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野球の未来予想図 第3回 どこまで変わることが許されるのか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
マイナー・独立リーグの球場は90年代から娯楽施設化が進んだ。これも野球の変化だ。

「ロボ審判」をはじめとする米独立リーグでの新ルール実験を目の当たりにし考えさせられたのは、「野球はどこまで変わることが許されるのか」だ。この競技の真髄は、変化・進化していくものと不変性のバランスにあるからだ。

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MLBに選ばれたアトランティック・リーグ

MLBとの提携で各種の新ルール実験を進めている独立リーグのアトランティック・リーグのゲームを8月10〜11日の2日間ペンシルベニア州ランカスターで観察したぼくは、翌12日列車でニューヨークへ向かった。この日はヤンキー・スタジアムでヤンキース対オリオールズのダブルヘッダーを観戦した。ここは、2014年9月にデレク・ジーターの引退記念試合の取材に来て以来だが、同一球場、同一カードの純粋なダブルヘッダー観戦は、少年時代の平和台球場以来かもしれない。

平日のデイゲームでも、ヤンキー・スタジアム周辺は試合前からファンで埋め尽くされる。
平日のデイゲームでも、ヤンキー・スタジアム周辺は試合前からファンで埋め尽くされる。

地方の小さな街での独立リーグ観戦はのどかな魅力に溢れているが、ビッグアップル(ニューヨークのこと)でのヤンキース戦観戦はそれとは正反対の超弩級の存在感を感じさせる。ヤンキー・スタジアムは、ヤンキースが好きか否かを問わず、全てのファンにとって特別な場所だ。

そして、翌日は再び近郊の街でアトランティック・リーグの観戦だ。ニューヨークのペン・ステーションからNJトランジットで約1時間、ニュージャージー州サマセット郡のブリッジウォーターに向かった。その街にあるサマセット・ペイトリオッツの本拠地TDバンク・ボールパークは、ブリッジウォーター駅にほぼ隣接している。「駅」といっても施設はほぼホームのみ、と言って良いが。

球場では、ペイトリオッツの広報・販売促進担当の副社長マーク・ラシノフさんが出迎えてくれた。その風貌はさながらヤンキースGMブライアン・キャッシュマンのジュニアと言ったところだ。

インターン時代も含めペイトリオッツとともに歩んできた広報担当副社長のマークさん。
インターン時代も含めペイトリオッツとともに歩んできた広報担当副社長のマークさん。

「ペイトリオッツは1998年のアトランティック・リーグ創立時から参加している古参チームですが、私の職歴もインターン時代も含めペイトリオッツ一筋なのです。初年度はまだこの球場が完成しておらず、全ての主催試合を巡業でこなしました」。この日の対戦相手は、2日前までランカスターでお世話になったバーンストーマーズだが、初年度はペイトリオッツがバーンストーマーズ(地方巡業集団という意味)だった訳だ。

「エキサイティングな試みですね、このMLBとのパートナーシップは。画期的と言って良いでしょう、MLBで2017年から採用された申告敬遠もその前にこのリーグで試験導入されています。若い世代に訴求していくには、ベースボールはもっと変わっていかなければならないと思っています。もっとアクションを、もっとスピードアップを、ということです。現在試行中のルールの多くはその後MLBでも採用されるでしょう。そのうちのひとつであるワンポイントリリーフ禁止も来季からMLBで導入されることが決まっています。試みのいくつかには異論も少なくないことは認識していますが、どのルールも野球の尊厳を傷つけるものではないと思っています」。

「さあ、それでは現場の声を聞いてください。選手や投手コーチに話は付けてありますから」。

マークさんに案内されてフィールドに出る。

変化を困難と捉えるか?チャンスと捉えるか?

最初に紹介されたのは、同球団の投手コーチにしてフロント職のベースボール・オペレーション・ダイレクターでもあるジョン・ハントンだ。聞けば、現役時代の末期からこのダイレクター職を兼務していたという。まだ36歳の若さで、2メートルを遥かに超える巨体で、両腕にはびっしりタトゥーが彫られている。ツラ構えはアストロズのエース、ジャスティン・バーランダーに似ている。外観はワイルドだが、語り口とその内容は非常にインテリジェンスを感じさせるものだった。

一見ワイルドだか、理論派で哲学的でもあるハントン投手コーチ。将来は指導者・球団幹部としてさらに栄達する人材と見た。
一見ワイルドだか、理論派で哲学的でもあるハントン投手コーチ。将来は指導者・球団幹部としてさらに栄達する人材と見た。

彼もABS(Automated Ball-Strike Systemいわゆるロボ審判のこと)には肯定的だ。その理由は、やはり安定しているからだという。

投球術は投手と審判のコミュニケーションであり、せめぎ合いだと言う意見もある。制球力に自信がある投手は、ストライクともボールともコールできる微妙なロケーションに寸分たがわず連続して投げ込む。すると、主審はその制球力に敬意を表しそこをストライクとコールする。名投手はそうやって、その日のストライクゾーンを広げていく、といった類の神話だ。

「ははっ、そんなこともあるのかもしれませんが、それよりも遥かに大切なのはコールが安定していることなんです」。

「ABS以外にも多くの新ルールがあります。それに対応していくのは選手にとって大変なことですが、若い世代のファン獲得のためにはわれわれは変化を受け入れなければならないと思います」。

「例えば、ノーマウンドビジットルールです。マウンド上で投手と直接話すことができないのは大変ですが、その分イニング間のコミュニケーションを重視するなど、対応を変えれば良いのです」。

マウンドビジットは禁止だが、投手負傷の場合は例外だ。
マウンドビジットは禁止だが、投手負傷の場合は例外だ。

新牽制ルールも投手には試練だ。牽制球を投げるには必ずプレートから足を離さねばならない。殿堂入り名投手グレッグ・マダックスは走者に注意を払わないことでも有名だった。最大の仕事は投球であり牽制ではない、というのだ。新ルールにより、マダックスのように走者無視の投手が増えるのだろうか。

「いや、それはないと思います。ほとんどの投手は彼ほどの投球技量はないですからね。投げる努力、走者を制御する努力の両方が必要です」。

それはそうだ。

「打者有利の改革が進むことには投手には大きな試練ですが、ここで戦う選手たちはそれを受け入れアピールしなければなりません」。

それこそ、来季からはバッテリー間の距離延長すら予定されている。

「ルール上は2フィート(約60センチ)の延長ですが、打席の真ん中に立つ打者がより後方にスタンスを取れば実質4フィート分も長く見極めることができます。これは投手には大いなる脅威です。しかし、何のためにこのリーグでプレイしているのか。キャリア最後のチャンスとして、メジャーや海外リーグとの契約獲得を目指してのはず。不利な新ルールを言い訳にするか、それを克服し従来以上の成績を残し果実を手に入れるか、それは彼ら次第なのです」。

このあたりの見識は哲学的ですらある。感服だ。

そこで、投手関連以外のことも聞いてみた。

概ね受け入れられているABSに対し、もう一つのbuzzネタの一塁盗塁はウケが芳しくない。観戦した3試合で5度打者が一塁に走る好機があったが、だれもそうしなかった。それは記録上の問題もある。一塁に駆け込みセーフを勝ち取っても安打にも盗塁にもならない。アウトになる危険を冒してまで走る意義は見出せない。記録上はウォーク(歩く、の意味から「四球」のこと、ちなみにランではない。これだと「得点」になってしまう)。

加えて、独立リーグ選手ならではの心理作用もあるとハントンは言う。

「一塁に駆け込んでも、メジャーのスカウトは評価してくれませんからね」ナルホド。「ただし、月日が経てばすこしずつ変わっていくでしょう。また、優勝争いが掛かった試合では個人のアピールよりチームの勝利が優先されますし」。彼の分析は冷静で視野が広い。

大切なのは正確性より安定性

次にインタビューしたのは、28歳の先発投手リック・トリーズリー。同球団として初めてロボ審判に投球した男だ。顔つきはヒゲを生やし始める前のクレイトン・カーショウ(ドジャース)に似ている。ちなみに彼も左腕だ。

「実は球場ごとにロボ審判のゾーンは微妙に違う」と教えてくれたトリーズリー投手。
「実は球場ごとにロボ審判のゾーンは微妙に違う」と教えてくれたトリーズリー投手。

「ABSはまだ開発途上だと思います。実は判定機の設置場所が球場ごとに異なるので、ゾーンも微妙に違います。しかし、初回から最終回まで判定がぶれません。これはとても大切なことだと思いますよ。人ではそうは行きません。同じ審判でも初回と7回、9回でゾーンは同じではありませんからね。正確さよりも安定性です」。

投手交代時以外のマウンドビジット禁止はどうだろう。

「それは実は歓迎しています。投手は、コーチには来て欲しくないものです。試合時間短縮にも良いと思いますしね」と屈託がない。

ベースボールの変化についてはどうだろう。若い世代ならではの歴史観があるかもしれない。

「そうですね、ぼくの世代にとって最大の変化は少年たちが一年中野球をやって、その結果故障でダメになることが増えたことではないでしょうか(アメリカでは夏場と冬場で、野球とフットボールのように、異なるスポーツに親しむのが一般的だ。しかし、近年はアマチュアの有望株への注目度が高まっており、その分一年中野球のみに取り組む選手が増えている)。

「ぼくの場合?残念ながら冬の間はフットボール(アメリカンフットボールのこと)ではなくクロスカントリーでしたね。フットボールは怪我の恐れが大きいので、母が強く反対したんですよ。近年サッカーが人気なのも、ハードコンタクトスポーツではないからなんです」。

トリーズリー投手の口調はまさに現代っ子アスリートだった。一昔前までのスポーツ選手特有のちょっぴりラフなそれとは正反対だった。しかし、その彼にしてすでにメキシコやオーストラリアなどの外国リーグでの経験も積んでいる。それなりの猛者の意見なのだ。

スター・ウォーズ、元名投手

ゲーム前には華やかなセレモニーもあった。この日は「スター・ウォーズ・ナイト」。試合前には映画のキャラクターに扮した職員?がフィールドに並ぶ。試合中、彼らはコンコースでファンとの記念撮影に応じる。選手もこの日のための特別ユニだ。このリーグは実力の高さだけでなく、観客動員の面でも大いに健闘しているのだが、それもこのような営業努力の賜物だ。そして、これらの企画もこの日最初にインタビューした広報担当副社長のマークさんのアウトプットだ。

この日は「スター・ウォーズ・ナイト」だった。
この日は「スター・ウォーズ・ナイト」だった。

また、試合前には現役時代はサイ・ヤング受賞(1977年)の名救援投手で、引退後はこの球団で15年にわたり監督を務め5度の優勝という実績を誇るレジェンド、スパーキー・ライルさんがユニフォーム姿でファンと交流する。75歳になった現在も球団の広告塔として欠かせない存在だ。本人もその役割を心から楽しんでいるようで、心温まる思いだった。

今もファンに引っ張りだこのレジェンド、ライルさん。
今もファンに引っ張りだこのレジェンド、ライルさん。

アトランティック・リーグを追いかける最終日のゲームは、新ルールによるプレイぶりを一瞬たりとも見逃すまいと注視するよりは、暮れなずむ時間帯のボールパーク独特の雰囲気と美しさを味わい、19世紀から連綿と続くベースボールの過去、現在、未来に思いを馳せ、少々感傷的になった。

日没間際の美しさが広がるTDバンク・ボールパーク。
日没間際の美しさが広がるTDバンク・ボールパーク。

ゲームセットまであっという間だった。お世話になった人たちにお礼を述べ、リーグとチームの健闘を祈って球場を後にした。

ゲートを出たところで、uberを呼んだ。同じニュージャージー州でニューヨークに隣接するニューアーク国際空港隣接の安モーテルに向かう。翌朝は早朝便でサンフランシスコ経由の帰国の途につくのだ。

野球の本質を守るルール、そうでないルール

今回の取材の旅では合計9名にインタビューさせてもらった。内訳は、球団広報2名、GM1名、監督2名、コーチ1名、選手1名、審判1名、元選手1名(ライルさんのことだが、彼に関しては別記事で詳しく触れる)だった。インタビューの対象である新ルールを再度まとめると以下の通りだ。

<新ルール一覧>

・ABS (コンピューター判定の参照、いわゆる「ロボ審判」)

・一塁盗塁(振り逃げ以外の場面でも打者は一塁に走れる、ただし成功しても記録上は盗塁ではない)

・マウンドビジット禁止(投手交代時以外は選手、監督&コーチは原則としてマウンドに行けない)

・投手は最低打者3人(投手はイニングを完了させるか、3人の打者との対戦を終えないと原則として交代できない)

・ベース拡大(一〜三塁ベースが、15インチ四方から18インチ四方に拡大)

・イニングブレイク短縮(2分5秒から1分45秒に)

・チェックスウィング判定緩和(チェックスウィングとは日本でいうハーフスウィング。これを打者有利に緩和)

・3バント失敗OK(ツーストライクからのファウルバントで即三振にならない。再度失敗すると三振)

・牽制時、投手はプレートから足を離す(盗塁の促進が目的)

・守備シフト禁止(内野手はセンターラインの左右に各2名配置)

・投手・本塁間2フィート延長(2020年より)

新ルールの中でもっとも注目が高いのはロボ審判だ。
新ルールの中でもっとも注目が高いのはロボ審判だ。

これらを「時短策と攻撃優先策」に分けて分類することもできるし、最大公約数としての「退屈の排除」で括ることもできる。また、「テクノロジーと情感」というカテゴライズも可能だと思う。

今回インタビューした多くが語っていたが、「ベースボールは変わっていくもの」である。しかし、一方でベースボールは昔からその本質は変わらないOld ballgameであることも事実だ。ということは、今回の新ルール類も変わっても良い部分に止まっているのか、それとも不可侵エリアに足を踏み入れてしまったのか、それを見極めることが大切だ。

例えば、一時期東京五輪での採用が議論された7イニング制や、すでにWBCなどで実践されているタイブレーク・システムなどは、短期のトーナメントなどではともかく、昔から連綿と続いているMLB(もちろんNPBも)のペナントレースにはそぐわない。失点率や得失点差で順位を決定することもこの競技の本質を覆す「ばちあたり」なアイデアだと思う。

牽制に規制が加えられても投手は積極的に牽制球を投じる。
牽制に規制が加えられても投手は積極的に牽制球を投じる。

一方で、繰り返されるワンポイントリリーフへの制限などは戦術への足かせに過ぎず、大いに意義があると思う(実際、MLBでも来季から導入される)。正直なところ、ぼく自身も終盤のせめぎあいでの小ギザミな継投とその度に挿入されるCMタイムにはウンザリさせられている。マウンドビジット禁止も大歓迎だ。

ABSはどうだろう。これは「審判の判断こそ絶対」という百数十年にわたる方針を覆すものだ。しかし、いまや微妙な判定については瞬時にリプレイ画像が、球場内のビデオボードや各家庭のテレビ中継で繰り返し流される時代だ。それでもなお「誤審もゲームの一部」と言い続けるのは無理があるように思える。ABSが主流になっても、判定の精度が向上し、その結果無駄な抗議が減るだけだ。明確に失うものは、ノスタルジーだけではないか。

一方で、バッテリー間の距離延長は、ベースボールの本質を変えかねない。球場のサイズ自体には随分ルーズ?が認められているだけに、バッテリー間、塁間などは聖域であって欲しいと思う。それらが変わると、攻守のバランスに革命的変化が生じかねない。この試みの導入が来季に先送りされたのは、大きな反発が予想されるためロボ審判を含める企画全体の印象を悪くしかねないリスクを恐れたのかもしれないし、マーケティング的観点から来季に話題のタネを取っておきたかったのかもしれない。これについては、GMや広報担当、はたまた別途メールインタビューさせてもらったリーグ会長からもうまくはぐらかされた回答しか得られなかった。

「一塁盗塁」は自然に淘汰されそうだ。これは残念ながら、選手のハートを解さぬ人が机上で生み出したアイデアでしかないように思える。これを本当に活発化させようとするなら、記録のあり方も含めた抜本的なルール改定が必要だろう。

以上のような視点から、ぼくなりにアトランティック・リーグでの全ての新ルールを「ベースボールの本質を損なう」「損なわない」で分類してみた。この結果が将来のベースボールの姿であって欲しいと思う。

独立リーグでも「42」は欠番だ。バーンストーマーズの本拠地クリッパーマガジン・スタジアムにて。
独立リーグでも「42」は欠番だ。バーンストーマーズの本拠地クリッパーマガジン・スタジアムにて。

<ベースボールの本質を損なわない>

・ABS

・マウンドビジット禁止

・投手は最低打者3人

・ベース拡大

・イニングブレイク短縮

・チェックスウィング判定緩和

<異なる競技になってしまう>

・3バント失敗OK

・牽制時、投手はプレートから足を離す

・守備シフト禁止

・一塁盗塁

・投手・本塁間2フィート延長(2020年より)

終わり

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<写真は全て豊浦彰太郎撮影>

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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