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巨人・原監督の野手登板に関する議論はここが残念だった

豊浦彰太郎Baseball Writer
イチローも登板経験がある。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

8月6日の阪神−巨人戦で、敗色濃厚となった原辰徳監督が野手登録の増田大輝を登板させたことが、ちょっとした論争になった。何でも議論があることは良いことだが、これに関しては空回りの印象が拭えなかった。

大勢が決した試合で野手が登板することは、メジャーではよくある。イチローや青木宣親もマウンドに上がったことがある。

しかし、今回の原采配へは球界OBの重鎮を中心に批判も少なくなかった。曰く、「対戦相手に失礼だ」、「首位のチームに相応しくない」。しかし、それらの反対意見に感情論、精神論以上のものは見えなかった。

個人的には、NPBにおける野手の登板にはあまり必然性を感じない。この策のメリットは救援投手陣の負担軽減なのだが、この議論の本質はそれを踏まえた上で「ありか?なしか?」というところにあるのだと思う。そうなると、肯定派の論拠は突き詰めると「メジャーでやっているから」ということになってしまう。

そのメジャーでは、昨季まではアクティブロースターは原則25人のみで、通常NPBより短い6ケ月強のペナントレース期間で162試合を戦う(新型コロナ禍で60試合制の今季は、登録枠も拡大されているが)。これは1.15日に1試合という厳しいペースだ。さらに言えば、メジャーには引き分け制度がない。年に数試合だが、17〜18回まで進むゲームもある(あらゆる点で例外の今季はタイブレーク制が採用されており、その可能性は極めて小さいが)。その環境下で定着したのが、延長戦や一方的な展開での野手登板という手なのだ。

それに対し、NPBではどうだろう。今季は6月開幕で120試合をこなす強行スケジュールだ。142日間に120試合は1.18日/試合で、確かにこれはメジャー級だ。しかし、その分登録枠は通常の29人に対し31人、ベンチ入り枠も25人から26人に拡大されている。また、延長戦も今季は10回で打ち切りだ。人員的にも余裕があるNPBで、野手登板が必要かどうかは疑問が残る。

そのメジャーにしても、来季から野球の登板に、「延長戦か6点差以上の場合のみ」との制限が加わる(今季はコロナ対策の特別事情として導入は見送られた)。やはり、野手の登板が増える傾向にあることを懸念する声もあるのだ。もし、恒常的に野手をも登板させなければならないなら、それを是として受け入れるだけでなく、投手の登録枠拡大が議論されねばならない。

しかし、今回原采配に眉を潜めた重鎮たちが示したのは、自らの経験論に照らし合わせての拒否反応でしかなかった。もちろん彼らも知識として、メジャーでは野手登板もままあることは承知していただろう。ただし、その背後にある物理的必然性を含めてまで咀嚼してはいなかったのだろう。したがって、そのリアクションは異文化に心ならず接してしまった際の戸惑いやいらだちでしかなかった。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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