トミー・ジョン手術を受ける選手が、その前に1度だけ打席に立った理由
故障者リストに入っていた選手が、トミー・ジョン手術を受ける前にプレーすることは、まずない。大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)は、手術を決断後、野手として数試合に出場したが、その時点で故障者リスト入りはしていなかった。
けれども、「カンフー・パンダ」は違った。
パブロ・サンドバル(サンフランシスコ・ジャイアンツ)は、右肘を痛め、8月14日に故障者リストへ入った。その10日後、ジャイアンツは、サンドバルがトミー・ジョン手術を受けることを発表した。それについては、「パンダがトミー・ジョン手術を受ける。来シーズンは浪人か」で書いた。
ところが、9月1日、手術を3日後に控えたサンドバルは、故障者リストから外れ、ロースターへ戻ってきた。そして、この日の試合で、代打として打席に立った。
ジャイアンツのブルース・ボウチー監督は、今シーズン限りで引退する(「名将が今季限りで勇退。通算2000勝に到達できなくても、殿堂入りは間違いなし」)。サンドバルが手術直前に復帰したのは、そのためだ。
ボウチーは、2007年からジャイアンツを指揮している。サンドバルは、2008年の夏にジャイアンツからデビューし、ボストン・レッドソックスで過ごした2シーズン半(2015年から2017年の夏まで)を除き、ボウチーが率いるジャイアンツでプレーしてきた。
また、サンドバルは今オフにFAとなる。自身も、退団が濃厚だ。打席に向かうサンドバルに対し、オラクル・パークの観客は立ち上がり、拍手を送った。
初球を見逃し、サンドバルは2球目をスウィングした。ボールは力なく転がり、捕球した三塁手から一塁手へ送球された。ただ、この場合、結果は問題ではない。三塁側のダグアウトへ戻るサンドバルを、観客は拍手で称えた。
この打席は、2012年のワールドシリーズ第1戦で記録した3打席連続ホームラン(写真)や、「カンフー・パンダ」のニックネームを生んだ数々のプレーとともに、サンドバルの「名場面」して記憶されるに違いない。