサミを持っていて、青年のパラシュートのひもを切って助けてくれるのでした。よかった、よかった。

・・・多分、この20分間に及ぶオープニングを、「運命の出会い」とか、「劇的なめぐり逢い」として納得・感激・拍手できる者だけが、このドラマを見続ける資格を持っていたのだと思います。

何しろこの後も、“名前も知らない”女性との“再会”を期待した松本さんが海辺の町を訪ねれば、あら不思議、通行人の姿さえ見えない寂しい道路を、竹内さんが“偶然”自転車に乗ってやって来るではありませんか。まさに“運命の恋”か!? 

この初回、視聴者に「それはないんじゃないの?」と叫ばせた頻度で、月9の歴史に残ると思うのです。いや、怒ってはいません。呆れてはいましたけど。

つまり、せっかく「俳優・松本潤」を起用しても、脚本に書かれた人物像やストーリーがいいかげんだったり、陳腐だったりした場合、こうなってしまうという実例です。

『99.9―刑事専門弁護士―SEASON2』

さて、今回の日曜劇場『99.9―刑事専門弁護士―SEASON2』です。まず、シーズン1の時から出色だったのが、主人公である深山のキャラクターです。

深山は料理好きで、「マイ調味料」を持ち歩いています。料理の味は、わずか一振りの塩でも変化するわけで、それは担当する事案に対する、深山ならではの「細部へのこだわり」、そして「鋭い観察眼」に通じているかもしれません。

次に、無類の「ダジャレ」好き。ほんと、困ったなあと苦笑させられる、いっそアッパレなダジャレを連発しますよね。こちらは一見バラバラな、まったく「違う要素」を組み合わせ、「再構成」することで隠された事実を発見する、深山の能力に重なると思います。

深山の口癖は、「僕は事実を知りたいだけなんです」。その根底にあるのは弁護士としての正義感というより、子どものように純粋な、また並外れて旺盛な好奇心です。松本さんは、この深山のキャラを完全に自分のものにしているのです。

竜雷太さんがゲスト出演した第6話では、パラリーガルの明石(片桐仁)が自分の失敗をごまかそうとした様子をヒントに、犯人のトリックを見破っていきます。また、この殺人事件に過去の窃盗事件をからめることで物語はより重層的になっていました。

さらに先週の第7話でも、ある企業の社長(ヒャダイン)が、大金を持ったまま行方不明になった上、顧問弁護士を務める佐田(香川照之)が業務上横領幇助の容疑で逮捕されてしまう。社長秘書(比嘉愛未)の怪しい動きを視聴者に印象づけておきながら、深山がふと目をとめた小さな小道具で、事態は大きく動いていきました。

このドラマの脚本を書いているのは、シーズン1も手掛けた、宇田学さんです。佐田だけでなく、所長の斑目(岸部一徳)、同僚の尾崎(木村文乃)といった面々にも、それぞれの見せ場を配しながら、ドラマ全体のテンポの良さと中身の濃さを巧みに両立させている点が見事です。

よき脚本と、よき脇役陣を得た松本さん。前シーズン以上に、怪演すれすれの快演を見せています。そのエネルギーの源泉は、このドラマのどんな小さな仕掛けも見逃さずに楽しんでくれている視聴者です。

恐らく『99.9―刑事専門弁護士―』シリーズは、「俳優・松本潤」の代表作になるのではないでしょうか。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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