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木村拓哉主演『BG~身辺警護人~』は、キムタクドラマなのか!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

木村拓哉主演『BG~身辺警護人~』は、井上由美子さんのオリジナル脚本です。井上さんは『GOOD LUCK!!』(TBS系)、『エンジン』(フジテレビ系)など、木村さんの主演ドラマを何本も手掛けてきたベテラン。2人の久しぶりのタッグの舞台がテレビ朝日という点に注目です。

『アイムホーム』、そして『A LIFE~愛しき人~』

2015年、木村さんは『アイムホーム』(テレビ朝日系)で主演を務めました。このドラマでは、不安定な立場と複雑な心境に陥った男を見事に演じてみせました。

脚本も演出も脇役も、ひたすら木村さんをカッコよく見せることに奉仕するのが「キムタクドラマ」なら、『アイムホーム』は、いわゆるキムタクドラマではありませんでした。そこにいたのは「キムタク」ではなく、一人の俳優としての「木村拓哉」だったからです。

ところが、次に主演した『A LIFE~愛しき人~』(17年、TBS系)は、再びキムタクドラマへと後退してしまいました。心臓血管と小児外科が専門で、「海外仕込みの凄腕外科医」という設定だけで十分困ったのですが、肝心のスーパードクターが似合っていませんでした。SMAP解散後の第1弾ということもあり、肩に力が入っていたのかもしれません。

加えて、木村拓哉―竹内結子―浅野忠信による、10年越しの中年三角関係みたいな物語も、何やら気恥ずかしいものがありました。問題は脚本の凡庸さにあり、木村さん本人のせいではなかったのですが。

主人公と「重石(おもし)」

そして、今回の『BG』です。まず、刑事ドラマならぬ「警護ドラマ」としての骨格がしっかりしています。同じボディーガードでも、警視庁のSPと違って民間警護人には捜査権がありません。また銃などの武器を持つことができません。そのハンディをどう補い、いかにして対象者を守るのかが見どころになっています。

木村さんは、かつての失敗をトラウマとして抱えながらも、体を張って(度々痛い目に遭いながら)警護の責任を果たす主人公、島崎章を、抑制された演技で好演しています。支えているのは井上脚本と、警視庁SPの江口洋介さんや警備会社上司の上川隆也さんなどの存在です。

以前、脚本家の倉本聰さんにうかがった話があります。往年の日活は、石原裕次郎さんを役柄も社内での扱いも「大将」にすることで、ヒット映画を作り続けた。一方、東映は高倉健さんを「大将」にせず、必ず鶴田浩二さんなどが演じた「主人公にとって頭の上がらない存在」を置いたというのです。

倉本さんが、萩原健一さん主演の『前略おふくろ様』を書いた時、音楽界でスターだった萩原さんが、ドラマの中でも「大将」に見えることを避けるために、東映にならって、梅宮辰夫さんが演じた腕のいい板前・村井秀次を頭の上がらない人物、一種の「重石(おもし)」としたそうです。

また、鳶の小頭である妻吉(室田日出男)や、板前の先輩だった政吉(小松政夫)のように、主人公に対して理不尽にふるまう人物もいました。こちらも視聴者が心理的に萩原さんの味方になってくれるための仕掛けだったというのです。

『BG』は、キムタクドラマか!?

江口洋介さんも上川隆也さんも間違いなく実力派俳優であり、キャリアも役者としての格も文句のない方たちです。そんな2人の役柄が、このドラマでは「重石」の役割を果たしています。おかげで、今回の木村さんは『A LIFE』の時のような「大将」になっていません。少なくとも、そう見えないようになっています。

というわけで、木村拓哉が単なる「大将」である作品をキムタクドラマと呼ぶならば、『BG~身辺警護人~』はそうではありません。

不思議なもので、この「警護ドラマ」は、テレビ朝日という「刑事ドラマの本場」に、うまくなじんでいるように見えます。シリーズ化も、あるかもしれません。今週放送された第5回で、島崎章は「依頼人を守れなかった過去」というトラウマからも解放されました。後半戦では、ますます警護のプロとして難しい任務にも邁進していくでしょう。

一点だけ気になるのは、石田ゆり子さん演じる厚生労働大臣ですね。石田さんを見られるのは大歓迎なのですが、この大臣に島崎を関わらせる筋立てがやや強引で、毎回ヒヤヒヤします(笑)。脚本の井上由美子さんには、「ご都合主義にならないよう、そこんとこ、うまく運んでください」とお願いするばかりです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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