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脚本家・野島伸司が手掛ける「新作ドラマ」とくれば、見逃せない!?

碓井広義メディア文化評論家

脚本家・野島伸司が手掛ける「新作ドラマ」

「パパ活」という言葉、ご存知でしょうか。恥ずかしながら、私は最近まで知りませんでした。パパ活とは、「デートをするだけで金銭的援助をしてくれる男性との交際」で、「カラダの関係なし」なのだそうです。

とはいえ、「そんなオイシイ話、あるわけないだろう」というのが普通の反応かもしれません。それに、どことなく「女子中高生売春」を「援助交際」と言い換えるのと同じようなネガティブイメージがあります。

ですから、この言葉を、そのままタイトルにしたドラマ『パパ活』(dTV)が始まったと聞いても、当初は興味がわきませんでした。

しかし、これが脚本家・野島伸司さんの“新作”だということになれば、話は違ってきます。『パパ活』を見ようと、dTVにアクセスしました。現在、全8話のうち第4話までが公開・配信されています。

それは「パパ活」から始まった

主人公は成泉学院大学(渋谷にあるという設定です)に通う、20歳の女子大生・赤間杏里(飯豊まりえさん)。

父親は離婚して家を出ており、今度は母親に若い恋人ができたために家を追い出されます。女友達の部屋には泊めてもらえず、彼氏との関係もこじれて、ちょっとしたホームレス状態に。ネットカフェで寝泊まりしては授業に出ています。

ある日、友人が教えてくれた効率のいいバイトが「パパ活」でした。その友人が勝手に登録したパパ活サイトを通じて出会ったのが、45歳の大学教授・栗山航(渡部篤郎さん)です。自身が所有する隠れ家的な部屋に泊めてくれた栗山ですが、なんと杏里が所属する仏文科の先生でした。

そういえば仏文学者である栗山が、ドラマの中でフランス語の原書を読んでいます。表紙を見ると、作者名が「Laclos」で、書名は「Les Liaisons dangereuses」。これって、18世紀後半にフランスの作家コデルロス・ド・ラクロが書いた小説で、邦題は『危険な関係』です。

杏里は、栗山の部屋で暮すようになります。もちろん同居ではありません。部屋貸しというか、居場所を提供することが“支援”だという、「パパ」と「ムスメ」の危うい関係がスタートします。

栗山には妻・菜摘(霧島れいかさん)がいますが、2人の間には、10年前に10歳で事故死した娘をめぐって精神的な葛藤があります。また菜摘は夫を愛していながらも、栗山と共通の友人であり、彼女が勤める会社の社長でもある入江(橋本さとしさん)と肉体関係があります。

入江は、栗山と菜摘の両方を支える存在であり、そのことを栗山も菜摘もよくわかっているのです。このオトナたちの微妙なトライアングルは、さすが野島伸司さん!と言えるでしょう。

亡くなった娘が生きていたら同じ年齢で、同じ誕生日である杏里に、娘を投影している栗山。そのことを知った上で、少しずつ栗山に魅かれていく杏里。

パパ活をきっかけにした出会いは、2人が思ってもいなかった“歳の差恋愛”という方向へと、ゆっくり動き始めています。そう、このドラマは、パパ活というやや軽佻浮薄なタイトルとは裏腹に、結構ガチな恋愛ドラマなのです。

「飯豊まりえ」という逸材

そして、まず特筆すべきは、飯豊まりえさんの好演です。

現在、地上波の『マジで航海してます。』(毎日放送制作、TBS系)では、船を操縦する「航海士」を目指す女子学生をコミカルに演じている飯豊さんですが、『パパ活』の杏里のほうがより素に近いというか、自然体で演じているように感じます。

飯豊さんの魅力、それはフツーっぽさ(笑)。そして、(ご本人やファンには叱られそうですが)一種の「野暮ったさ」であり、(いい意味で)東京というより関東圏出身が似合う「素朴さ」です。「渋谷にあるおしゃれな大学の女子学生」というイメージに合わせて、自分が何者かを演じているような空虚感も知っている杏里が、ふとした瞬間、飯豊さんと重なって見えたりします。

栗山(渡部さん、適役)もまた、失った娘の“代役”探しを続けることのむなしさにも、妻が抱える深い闇にも気づいています。そんな2人だからこそ、今後の展開から目が離せないのです。

そうそう、このドラマはdTVとフジテレビの共同制作なのですが、エンドロールに、フジテレビの三竿玲子プロデューサーの名前を見つけました。三竿Pといえば、上戸彩主演のヒットドラマ『昼顔』です。「脚本家・野島伸司」と「昼顔プロデューサー」が組んだのがこのドラマだったと分かり、後半戦への期待がより高まりました。

そして、最後にもう一点。このドラマでは、美しいタイトルバックだけでなく、物語の随所に東京タワーが登場します。

東京スカイツリーではなく、東京タワーであることが、「パパ活」などという現代の社会現象を取り込んでいるにもかかわらず、どこか懐かしさを感じさせるこのドラマの恋愛模様を象徴しているような気がします。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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