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モリーナの故障を受けてカーディナルスが獲得したのは、モリーナではなかった

宇根夏樹ベースボール・ライター

モリーナ兄弟がチームメイトになる――。この夏はわずかながら、その可能性が生じた。

始まりは、ヤディアー(セントルイス・カーディナルス)の怪我だった。7月9日の試合で、ヤディは右手親指の靭帯を損傷し、2日後に手術を受けた。復帰までは8~12週間かかる見込みで、シーズン絶望の惧れもある。カーディナルスは捕手の穴埋めをする必要に迫られた。

一方、ホゼがいるタンパベイ・レイズは、ヤディが離脱した時点で地区最下位に沈んでおり、ペナントレースから脱落しかけていた。レイズがホゼを放出しても、その相手が――ベンジーが一塁コーチを務めるテキサス・レンジャーズはないとはいえ――ヤディのいるカーディナルスであってもおかしくなかった。

ベンジー、ホゼ、ヤディの捕手3兄弟のうち、ヤディが兄たちとチームメイトになったことはないが、ベンジーとホゼは2001~05年にアナハイム/ロサンゼルス・エンジェルス(2005年より名称変更)で一緒だった。2005年は162試合のうち153試合で、兄弟のどちらかがスタメンマスクをかぶった。

だが、カーディナルスは7月11日に、クリーブランド・インディアンスからウェーバーにかけられていたジョージ・コッタラスを獲得した。続いて26日には、10日前にボストン・レッドソックスを解雇されたばかりのA.J.ピアジンスキと契約し、コッタラスを40人ロースターから外した。

カーディナルスは今後も捕手を獲るかもしれない。しかし、その場合は、現在よりもグレードアップしなければ意味がない。ヤディまではいかずとも――そもそも、ヤディに匹敵する捕手は稀少だ――安心して正捕手を任せられることが条件になる。

となると、ディフェンスは優秀でも打撃はからっきしのホゼは失格だ。あるとすれば、カート・スズキ(ミネソタ・ツインズ)だろう。ツインズは低迷しており、スズキはシーズン終了後にFAとなる。ツインズとスズキは契約延長の交渉をしているものの、両者の条件は隔たっているようだ。

ホゼを取り巻く状況も様変わりしている。レイズは7月12日から26日にかけての9連勝によって息を吹き返しており、ホゼのみならずデビッド・プライスやベン・ゾブリストも放出せず、ポストシーズン進出に向けて戦っていきそうだ。

かくして、2014年にモリーナ兄弟がチームメイトとなる可能性は消滅した。

あとは、モリーナ兄弟がワールドシリーズで対戦するかどうか。

7月23日にレイズとカーディナルスが対戦した際、1回裏が始まる前に、三塁コーチのホゼ・オケンドーは一塁側ダグアウトからコーチ・ボックスへ向かう途中で、チーズ・クラッカーを2包み、ホームプレートの上に置いた。これは、ヤディからホゼへのささやかなプレゼントだ。ホゼはパンツの後ろポケットに包みを入れ、そのままプレーした。

こんなやりとりも微笑ましくていいが、ワールドチャンピオンをかけて、モリーナ兄弟が互いにホームプレートを死守する姿も見てみたい。彼らは3人とも、ワールドシリーズを経験していて、優勝も味わっている。だが、同じ年のワールドシリーズにモリーナ兄弟が出場したのは、ベンジーとホゼがエンジェルスにいた2002年だけ。ワールドシリーズでのモリーナ兄弟の対戦は、まだ実現していない。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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