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誰が優勝しても“番狂わせ”? 今年の『M-1』ファイナリストは全組“型破り”

てれびのスキマライター。テレビっ子
番組公式PV「M-1グランプリ2022×ウルフルズ『暴れだす V』」より

いよいよ本日放送される『M-1グランプリ2022』(朝日放送・テレビ朝日)の決勝戦。

「誰が優勝しても違和感がある」

決勝進出者発表会見でかまいたち山内が放った一言が、この決勝を端的にあらわしているといえるだろう。近年はよく「本命なき大会」などと言われることもあったが、そうした中でもある程度、有力どころはいた。しかし、今年は誇張なしに意外性のあるコンビばかりが残った「本命なき大会」だ。

今年は予選から波乱が続出した。昨年のファイナリストのももが3回戦敗退する驚きは序章にしかすぎず、準々決勝では、ラストイヤーだった阿佐ヶ谷姉妹、見取り図、ランジャタイ、金属バット(ワイルドカードで復活)らが落選。昨年決勝に進出したモグライダー、インディアンス、ゆにばーすらも敗れ、準決勝では優勝候補筆頭と目されていたオズワルドらが敗退したのだ。

決勝初進出が5組、それ以外も2度目のファイナリストで、いわゆる“常連組”不在。誰が優勝しても「アップセット」と言われそうなメンバーだ。まさに本大会のキャッチコピー「漫才を塗り替えろ。」を体現している型破りで「ヤバい」コンビばかりだ。事実、決勝進出者発表会見はさながら大喜利大会と化しカオスな状態になっていた。

そんな2022年の『M-1』ファイナリストの経歴や関係性等を今一度振り返ってみよう。

コントとの「二刀流」コンビの進撃

昨年に続き2年連続の決勝となるのはわずか2組。そのうちの1組が、ロングコートダディだ。昨年は4位で惜しくも最終決戦に残ることができなかったが、漫才中のフレーズ「肉うどん」がトレンド入りするなどインパクトを残した。堂前は『座王』でも100勝以上が手にするゴールドビブスを所持するオールマイティな実力者。今年は『キングオブコント』でも2020年に続き決勝進出しており、歴代でも数少ない同一年でのダブルファイナリストに。賞レース決勝の経験値はメンバー随一といえるだろう。

今年の大きな傾向のひとつとしてロングコートダディのように、コントとの「二刀流」のコンビが目立つことだ。彼らの“盟友”ともいえる男性ブランコもその1組。男性ブランコはロコディの2期後輩だが、大阪時代、「一緒にやりましょう」と声をかけ、1時間で新ネタを4本ずつおろし、ユニットネタ、VTRでのネタ披露もするというストロングスタイルのユニットライブをしていた仲。準決勝で敗退し、敗者復活に回ることになった今年の『キングオブコント』王者ビスケットビラザーズとも男性ブランコは同期だ。ちなみに「よしもと漫才劇場(通称マンゲキ)以前・以後」で「西の二刀流」が増えているとハナコ秋山は指摘している(『見取り図じゃん』22年12月5日)。マンゲキは開始当初、“コント禁止”で漫才重視だったため、本来コント師だった芸人も漫才が鍛えられたのではないかと。

そのマンゲキに所属し、現在もロングコートダディらと切磋琢磨しているのがカベポスターだ。2022年は「ytv漫才新人賞」と「ABCお笑いグランプリ」という関西の2大若手登竜門タイトルを同年ダブル優勝という史上初の快挙を達成し、松本人志をして「安定の面白さ」と言わしめた。これらの賞レースで強いネタを使ってしまっているという不利な部分もあるとは言えるが、全国的にはまだまだ知られていないためインパクトを残しやすいという利点もあるだろう。実績的には申し分ないコンビだ。

そして、ロングコートダディ同様、同一年のダブルファイナリストになったのがヨネダ2000。こちらは史上初の『THE W』とのダブルファイナリストだ。『THE W』では、2本ともコントで戦い準優勝を果たしたため、彼女たちも「二刀流」といえるだろう。

女性コンビが決勝進出を果たしたのは2009年のハリセンボン以来13年振りの快挙。もし優勝すれば女性として初、さらに最年少記録の更新となる記録ずくめ。まさに規格外な彼女たちにふさわしい。今夜は不条理な彼女たちの世界に連れて行ってくれるに違いない。

大学お笑いサークル出身者の飛躍

2年連続決勝進出コンビのもう1組が真空ジェシカ。昨年の決勝進出によりバラエティ番組への出演が急増したが、常にトリッキーなボケを繰り返し、物議を醸してきた。当初は炎上騒ぎにもなったが、最近では彼らのキャラクターが受け入れられた感があるため、『M-1』でもハマり大爆笑を生む土壌はできあがったといえる。

真空ジェシカといえば、川北は慶應義塾大学「お笑い道場O-keis」、ガクは青山学院大学「ナショグルお笑い愛好会」出身という昨今、賞レースで好成績を収め注目される大学お笑いサークル出身者で人力舎に“スカウト”されたエリートでもある。大学お笑いサークルの老舗である早稲田大学「寄席演芸研究会」(通称ヨセケン)出身の山田邦子が審査員に新たに加わった今年、いよいよ彼らが本領発揮する大会になるかもしれない。

同じくダイヤモンドの野澤も明治大学「木曜会Z」も大学お笑いサークル出身。そのダイヤモンドは、昨年の『おもしろ荘』(日本テレビ)で「コーヒーのサイズ」をリズム良く繰り返すネタを披露して優勝し話題を集めた。『M-1』には、2018年から4年連続準々決勝進出を果たすも、準決勝の壁は高く阻まれていたが、ネタの作り方から衣装まですべてを変えて挑んだという今年、一気に決勝に進出することになった。

2017年の決勝進出から5年を経て返り咲いたのがさや香だ。最初の決勝でつけられたキャッチフレーズは、麒麟(2001年)、千鳥(2003年)、スリムクラブ(2010年)と同じ「無印(ノーマーク)」。いわゆる「麒麟枠」を象徴する伝統のキャッチフレーズを背負い挑むも7位。その後はダイヤモンド同様、準々決勝敗退を重ねたが、昨年は準決勝進出。敗者復活戦では、「からあげ4(よん)!」と叫び爪痕を残した。また、2020年には『歌ネタ王決定戦』で優勝も果たした。今大会では数少ないハイテンションで「陽」のしゃべくり漫才だけに好成績が期待される。ちなみにダイヤモンド小野とさや香の石井は、それぞれ前のコンビ時代に「ジャンピング☆ブラザーズ」というユニットを組んでいたという縁もある。

タイタンの躍進

今年のファイナリスト発表で大きな驚きを与えたのは、タイタンから2組が選出されたことだろう。吉本以外の事務所から複数のファイナリストが出たのは第1回と第2回の松竹芸能以来。しかもタイタンは少数精鋭の事務所だからよりインパクトがあった。

その1組であるウエストランドは、「今回のファイナリストの中では、僕らが一番悔しさを知っている」と井口が胸を張るとおり(「お笑いナタリー」22年12月9日)、ここまで苦渋をなめ、泥臭く戦ってきたコンビだ。

デビューして早くから『THE MANZAI』の「認定漫才師」になるなど注目を浴びた彼らは、2013年には『笑っていいとも!』(以上、フジテレビ)の隔週レギュラーにもなった。しかし、ここから不遇の時代が続き、井口のぼやきは加速する。2020年に遂に『M-1』ファイナリストになるも、本人曰く「(最下位の)10位よりもウケていない9位」に沈んだ。逆境が似合う彼らは、その悔しさを爆発させたぼやき漫才を見せてくれるに違いない。

ウエストランドとともに決勝進出となったのが、SMA、オフィス北野からフリー時代を経てタイタンに所属したキュウだ。間をたっぷり使ったスローなテンポと独特な佇まいで見るものを釘付けにする漫才は、麒麟・川島やスピードワゴン・小沢を筆頭に先輩芸人が「好きな芸人」として挙げることが少なくない。一昨年の敗者復活戦では「ゴリラであいうえお作文」のネタが大きな話題にもなった。決して手数が多くない漫才は『M-1』では不利な部分もあるが、それだけにハマれば逆にインパクトは絶大(参考:「めっちゃええやん」芸人はどうやって観客を自分の世界に引き込むのか)。爪痕を残すのは、間違いない。他のコンビ以上に、笑神籤で決められる出番順が大きな鍵になりそうだ。

激戦の敗者復活戦

知名度でいえばファイナリストを凌駕する敗者復活も激戦だ。優勝候補筆頭といわれたオズワルドが勝ち上がれば、そのまま「本命」となるであろうほどレベルが高い。決勝経験者であるミキからし蓮根や、『キングオブコント』王者のビスケットブラザーズかもめんたる、『キングオブコント』ファイナリスト経験者のななまがりらもいる。決勝進出有力候補として名前もあがっていたコウテイマユリカヤーレンズなど実力者がひしめき合っている。オズワルド伊藤が「家族」と呼んでいた、かつてのルームシェア仲間で「まーごめ」のフレーズが人気の大鶴肥満擁するママタルト(参考:「こんな音痴なツッコミは見たことがない」と言われた男が「理想的なツッコミ」と粗品に絶賛されるまで)とオズワルドの「家族」対決も注目だ。また、フリーの社会人男女コンビ・シンクロニシティも見逃せない(参考:月1本のライブ出演で『M-1』『KOC』準々決勝進出! 社会人コンビのライブと賞レースの微妙な関係)。

いずれのコンビが優勝しても「革命」的。革命前のざわめきが漂っている。今夜、新たなスター誕生の瞬間を目撃することになるに違いない。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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