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野球の未来予想図 第1回 米独立リーグで試される「ロボ審判」、「一塁盗塁」

豊浦彰太郎Baseball Writer
アトランティック・リーグの主審は「ロボ審判」の判断を参照しコールする

MLBとの提携で「ロボ審判」「一塁盗塁」などの新ルール実験を行なっている米独立リーグを訪ねた。監督や選手、審判、経営者たちはそれをどう捉えているか。彼らの声を拾ってみた。

11もの新ルール

8月10日の午後1時過ぎ、ぼくはペンシルベニア州フィラデルフィアのゲートステーションである30thストリート駅から、アムトラックに乗った。そこから約1時間で同州南部のランカスターに到着する。ランカスターは人口約6万人の小さな街だ。歴史的には独立戦争中の1777年に1日だけ合衆国の首都が置かれたことで知られている。また、ここは宗教的戒律を遵守し農耕中心の生活を送るアーミッシュのコミュニティの存在でも有名だ。

クラシカルなランカスター駅。実際、古いのだろう。球場はここから徒歩10分くらい。
クラシカルなランカスター駅。実際、古いのだろう。球場はここから徒歩10分くらい。

しかし、今回ぼくがここを訪れたのは、歴史や文化を学ぶためではない。あくまでベースボールだ。ここに本拠地を置くランカスター・バーンストーマーズのゲームを2日間にわたってカバーすることでベースボールの未来を探るのだ。

同球団は、メジャーリーグの傘下ではない独立リーグのアトランティック・リーグに所属している。そして、そのリーグではMLBと今季からの3年契約を結び、各種の新ルール実験を開始した。それらの一部は、「ロボット審判」や「一塁盗塁」などという煽情的な呼称ですでに日本のメディアでも紹介されているので、「ああ、あれのことか」と思われる方もいるだろう。しかし、実態としては、前者はロボットがボール、ストライクを判定するのではなく、あくまでレーダーで測定された判定を主審が参照しコールするだけで、後者も振り逃げ以外の場面でも打者が一塁に走ることをルール上許容しているが、記録上は盗塁ではない(当初は「フィルダーズチョイス 野手選択」だったが、その後「ウォーク 四球の意、文字通り“歩く”から来ている、ちなみにランではない、これだと“得点”になってしまう」に変更された)。

本塁後方スタンド最上部の「ロボ審判デバイス」。
本塁後方スタンド最上部の「ロボ審判デバイス」。

実は、アトランティック・リーグで試行されている新ルールはこれだけではない。他にも以下のものがある。

マウンドビジット禁止

投手交代時以外は選手、監督&コーチはマウンドに行けない。ただし、投手負傷時は例外だ。

投手は最低打者3人

先発、救援を問わず、投手はそのイニングを完了させるか、3人の打者との対戦を終えないと交代できない。これも負傷時は例外だ。これは、来季からMLBで導入されることがすでに決まっている。

ベース拡大

本塁を除く各ベースが、15インチ(約38センチ)四方から18インチ(約46センチ)四方に拡大されている。選手の負傷リスク軽減を目的としている。

イニングブレイク短縮

2分5秒から1分45秒に。9イニングで、理論上5分40秒の短縮になる。

チェックスウィング判定緩和

チェックスウィングとは日本でいうところのハーフスウィングだ。一般的には、メジャーはNPBよりこの判定基準が打者に厳しい。これを緩和するというものだ。

3バント失敗OK

ツーストライクからのファウルバントで即三振にならない。ただし、再度失敗すると三振だ。バント促進により守備側にもよりアクションを、ということだ。アメリカの選手は日本人に比べバントが下手だから、ではない。

牽制時はプレートから足を離す

左投手による職人芸的なボーク寸前の牽制は不可能になった。牽制する場合は瞬時のアクションで行うしかない。現在MLBで絶滅危惧戦術となっている盗塁を促進することを目的にしている。

守備シフト禁止

内野手はセンターラインの左右に各2名配置されねばならない。一二塁間に飛んだサードゴロ、というものはなくなる。

投手プレートと本塁間を延長

延長されるのは2フィート(約60センチ)。当初、今季後半戦からの導入が予定されていたが、来季からに先送りされた。さすがにラディカル過ぎると恐れられたか?

今回は、実はランカスターで2試合、1日置いて同じ東部のニュージャージー州ブリッジウォーターで1試合、計3試合アトランティック・リーグのゲームをカバーする。すでにそれぞれの街に本拠地を置く、ランカスター・バーンストーマーズとサマセット・ペイトリオッツの広報を通じて、球団経営者、監督、コーチ、選手、審判にインタビューのアポは取ってある。

果たしてそこで展開されているのは、未来の野球の姿だろうか。

個性的なリーグと球団

午後4時過ぎ、バーンストーマーズの本拠地クリッパーマガジン・スタジアムに到着した。2005年の同球団の誕生に合わせ完成した球場だ。ここのボックスオフィスで、あらかじめアポを取っていた球団広報兼プレイ・バイ・プレイ・アナウンサーのデビッド・コリンズさんにご挨拶。年齢的には60代だろうか。

バーンストーマーズの広報コリンズさんは、試合が始まれば実況アナウンサーを務める。
バーンストーマーズの広報コリンズさんは、試合が始まれば実況アナウンサーを務める。

まずは、アトランティック・リーグとランカスター・バーンストーマーズについて教えてもらった。

「このリーグは1998年に誕生しました。メジャーリーグ機構傘下のマイナーリーグではなく、完全に独立した運営です。MLB傘下ではないため「育成」という義務を背負っていません。したがって、逆にメジャー経験者が多く在籍しています。選手たちはみなかなり高い技術レベルにあり、ここで活躍し、メジャーはもちろん日本や韓国、台湾、メキシコなどのプロリーグでより良い契約を勝ち取ることを目的にプレイしています。したがって、いつどの球団と交渉するのも、契約するのも自由です。かつて、リッキー・ヘンダーソン(史上最多の1406盗塁)やホゼ・カンセコ(史上初の40本塁打&40盗塁達成)、最近ではリッチ・ヒル(現ドジャースの先発投手)が一時期在籍しました。日本人選手の在籍例も多いです。」

バーンストーマーズの本拠地クリッパーマガジン・スタジアム。
バーンストーマーズの本拠地クリッパーマガジン・スタジアム。

「わが球団は2005年に誕生しました。私はその創設時から携わっています。過去も現在も世界中から選手が集まっています。中南米、豪州、韓国、台湾、今月には南ア出身の選手も加入しました(南アフリカ共和国出身のギフト・ンゴエペ内野手、2017年にパイレーツでメジャー昇格を果たし、史上初のアフリカ出身メジャーリーガーとなった)。渡辺俊介や仁志敏久もうちで活躍してくれました。」

「MLBとのパートナーシップに関しては、リーグ会長のリック・ホワイトの人脈によるところも大ですね。彼は、元々MLB機構のエグゼクティブであったため今でもかなり顔が利くのです。今回の新ルール実験は、昨年のクリスマス頃から話が具体化したようです。MLBが当リーグを選んだのは、もちろんホワイト会長の人脈もありますが、このリーグのレベルが極めて高く、ここでの結果をMLBで置き換えて評価することが可能であったことが大きいですね。それと、新ルールですから、なるべく彼らの傘下のマイナーリーグでの実施は避けたかった、ということもあると思います。新ルールにより、選手の成績が過去のそれと全く公平に比較できなくなるのは良くないですからね。新ルールに関しては、今のところ現場は概ね好意的に捉えていると思います。個人的なお気に入り新ルールは、「3バント失敗OK」ですね」。

ここで、コリンズさんは「監督を紹介しましょう」と言ってくれた。この日対戦の両軍の監督のアポを取ってくれた。「両軍の」ということは自軍ではないチームの監督も含む、ということだ。感謝。

オールドスクール派の監督も「精度が上がるのは良いこと」

そして、先に紹介されたのはこの日のアウェイ球団であるロングアイランド・ダックスのウォーリー・バックマン監督だ。現役時代は内野手で、1986年ニューヨーク・メッツ世界一のメンバーだった。2004年オフにアリゾナ・ダイヤモンドバックス監督就任が発表されたが、その直後に私生活でのゴシップ報道が原因で解雇された。ぼくの彼への予備知識はそんなところだ。

そのバックマンは、ライト側ファウルポール近くの選手用通路にいた。ここは、関係者の喫煙所になっている。現在59歳のバックマンはここでタバコを吸いながら、インタビューに対応してくれた。その風貌はいかにも旧世代の野球人。白髪に日焼けした肌。低い声。プロ野球界以外では、建設現場に棟梁として見かけるタイプだ。そんな彼も「ロボ審判(以下ABSと記す、Automated Ball- Strike Systemの略だ)」は好意的に捉えている。

いかにも「旧世代」のバックマン監督、終始タバコを吹かしていた。
いかにも「旧世代」のバックマン監督、終始タバコを吹かしていた。

「ABSには賛成だよ。精度が上がるのは良いことだ。審判のコールが92%正確だとすれば、こちらは97%といったところだろう。精度が上がれば、抗議も減る。人と機械のゾーンの違いもあるだろうが、選手は変化にアジャストしていくものだよ」。

他にも、評価している新ルールはあるのか聞いてみた。

「ベースの拡大も良いね、怪我防止につながる。これは、球団、選手、監督、ファン全てに良いことだ」。

ベースのサイズが15インチ四方から18インチ四方に拡大されている。
ベースのサイズが15インチ四方から18インチ四方に拡大されている。

しかし、賛同しかねるものもあるようだ。

「マウンドに行けないのには困ったね、投手へのコミュニケーションは捕手へのサインに頼るしかないんだ。まあ、投手に怪我をしたふりをさせてマウンドにトレーナーとすっ飛んで行く手もあるけどそうしょっちゅうは使えない(笑)」。

この辺りからバックマン監督は乗ってきた。どんどん、ベテラン監督らしい意見が出てくる。

「シフトの禁止は、スプレーヒッティングがより重視される芽を摘んでしまうと思うよ。内野手が極端に片方に寄るようになればなるほど、広角に打てる打者が重宝されるようになると思う。そういう風潮になると、マイナーリーガーや独立リーグでプレーする若手は広角に打ち分けるよう努めると思うんだ。それが、メジャー昇格のチャンスだからね。ちょうど、「マネーボール」が脚光を浴びると、とたんにみんな四球を選ぼうとしたようなもんさね」。

長年野球界に身を置いてきた彼にとって、その間もっとも「変わった」と思うのは何だろうか。

「そうだなあ、統計データの浸透かな、それと各種の最先端テクノロジーの導入だろうね。そして、その背景にあるのはカネだということだ。選手も変わったよ、昔は個人やチームの名誉のために戦ったが、今は連中の最大の目的はカネだ。その結果、怪我を過度に恐れる様になってしまった。昔は二塁に滑り込む時は、カバーに入っているのが兄弟でも容赦するな、というのが鉄則だったが、今はそうじゃない」。

ロボ審判を許容する彼が、見かけ通りのオールドスクール派の部分をちらっと見せた。

独立リーグの「ブラピ」は抵抗勢力?

喫煙派のバックマンのための屋外でのスタンディング・インタビューから一転、地元バーンストーマーズ監督ロス・ピープルズには彼の監督室で話を伺うことになった。独立リーグとはいえ、監督室はそれなりに立派だ。メジャーのそれに遜色ない。

39歳のピープルズは、監督3年目。投手として14年の現役生活の10年をこの球団で過ごした。メジャー傘下のマイナーリーグでは1Aどまりだった。ちょっぴりブラピ似でカッコいいが、その野球観は明らかに保守的だ。

監督室でインタビューに応じてくれたピープルズ監督。なんとなくブラピに似ていた。
監督室でインタビューに応じてくれたピープルズ監督。なんとなくブラピに似ていた。

「ABSに判断を下すのはまだ早いと思う」。各種の新ルールを展開するアトランティック・リーグ球団の監督といういわば「体制派」の立場でなかったら、この人は酷評したかもしれない、そう感じた。

「ベースボールは変化していくものだ、だから新ルールも理性的には受け入れざるを得ない。しかしおれはコンピューター判定は好きじゃない。より正確かも知れないが、ベースボールはもっとエモーショナルな人間味あふれる競技だと思う、おれはオールドスクール派なんだよ」。

「マウンドビジット禁止にははっきりと反対するね、単にアドバイスを送るだけではなく、間を取る、空気を変える、いろいろな意義があるんだ」。

監督、コーチ、選手がマウンドに行けるのは原則として投手交代の時だけだ。
監督、コーチ、選手がマウンドに行けるのは原則として投手交代の時だけだ。

そこで、こちらからもっとラディカルなルール変更に話を振ってみた。来年から予定されているピッチャーズプレートとホームプレート間の距離延長(2フィート、約60センチ)だ。これは、個人的にはいくらなんでもやり過ぎだと思う。バッテリー間や塁間は攻守のバランスの根源であり、絶対に動かすべきではないとすら考えているからだ。しかし、投手出身の彼の意見は必ずしもそうではなかった。

「故障の懸念は拭えないが、これは投手には悪いことばかりではないと思う。オレも現役時代はシンカーを多投するタイプだったんだが、距離が延びればそれだけ落差も大きくなるからな」。

これは科学的にどうなのだろう。彼の突飛な意見は50年前のある投手の発言を思い起こさせた。

1969年、MLBはマウンドの高さを低くする決定を下した。当時は投手戦が多く、前年のア・リーグなどは首位打者の打率が.301。あやうく2割台の首位打者が誕生してしまうところだった。34年ぶりの30勝投手すら誕生した。マウンドを低くすることにより、投打のバランスを打撃優位に調整しようとしたのだ。

しかし、それに対し「逆効果」と喝破した者もいた。それが、のちの(1974年)サイ・ヤング賞投手マイク・マーシャルで、物理学の博士号を持つ彼は、「マウンドを低くすることは、直角三角形の斜辺を短くする行為で、これはバッテリー間の距離を短縮するのと同じである」との説を主張したのだ。しかし、マーシャルの主張通りにはならなかった。マウンドの高さ調整のおかげだけではないだろうが、1969年は過度の投手力優位はかなり矯正された。

ピープルズも彼が見てきた野球界最大の変化として「セイバーメトリクス(統計学に基づいた選手評価や分析のこと)の発達と浸透」を挙げた。バックマンにせよ、ピープルにせよ、球界の変化を大いなる前進というよりは、古き佳き日への郷愁という視点で捉えていた。経験主義者の多い現場の長らしいスタンスと言えるだろう。インタビューを終え、監督室を出ようとするぼくに、「これ、持ってけよ」と冷えた水のペットボトルを自身専用の冷蔵庫から取り出し放り投げてくれた。気さくなアニキなのだ(ぼくのほうがはるかに年上だが)。

「一塁盗塁」をためらう選手

ゲームが始まった。ネット裏の記者席から観戦する。収容人員の少ない独立リーグ球場では、記者席とフィールドの距離が短い。臨場感はかなりのものだ。

主審は、都度トラックマンと呼ばれる判定装置から投球がストライクゾーンを通過したかどうかの通知をイヤホンで受け、最終決定を下している。しかし、捕手の捕球からコールまでタイムラグは感じられない。主審はトラックマンの判断とは異なる判定を下す権利も持っているが、そうしたかどうかは選手(や観客)には分からない。当然、捕手や打者からの抗議もない。ゲームは良いテンポで進んでいく。そのはずだ。ランカスターの先発投手ネイト・リードはノーヒットノーランを継続している。

ランカスターのギフト・ンゴエペ内野手が本塁打を放ち場内が沸く。彼は数日前にバーンストーマーズと契約したばかり。この日が2試合目だった。前述の通りアフリカ生まれでは史上初のメジャーリーガーだ。しかし、その後は目立った活躍はなくメジャーとマイナーの往復が続き、今季はフィリーズ、パイレーツとマイナー契約もともに解雇された。

アフリカ出身では初のメジャーリーガーでもあったンゴエペ。
アフリカ出身では初のメジャーリーガーでもあったンゴエペ。

そのンゴエペ、本塁打の後の打席でのことだ。ある投球を捕手が後逸した。アトランティック・リーグで実験中の新ルールでは、振り逃げが可能な場面でなくても打者は自らの判断で一塁に走ることができる。彼は一瞬ためらいを見せたが、一塁には走らなかった。まだ、新ルールが体に染み付いていないのか、一塁に走っても間に合わないと判断したのか(ここの球場だけではないが、概してアメリカの球場はホームプレートすぐ後ろまでフェンスが張り出している)、なんとかメジャーのスカウトにアピールしたい彼としては打力を見せつける機会を失いたくない、と思ったのかはわからない。

7回表、無安打投球を続けていたリードが初安打を許した。その瞬間、観客はスタンディングオベーションを送った。「ここまでよくやった。楽しませてくれてありがとう」という意味だ。

新ルールのBuzzは営業にも好影響

ノーノーピッチの終わりを待ち構えていたように、だれかの手が後ろからぼくの肩をポンと叩いた。振り返ると、ランカスターのゼネラルマネジャーのマイケル・レイノルズさんだった。試合中のどこかでゆっくりお話ししましょう、ということになっていたのだが、ノーノー継続中だったので、ぼくをゲームに集中させてくれていたのだ。「そろそろ、良いでしょう」ということだ。球団オフィスのミーティングルームに移動する。

レイノルズさんは、この球団でのGMは3年目だが、それ以前はWNBAバスケなど他スポーツの経営に携わっていたそうで、プロ野球はここが初めてらしい。彼には、主として一連の新ルールのビジネス面への影響について語ってもらった。さすがGMというべきか、コメントはしっかり整理されておりロジックに破綻がない。しかし、その分危なげない優等生的なものばかりだったのも事実だ。

GMのレイノルズさんは、バスケも手がけたプロのスポーツ経営者だ。
GMのレイノルズさんは、バスケも手がけたプロのスポーツ経営者だ。

「新ルールは興行面にも良い影響を与えています。何であれ、話題になるには良いことで、FOXやESPN、スポーツ・イラストレイテッドなどの大手メディアでの露出が増えました。こうして、日本からも来てくれるし(笑)。話題になると、シーズンチケットセールスや場内広告の営業にプラス効果があります。スポンサーシップも同様ですね」。

新ルールは大きく分けて、時短策と攻撃有利策に分類できるが、これは矛盾しないだろうか。

「そんなことはありません。アイドリングタイムを減らし、より多くのアクションを提供するのが目的ですから」。単純に試合時間を短くすることが目的ではないという。

「したがって、アイドリングタイムの削減は攻撃有利で相殺され、試合時間自体はとりたてて短くなっていません(具体的な数値は提示してくれなかった)。でも、それはそれで良いのです。目指しているのは、何よりベースボールをよりエキサイティングにすることですから」。

「新ルールには概ね選手たちもポジティブです」。

一塁盗塁など選手が嫌悪しているルールもあるように思えるが、という問いに対しても、「時間はかかるかもしれませんが、選手はそのうち適応して来ると思います」。

これが野球の未来の姿だろうか、と振ってみると、「それはMLBが決めることです」とうまく逃げられた。自分の置かれた立場をしっかり理解している。

ちなみに、プロ野球のGM というと、選手の獲得やトレードなど、主として戦力編成を担当する責任者というイメージが強いが、独立リーグの場合は違う。編成以上に営業やマーケティングなどは重要な任務で、いわば運営の舵取り全般が求められる中小企業の経営者だ。したがって、個人的な夢も、「いつの日か70試合の主催試合全てでチケットを完売すること、ひとりでも多くの選手をMLBに送り込むことです」とビジネスマンらしい回答だった。

ゲーム終了。地元バーンストーマーズの勝利。その後は週末恒例の花火大会だった。この日の観客数は6111人だったが、みな満足そうだ。歩いてホテルに帰った。約30分の道のりだが、人気の少ない夜道でも不安は感じない。街角に路上生活者や薬物中毒者らしき姿は見当たらない。規模はこじんまりとしているが、治安は良さそうだ。

球場近くのダイナー。1950年代の世界そのままだ。
球場近くのダイナー。1950年代の世界そのままだ。

第2回へ続く

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番外編はこちら

<写真は全て豊浦彰太郎撮影>

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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