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29年ぶりワールドシリーズ進出、感情的ドジャース論

豊浦彰太郎Baseball Writer
29年ぶりにドジャースはワールドシリーズに進出する(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ドジャースが29年ぶりのワールドシリーズ進出を決めた。カーク・ギブソンやオーレル・ハーシュハイザーらを擁し世界一の座に就いたのはつい昨日のことのように思えるが、もうそんなに経っていることに唖然とする。何せ、「前回」は昭和のことなのだ。

当時ぼくは社会人に成り立てだったし、まだ独り者だった。村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」を読み耽った。日本は円高不況からから脱して、バブル期に突入していた。都庁はまだ有楽町にあったし、携帯電話を持っているヤツはデンツーくらいだった。やっぱり、29年という歳月は短くないのだ。

その間、ドジャースもすっかり変わってしまった。前回時は、経営はオマリー家によるファミリービジネスだったし、帰属意識の強いトミー・ラソーダ監督を中心に家族的結束を誇っていた(少なくとも表面的には)。しかし、球団の経営権は90年台後半にルパート・マードック率いるフォックス・グループに移った。すると、チーム作りはそれまでのファーム組織をベースとした育成中心から、財力にモノを言わせるFAの買い漁りになった。21世紀に入ると、フォックスは東部の不動産王フランク・マッコートに球団を売却した。マッコートは公私混同の乱脈経営で、ドジャースは破産状態に追い込まれた。そして、元NBAのスター、マジック・ジョンソンを含むグループに買収された。現在のドジャースは、グレーターロサンゼルス地区という大きなマーケットを背景に、抜群の資金力を誇る。かつては、札束で選手を買い漁るヤンキースに対するアンチテーゼのような存在だったが、いまや財力の点でもニューヨーク時代からのライバルであるヤンキースにひけをとらない。

なんだかすっかり変わってしまったようにも感じるドジャースだが、29年前どころか、基本的にはブルックリン時代から変わらぬドジャーブルー(LA移転後に西海岸っぽい色調に改められてはいるが)を基調とするユニフォームを採用している。本拠地のドジャー・スタジアムは昔と違って広告だらけになってしまったが、今も昔と同様にダウンタウンを見下ろす丘の上にあり、外野スタンドの後方にはサンガブリエル山脈が臨める。依然としてメジャー有数の美しいボールパークなのだ。

ドジャースはベースボールの魅力を象徴していると思う。50代のぼくがリアルに見守ってきた半世紀弱の間ですら、メジャーリーグは随分と変わった。球団数は24から30に増えたし、三地区制やワイルドカードも導入された。フィールド上でも投手の分業化が進み、ファイヤマンはクローザーになった。審判は神ではなくなり、判断をビデオ映像に求めるようになってしまった。それでも、ベースボールは「オールド・ボールゲーム」で、昔から変わらぬ様式も大切にしている。言い換えれば、変わっていくものと変わらぬものが絶妙のバランスで共存しているのが、メジャーの魅力なのだ。

その意味では、ドジャースはメジャーリーグそのものだ。ぼくは、この球団に変遷・進化と頑なな伝統の両方を感じている。そのドジャースが、日本流に言えば平成の世になって初めてワールドシリーズを戦う。胸踊るのも当然ではないか。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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