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見ないで終わるのはモッタイナイ!オトナの男にオススメする、異色の「地元ドラマ」

碓井広義メディア文化評論家

冬ドラマも終盤に入り、視聴率争いではそれぞれに明暗を分けている。だが、そんな中で、一種超然とした異色作がある。オトナの男にオススメしたい、「地元ドラマ」とも言うべき2本だ。

●「限界集落株式会社」NHK

過疎と高齢化が進み、社会的な共同生活を維持することが困難になった地域。それが「限界集落」だ。何て秀逸な、そして悲しい呼称だろう。

NHK土曜ドラマ「限界集落株式会社」の舞台である「止村(とどめむら)」も、まさに限界ギリギリの状態だ。農家の老人たちの、ある者は病に倒れ、またある者は村を去っていく。

そんな地元に帰ってきたのが大内正登(反町隆史)。かつて有機農業の夢に破れ東京へと逃げた正登だが、母親(長山藍子)や娘の美穂(松岡茉優)と共に、再び農業にトライしようというのだ。

もう一人、突然この村に現れたのが経営コンサルタントの多岐川優(谷原章介)だ。村人たちに向かって「農業はやり方次第で儲かる」と説き、さまざまなアイデアを実践してみせる。もちろん簡単に成功はしないが、地元で働き、暮らすことへの可能性を示した。

原作である黒野伸一の同名小説では多岐川が主人公だが、ドラマでは正登を主軸としている。両者をつなぐのが美穂だ。この3人の個性と配置のバランスが功を奏して、地域活性という地味なテーマが堂々のエンターテインメントになっている。

出演者の中では、「あまちゃん」で注目された松岡茉優がハマリ役だ。フジテレビ系で放送中の「問題のあるレストラン」といい、このドラマといい、こんなにも“屈折女子”が似合う若手女優はいない。

28日(土)には最終回を迎えるが、果たして松岡は限界集落のジャンヌ・ダルクとなれるのか。

●「山田孝之の東京都北区赤羽」テレビ東京系

山田孝之はカメレオン俳優だ。ある時は脱力系ヒーロー・勇者ヨシヒコ、またある時はコワモテの闇金・ウシジマくんと化す。さらに缶コーヒーのCMでは、何十種類もの“働く男”を飄々と演じ分けてしまうのだ。

そんな山田が主演映画の撮影中、演技が出来なくなって製作中止。山田は現場を去る。そして、たどり着いたのが地元感満載の北区赤羽だ。1Kのアパートに住み、清野とおるの漫画「ウヒョッ! 東京都北区赤羽」に登場する実在の赤羽人と交流していく。それが昨年夏のことである。

「山田孝之の東京都北区赤羽」(テレビ東京系)は、山田が“地元”赤羽で過ごしたひと夏を追ったドキュメンタリー・ドラマだ。あくまでもドラマであり、「向こう10年、役者を休業」といった発言も、いわばセリフである。ただ山田が言うと、“俳優としての悩み”にも不思議なリアリティが生まれるから面白い。

実在の場所と実在の人物たちでありながら、どこまでが「実」で、どこからが「虚」なのか。その境界部分を探りながら見る楽しさが、このドラマにはある。先日は「山田を心配する」大根仁監督も登場したが、これまた虚実皮膜の素顔と本音に大笑いした。

“連続ドキュメンタリードラマ”などというトリッキーな離れ業は、山田孝之と山下敦弘監督とテレビ東京でなければ成立しなかっただろう。見ておくなら今のうちだ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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