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ダルビッシュとの歴史的快投を演じたヤンキース田中将大 「問われるのは今後の安定性」

豊浦彰太郎Baseball Writer
2009年WBCではともに戦ったマー君とダル(写真:アフロスポーツ)

現地時間23日のヤンキース対レンジャーズ戦での、田中将大とダルビッシュ有との投げ合いは見応えがあった。過去100年で両軍の先発投手が、3安打以下、9奪三振以上、無失点だったのは、1968年8月26日のセネタース対ツインズ戦以来2度目でしかないと多くのメディアが報じている。個人的にはにわかには信じ難い。20世紀初頭のボールが飛ばなかった時代や、投手優位時代だった1960年代にはいくらでもありそうに思えるからだ。しかし、それを深く掘り下げて検証する時間的余裕まではないので、素直に受け入れることにする。

もちろん、両投手の圧巻の投球には感銘を受けた。レンジャーズ、ヤンキースとも強力な打線を誇っていることを考慮するとなおさらだ。しかし、敢えて言うなら、今季もここまでまずまずのパフォーマンスを演じていたダルビッシュよりも、背信登板の多かった田中の方が、この日の投球に対し語るべき部分が多い。今季は特に被弾が多く、自慢の制球力も昨季までに比べると影を潜めている印象があったが、この日は初球ストライクが25度。打者に対しカウントで常に有利に立ち、スライダーとスプリッターで仕留めるという彼本来の投球だった。

田中のこの日の素晴らしい投球には、やれ”Mess-ahiro”(Messは、手もつけられないほどひどい、と言う意味)だとか、「球宴本塁打競争で投手を務めるべき」などの辛辣な表現を用いていた現地メディアも称賛を送っているようだ。

しかし、浮かれてばかりもいられないと思う。今季の田中は、おしなべて精彩がないのではなく、登板ごとの振幅が極めて大きいからだ。「歴史的」だったこの日や、4月下旬のレッドソックス戦での無四球完封という絶妙の投球もあれば、デレク・ジーターの背番号2の欠番セレモニー開催日でもあった母の日のアストロズ戦に代表されるような火だるま登板も、一度や二度ではなかった。

あまり多くのメディアは報じていなかったが、田中はローテーション陥落の危機にも瀕していたのでは、とぼくは思っている。現在ヤンキースの先発陣では、CC・サバシアが故障で戦列を離れており、開幕後しばらくは好調だったルイス・セベリーノやマイケル・ピネイダはここのところやや精彩を欠いている。このような状況なかりせば、田中をブルペンに異動させる、故障者リストに入れるなどしてローテーションから外すなどのアクションをヤンキース首脳陣が選択した可能性は高かったと思う。いや、すくなくとも23日の好投を受けても、7月末のトレードデッドラインに向け、他球団の一線級獲得を模索しているのは間違いないはずだ。

見落としてはいけないのは、今回の素晴らしい投球でヤンキースにとっての「田中問題」が解決したわけではない、ということだ。今季の田中は”Consistent in inconsistency”(安定性を欠くという点で安定している)であることになんら変わりはない。この日の登板の前までの乱調の原因が、配球パターンか飛びすぎるボールか故障かメンタルか、何もわかっていないのだ。「エース復活」と持ち上げるのはまだ早い。注視すべきは今後の投球だ。次回の登板では「良い田中」か「悪い田中」か。彼は依然として正念場にある。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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