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ギャラクシー大賞を受賞した、Nスペ「ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~」とは!?

碓井広義メディア文化評論家
NHK放送センター(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

6月1日、放送批評懇談会が主催する、第54回「ギャラクシー賞」の贈賞式が行われました。

この日に発表された、テレビ部門の「大賞」に輝いたのは、NHKスペシャル「ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~」でした。

ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)や「カルテット」(同)といった話題作、そしてドキュメンタリーの秀作「追いつめられた“真実”~息子の焼身自殺と両親の9年~」(毎日放送)などを抑えての受賞です。

日本人警官はカンボジアでなぜ“戦死” したのか?

NHKスペシャル「ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~」が放送されたのは昨年の8月です。扱われていたのは、1993年5月、カンボジアでPKO(国連平和維持活動)に参加していた日本人警察官が殺害された事件でした。

当時、カンボジア内戦の停戦を踏まえ、UNTAC(国際連合カンボジア暫定統治機構)の主導で民主的選挙が実施されました。この時、日本政府は自衛隊と警察官を派遣します。戦闘は停止されていたはずでした。

しかし、警察官たちはポル・ポト派とみられる武装ゲリラに襲撃され、高田晴行警部補(当時33歳)が命を落としたのです。

この番組では、生き残った警察官たちが、23年を経て初めて「何があったのか」を証言していました。彼らが体験したのは、停戦合意も戦闘停止も単なる建前に過ぎず、自分たちが標的となる“戦場”だったのです。

しかも当時、UNTACも日本政府も、この事件をポル・ポト派の仕業とは認めませんでした。あくまでも「正体不明の武装集団」であるとしたのです。また、この事件の後も、「要員の撤収も考えない」と明言しました。

番組で初公開された、現地で撮影された映像や警察官の日記は、カンボジアPKOの実態をよく伝えていました。戦うために行ったわけではない高田警部補ですが、その死は、まさに“戦死”だったのです。

戦後の安全保障政策は、現政権下で、すでに大転換を遂げています。“戦死”が特殊な出来事とは言えなくなる社会にならないためにも、今、私たちが23年前の“真相”から学ぶべきことは、少なくありません。

今回の受賞を機に、この番組があらためて再放送され、多くの人に視聴してもらうことを願います。それは高田警部補に対する、ささやかなご供養にもなるはずです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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