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後半戦突入!「オトナの男」にオススメの今期連続ドラマは?

碓井広義メディア文化評論家

全体的に低調だった前クールに比べて、今期の連続ドラマには活気がある。少なくとも「オトナの男」が見てもいい物件がいくつかあるからだ。

●『MOZU~百舌(モズ)の叫ぶ夜~』(TBS)

今クールの特徴として、刑事ドラマが8本も並び、まさに乱立状態となったことが挙げられる。

制作側がこのジャンルを好む理由はいくつかある。まず、人の生死に関わるためドラマ性が高い。次に個性的なキャラクターを作りやすい。そして一話完結形式が視聴者に好まれることなどだ。

そんな中での注目は、木曜夜9時枠で裏表となっている2本である。

1本目は『MOZU~百舌(モズ)の叫ぶ夜~』(TBS)だ。銀座界隈で爆弾テロが起き、犠牲者の中に公安部特務第一課の倉木(西島秀俊)の妻・千尋(石田ゆり子)がいた。

妻の死の謎を解くべく動き出す倉木、現場に居合わせたという公安の女性刑事(真木よう子)、公安を目の敵にする捜査一課の大杉(香川照之)と役者は揃っている。一昨年の『ダブルフェイス』と同様、WOWOWとの共同制作であり、演技も映像も優れた海外ドラマのような本格派といっていい。

ただ、ストーリー展開としては、話が複雑すぎるかもしれない。テロ組織vs.警察、刑事部vs.公安部、西島vs.香川、テロ組織vs.テロリストなどいくつもの対立軸があり、重層的に絡み合うためだ。

もともと逢坂剛の原作小説自体が、決して読みやすいものではない。むしろ読者がその迷路のような“見通しの悪さ”を楽しむタイプの作品なのだ。

小説の場合は、必要なら前に戻って読み返せばいい。筋立てや人間関係の確認もできる。しかし、テレビドラマはそれができず、前にしか進めない。途中でついていけなくなれば、リタイヤする視聴者も出てくるだろう。これは、視聴者のせいではない。脚本が、広げた風呂敷を十分に整理できていないのだ。

それでも、このドラマには、見ないではいられない魅力がある。人間の善と悪、表と裏、日常では隠された業(ごう)や性(さが)のようなものまでが描かれているからだ。西島秀俊の肉体美を披露するためか、やたらと裸になるシーンが多い演出は困りものだが、大人が見てもいい1本であることは確かだ。

●『BORDER』(テレビ朝日)

スタイリッシュな映像が話題を呼んでいる、ペプシネックスゼロのCM。10日から「桃太郎 エピソード・ゼロ」篇に続く、「エピソード1」の放送が始まった。桃太郎を演じているのは小栗旬だ。

今回は鬼が島の住民を襲う「巨大な鬼の一族」に戦いを挑む以前の物語が展開されているが、この連続CMにおける小栗がいい。ハリウッド製VFXアクション映画の主演俳優のような存在感があるのだ。

そんな小栗が主演する「BORDER」(テレビ朝日)は、「MOZU」と同じ木曜夜9時枠で、同じ刑事ドラマとして真っ向勝負となった。

実は放送開始前、「死者と対話できる特殊能力をもつ刑事」のドラマと聞いて、やや引いていた。しかし、事件の被害者である死者たちが、結果的に主人公を通じてその無念を晴らすという構造は、意外や快感だったりする。 

普通、刑事ドラマにおける被害者は死亡後、回想シーンでもなければ、ほとんど出番がない。しかしこのドラマでは小栗に語りかけ、捜査をサポートする重要な役割をもつ。しかも悲願のリベンジを果たせるのだ。

いわば「突拍子もない話」であるこのドラマを成立させているのは、原案だけでなく、脚本も手掛ける直木賞作家・金城一紀のお手柄だろう。一話完結形式でもあり、『MOZU』のテイストが自分に合わないと思う人にはオススメだ。

●『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS)

今クールは、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ)と『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS)という、池井戸潤原作のドラマが2本登場した。これはもちろん昨年放送された池井戸氏原作の『半沢直樹』の大ヒットを受けてのことだ。

池井戸作品には企業小説と呼ばれるものが多い。しかし、主軸はあくまでも企業内の人間模様であり、そこで展開される人間ドラマである。また、山あり谷ありの起伏に富んだ物語構成と、後味(読後感)の良さも池井戸作品の持ち味だ。その意味でドラマとの相性がとてもいい。

『ルーズヴェルト・ゲーム』は、中堅の精密機器メーカーが舞台だ。大手の下請けとして成り立っていることもあり、経済情勢だけでなく、発注元の思惑にも揺さぶられている。社長の細川(唐沢寿明)が、いかにして苦境を脱していくかが見どころだ。

このドラマの特色として、企業ドラマであると同時に、野球ドラマでもあることが挙げられる。社会人野球がきっちり描かれるドラマというのは珍しく、異色のスポーツ物にもなっている。会社のお荷物的な存在である野球部が、会社と同様、「逆転勝利」をつかむことができるのか。こちらは、放送が4月末からという遅いスタートだったこともあり、今からでも十分追いつける。

●『ロング・グッドバイ』(NHK)

浅野忠信主演のNHK土曜ドラマ『ロング・グッドバイ』。よもや「原作=レイモンド・チャンドラー」の文字を日本のドラマで見られるとは思わなかった。

細かい説明はないから、ここはどこ?時代はいつ?と思うかもしれない。原作のハードボイルド小説『長いお別れ』が米国で刊行されたのが1953(昭和28)年。敗戦からの復興を経て、日本でテレビ放送が始まったこの頃が舞台だ。

ドラマの中にも「新聞社や出版社を複数抱え、テレビ局までつくった」という大物実業家(柄本明)が登場する。私立探偵の浅野はこの巨魁と対峙していく。

一見、無国籍な街のたたずまい。丸みを帯びたデザインのクルマ。ずっしりと重そうなダイヤル式電話機。三つ揃えに帽子の男たち。そして、誰もが当たり前のように燻らすタバコの煙。思わず「うーん、いいねえ」とオトナの男は唸ってしまう。

演出は『ハゲタカ』『外事警察』の堀切園健太郎。音楽はその盟友で、『あまちゃん」の大友良英。日本にマーロウを現出させようという、素敵な“暴挙”に拍手だ。

とはいえ、全5回ということで、残念ながら17日(土)が最終回。“浅野マーロウ忠信”の佇まいを、ぜひ記憶にとどめていただきたい。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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