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見ないで終わるのはモッタイナイ!「冬ドラマ」最終案内

碓井広義メディア文化評論家

今期の連続ドラマも、それぞれゴールが迫ってきました。このまま見ないで終わるのはモッタイナイと言える「冬ドラマ」を3本、ご紹介します。

●オトナの男のための恋愛ドラマ

「東京センチメンタル」テレビ東京系

「東京センチメンタル」の主人公・久留里卓三は、55歳になる和菓子屋店主だ。職人としての腕はいいが、かなりの女好き、というかホレっぽい性格。離婚歴ありで、しかもバツ3。これを“平成のモテ中年男”吉田剛太郎が演じているところが絶妙だ。

基本的には、毎回いろんなタイプの美女にホレて、結局はフラれる。だから、つい「男はつらいよ」の寅さんを思い浮かべる人もいるだろう。だが、ちょっと違う。寅さんが無意識のうちに恋をしてしまう“恋愛の天才”だとすれば、卓三は自意識過剰な“恋愛の凡人”。いや、だからこそ世の男たちも共感できるのだ。

これまでの中で、傑作の1本が「新井薬師の恋」である。昔、修業をしていた老舗の和菓子屋から閉店の知らせが届く。現在の店主は先代の娘で、かつて隠れて交際していたこともある、みずほ(床嶋佳子)だ。卓三は、彼女から父親の味を再現して欲しいと頼まれる。

卓三への思いを持ちながら、直接伝えることのできないみずほ。それを感じながらも、応えることができない卓三。互いに大人だからこそ、一度失った恋を取り戻すのは難しいんだよなあ。

和服姿の床嶋佳子が、せつなくも美しかった。また別の回では、イタリアから一時帰国したヴァイオリニスト役の奥貫薫もよかった。今どきの、いわゆる旬の女優ばかりが女優ではないのだ。

●”演技道場”で頑張る桐谷美玲

「スミカスミレ」テレビ朝日系

「スミカスミレ」は、確かに奇想天外な物語だ。65歳の独身女性・如月澄(松坂慶子)が、突然20歳の頃の容姿に戻り、如月すみれ(桐谷美玲)として学生生活を送るというのだから。

とはいえ、同じ「金曜ナイトドラマ」枠で昨年放送された「民王」のように、総理大臣とそのバカ息子、別々の人格が入れ替わったわけじゃない。あくまでも本人だ。松坂は「彼氏いない歴65年の老嬢」を、松坂らしく演じていればOKである。

しかし、桐谷は違う。「中身は松坂が演じる65歳」の女子大生を演じるのだ。本当の年齢を悟られてはいけないと、懸命に“今どきの20歳”のフリをする。しかも澄は一般的な65歳と比べると、異様なまでに古風というか、浮世離れしている。

この見た目と中身のギャップから笑いやドキドキが生まれるわけで、桐谷は、いつも視聴者に澄(松坂)の存在を意識させる形で演技を組み立てなくてはならない。実は「NEWS ZERO」(日テレ系)の“キャスター役”より、よほど難しいのではないか。そう、これは桐谷にとって“演技力養成ギプス”、もしくは“演技道場”ともいうべきドラマなのだ。

また、強力な助っ人も桐谷を支えている。澄の若返りを図った化け猫役の及川光博だ。持ち前の妖しさと、「相棒」で鍛えられたサポート力を駆使。松坂と桐谷をつなぐインターフェイスとして見せ場を作っている。

●亀梨和也のヤンチャぶりを楽しむ

「怪盗山猫」日本テレビ系

怪盗アルセーヌ・ルパンの孫が活躍する「ルパン三世」、「名探偵コナン」のライバルとして人気の怪盗キッドなど、日本テレビと“怪盗”は相性がいい。ドラマ「怪盗山猫」(日本テレビ系)も、その系譜を継ぐ一本になりそうだ。亀梨和也がヤンチャな怪盗を喜々として演じている。

原作は神永学の「怪盗探偵山猫」シリーズ。悪いやつから金を盗むだけでなく、悪事も暴いてしまうダークヒーローである。

脚本の武藤将吾は映画「テルマエ・ロマエ」などで知られているが、原作を生かしながら人物を巧みにデフォルメしていく。このドラマにおける山猫も、生意気で自信満々なところは原作通りだ。しかし、武藤はそこに一見ハチャメチャな“おふざけ”キャラを加えた。

仲間の里佳子(大塚寧々)や勝村(成宮寛貴)や真央(広瀬すず)などといる時の山猫は、まるで手のつけられない悪ガキみたいだ。この増幅キャラのおかげで、山猫の本性は容易につかめない。視聴者の「コイツ、本当は何者なんだ?」という興味が持続していく。それは大塚寧々や広瀬すずなど女性陣も同様で、結構謎だらけだ。誰と誰が裏でつながっているのか、その意外性も物語を刺激的にしている。

そうそう、女性刑事役の菜々緒が意外や大健闘だ。クールさと可愛さの合わせ技なら、今、彼女にかなう者はいないかもしれない。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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