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『陸王』も終わって、2017年の「ドラマ」を振り返ってみると・・・

碓井広義メディア文化評論家
2017年歳末の夕景(筆者撮影)

クリスマスプレゼントのような、日曜劇場『陸王』(TBS系)の最終回もオンエアされ、2017年のドラマ界もフィナーレを迎えようとしています。1月から12月までに放送された「ドラマ」を振り返りながら、今年の「この1本」を選んでみたいと思います。

「ドラマのTBS」が復活か?

この1年、ドラマ界をリードしてきたのは、明らかにTBSでした。導火線となったのは、昨年10~12月に放送された『逃げるは恥だが役に立つ』です。新垣結衣さんと星野源さんが、契約結婚という新たな恋愛の形を絶妙な表現で提示していました。

その勢いを受けた今年の第1弾が『カルテット』(出演:松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平)です。緊張感のある台詞の応酬が見事でした。その後もTBSは、共感しづらいヒロインのW不倫のてん末を描いた『あなたのことはそれほど』(波瑠、東出昌大)など意欲作を連打してきました。

特に今期は、ドラマの王道感に満ちた日曜劇場『陸王』(役所広司、竹内涼真)。マニアックな笑いのクドカンドラマ『監獄のお姫さま』(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀、満島ひかり)。チーム医療のリアルを取り込んだ『コウノドリ』(綾野剛、吉田羊)という話題作3本が並びました。

これらは、よく練られた脚本と興味深い登場人物、さらに物語にふさわしいキャストに支えられており、その作り方は基本的に正統派です。またチーム半沢と呼ばれる、『陸王』の伊與田英徳や福澤克雄、『カルテット』の土井裕泰、『あなそれ』『監獄のお姫さま』の金子文紀といった力のある作り手たちによる、“署名性のあるドラマ”になっていることも特色です。「ドラマのTBS、復活」と言っていい1年でした。

半年間、毎日楽しめた2本の「昭和ドラマ」

今年のドラマ界で、大きな収穫の一つが『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)の出現でしょう。

現在のテレビを支える“大票田”でありながら、高齢者層はずっとないがしろにされてきました。このドラマは、自身も高齢者である脚本家・倉本聰さんが仕掛けた、高齢者による、高齢者のための、高齢者のドラマという一種の反乱、いや真昼の革命です。

第一の見所は、浅丘ルリ子、加賀まりこ、八千草薫といった大女優たちが見せる、ノスタルジーに満ちた“虚実皮膜”の人間模様。次に、長い間この国と芸能界を見続けてきた倉本さんが、物語の中に仕込んだ警句、鋭い社会批評、そしてテレビ批判でした。

それは介護問題からテレビ局の視聴率至上主義、さらに禁煙ファシズムとも言うべき風潮にまで及んでおり、何ともスリリングにして痛快でした。時代設定は現代ですが、描き出された世界観はまさに昭和であり、そのテイストはシルバードラマ第2弾『トットちゃん』でも継承されています。

『やすらぎの郷』と同時期に放送されたのが、NHK朝ドラ『ひよっこ』でした。ヒロインは、高校卒業後に東京で働き始める谷田部みね子(有村架純)。架空の人物であるみね子は「何者」でもないかもしれませんが、家族や故郷、そして友だちを大切に思いながら懸命に、そして明るく生きていました。いわば等身大のヒロインであり、だからこそ見る側は応援したくなったのです。

まだ戦後の影を残し、暮らしも社会も緩やかだった昭和30年代。「大阪万国博覧会」(同45年)が象徴する、経済大国へとこの国が変貌していく40年代。そのちょうど境目、東京オリンピックが開催された昭和39年から物語を始めたことで、私たちが何を得て、何を失ってきたのかを感じさせてくれました。昭和ドラマの真骨頂です。

2017年の「この1本」は!?

他に印象に残ったドラマを挙げるとすれば、日本テレビ系では、アラサー女子の恋と仕事に関する“勘違い”が笑えた『東京タラレバ娘』(吉高由里子)。また、“隣の美人妻”と“秒殺アクション”をダブルで楽しめた『奥様は、取り扱い注意』(綾瀬はるか、西島秀俊)もあります。

「月9」がどうにも振るわなかったフジテレビ系にも、『嘘の戦争』(草なぎ剛)や『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(小栗旬)、今期の『刑事ゆがみ』(浅野忠信、神木隆之介)といった異色の秀作がありました。

そうそう、忘れてはならないのは、テレビ東京系の「ドラマ24」枠です。今年も『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら』(大杉漣、遠藤憲一ほか)、『孤独のグルメ Season6』(松重豊)、『下北沢ダイハード』(古田新太ほか)など、深夜ならではの実験的で刺激的なドラマが続きました。

というわけで、もしも2017年の「この1本」を選ぶとすれば・・・。

豊作のTBS作品も捨てがたいのですが、今回は『やすらぎの郷』にしたいと思います。テレビ界に一つの風穴をあけたこと、新たな可能性を示したこと、何より82歳の現役脚本家・倉本聰さんの挑戦に敬意を表したいのです。

次点の第2位として、24日に終了したばかりの『陸王』を挙げます。これまで、もう十分に評価されていますが、こうなるぞと分かっていても、最後まで、見る側の感情を気持ちよく揺さぶってくれた手腕は、やはり大したものだからです。

そして第3位が『カルテット』です。見る側にとって、まさに“行間を読む”面白さがありました。ふとした瞬間、舞台劇を見ているような、緊張感あふれる言葉の応酬は、脚本家・坂元裕二さんの本領発揮でした。

それをオンエア時にリアルタイムで見ようと、録画などタイムシフトで見ようと、「いいドラマ」は見た人に必ず何かを残してくれます。来年もぜひ、早く続きが見たくて堪らないドラマ、ついクセになるような味わいのドラマが、1本でも多く現われてほしいと願っています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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