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奪三振率のAとB。昨年の9イニング平均はダルビッシュ有が前田健太を上回るが、もう一方の数値では…

宇根夏樹ベースボール・ライター
前田健太(ミネソタ・ツインズ) Sep 5, 2020(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 奪三振の割合には、2つの指標がある。そのうち、よく知られているのは、9イニング平均の奪三振率だ。27アウト(1イニング3アウト×9イニング)に占める、奪三振の割合を表す。計算式は、奪三振×9÷イニングだ。

 もう一方は、打者と対戦した結果に占める、奪三振の割合を表す。こちらの計算式は、奪三振÷対戦打者だ。

 9イニング平均の奪三振率は「K/9」「K9」「SO/9」「SO9」、対戦打者に占める奪三振の割合は「K%」「K/PA」「SO%」「SO/PA」と表記する。

 2014年6月11日の試合で、ダルビッシュ有(当時テキサス・レンジャーズ/現サンディエゴ・パドレス)は9イニングを投げ、打者32人と対戦し、10三振を奪った。この登板のK/9は10.00(=10×9÷9.0)、K%は31.3%(=10÷32)だ。

 1イニングに3人の打者と対戦し、いずれも奪三振でアウトを記録すると、このイニングのK/9は27.00(=3×9÷1.0)、K%は100.0%(=3÷3)となる。一方、6人の打者と対戦し、被安打、被安打、奪三振、与四球、奪三振、奪三振で1イニングを終えた場合、K/9はこちらも27.00だが、K%は50.0%(=3÷6)だ。

 打率と被打率のように、K%は打者の三振率(三振÷打席)と対を成す。考え方はわかりやすく、計算式もK/9より単純だ。

 にもかかわらず、K%があまり普及していないのは、K/9が先に広まったことと、防御率が大きな理由ではないだろうか。防御率は、9イニング平均の自責点を表している。K/9も、9イニング平均という点は防御率と共通する。ちなみに、与四球の割合を示す指標も、BB/9とBB%の2つが存在するが、それぞれの普及度は奪三振の割合と同様だ。

 日本語の場合は、名称の問題も絡む。打者のK%が「三振率」なら、投手のK%は「奪三振率」とすべきところだが、すでにこの名称はK/9に用いられている。考えてみたのだが、「奪三振率」と同じくらいの長さで、ふさわしい名称は思い浮かばなかった(いい名称があれば、教えてください)。

 2020年の奪三振率トップ15(60イニング以上)には、K/9もK%も同じ投手がランクインしている。2019年のトップ15(162イニング以上)も、15人中13人は同じ投手だ。トップ10に限れば、顔ぶれはどちらも変わらない。これもまた、K%が普及しない理由の一つだろう。ほとんど同じであれば、これまで用いてきた指標をわざわざ別の指標に置き換える必要は生じない(あるいは、感じない)。

 ただ、ほとんど同じでも、まったく同じではない。例えば、2020年のダルビッシュ(当時シカゴ・カブス)と前田健太(ミネソタ・ツインズ)を比べると、いずれも僅差ながら、K/9は11.01のダルビッシュが10.80の前田を凌ぎ、K%は32.3%の前田が31.3%のダルビッシュを上回る。

筆者作成
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 これは、ダルビッシュと前田に限ったことではない。なかでも、マックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ)は、その差が顕著だ。K/9のランキングで、12.30のシャーザーのすぐ上とすぐ下にいる、12.33のトレバー・バウアー(当時シンシナティ・レッズ/現ロサンゼルス・ドジャース)と12.13のディネルソン・ラメット(パドレス)が、どちらも35%前後のK%を記録しているのに対し、シャーザーのK%は31.2%にとどまる。

 なお、2020年に60イニング以上を投げた40人の平均は、K/9が9.36、K%は25.4%。2019年に162イニング以上を投げた61人の平均は、K/9が8.89、K%は23.6%だった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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