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米・キューバ国交正常化が足踏みで、選手亡命も増加する中でのMLBの歴史的キューバ遠征

豊浦彰太郎Baseball Writer
レイズは試合前日には野球教室を開催した。背後にはキューバ名物のクラシック車が(写真:ロイター/アフロ)

昨日、バラク・オバマ大統領が大統領専用機エアフォース・ワンでキューバの首都ハバナに到着した。合衆国大統領のキューバ訪問は1928年以来で、もちろんフェデル・カストロによる1959年のキューバ革命以降初のことだ。キューバとアメリカの距離は約140km程度だが、前回のカルビン・クーリッジ大統領の場合は列車と船で2日以上かかったという。今回は数時間のはずだから、やはりこの空白期間は途方もない長さだったと言えるだろう。

ちょっと驚いたのが、大統領を出迎えたのが「たかが」外相だったということだ。このあたりは一昨年の12月に国交正常化交渉再開をブチ上げながら、その後は必ずしも順調に推移していない両国間の関係を反映している。キューバは禁輸措置の全面解除を求めているが、一方のアメリカは上下院で多数の共和党がキューバが依然として人権活動家への弾圧を続けていることなどを理由にそれを承認しそうもないのだ。

オバマ大統領は現地22日には、タンパベイ・レイズ対キューバ選抜のエキジビションゲームを観戦することになっている。

MLB球団による遠征の計画が発表されたのは昨年の12月のことだが、MLBのキューバ興業は、両国間の国交正常化交渉の開始を受け、数カ月前から練られていたプロジェクトだったようだ。そして、遠征するのはレイズが濃厚であることもその後発表された。また、年末にはMLBはヤシエル・プイグ(ドジャース)やホゼ・アブレイユ(ホワイトソックス)らのキューバ出身も含むスター選手による親善訪問と野球教室の開催を行っていた。

その頃からぼくは、そのレイズのスプリングトレーニングゲームのスケジュールをチェックしていた。当初は、3月29日と30日が“TBA”(To Be Announced 「追って発表」の意味)になっていた。おそらくここにハバナ遠征が入って来るのだろうと、密かに?観戦計画を個人的に練っていたのだが、その後パタっと続報が途切れた。なにせ、複雑な政治事情が絡んでおり、かつここにきてキューバ人プレーヤーの亡命が増加傾向にあるため、キューバプロジェクトが頓挫しかけている可能性も十分あると思っていた(実際、そうだったかも知れない)。さすがに見込みで航空券を抑える訳にも行かず、結局生涯初のキューバ行きは断念した経緯がある。

そして、最終的に日程が発表されたのは3月1日だった。そして、ぼくが見込んでいた29-30日の2連戦ではなく、22日のみの1試合の開催になっていた。しかし、オバマ大統領の訪問が付いてきた(大統領訪問にレイズの試合が付いてきた、と言うべきだろうが)。大統領のスケジュールまで絡んでいたとなると、容易に開催を決定・発表できなかったのも理解できる。

こうしてみると、レイズのキューバ遠征はMLBの海外戦略の域を超え、ある意味では国家的プロジェクトの一環だとさえ言えそうだ。

冒頭記したように、アメリカとキューバの関係改善は必ずしも当初の青写真ほど順調には進んでいないと見るべきなのだが、このことは野球界にも大きな影響を及ぼしている。それは、この歴史的イベントは前述の通りキューバ人選手の亡命が後を絶たない中で開催されることに現れている。

MLBとキューバ野球連盟の間には、米国のキューバへの経済制裁の影響で選手の移籍に関する合意が存在しない。キューバ人ジャーナリストのフランシス・ロメロによると、昨年1年間だけで亡命した野球選手は150名にも上るという(われわれがメディアを通じて知ることになるのは、あのグリエル兄弟などの一部のスター級のケースのみなのだ)。

そのユリエスキとルルデスのグリエル兄弟がドミニカに亡命したのは2月上旬のことだ(多くのキューバ人亡命選手は、直接アメリカには渡らない。そうしてしまうと、アマチュアドラフトの対象となるからだ。ドラフト経由での一対一の交渉となると、競争原理が働かないため契約条件が高騰しない)。また、2月下旬にはホルヘ・ソレーア(カブス)やホゼ・アブレイユらの代理人のバート・ヘルナンデスがレオネス・マーチン(現マリナーズ)の2010年の亡命に関して人身売買行為で逮捕されるというスキャンダルもあった。MLBはキューバ選手との契約の特別許可を合衆国政府に申請しているが、現時点ではまだ明確な進展はない。

ロブ・マンフレッド・コミッショナーは今回の興業に際して、来年のWBCでのキューバ亡命選手のキューバチームからの出場や、あまつさえ将来のキューバへのMLB球団配置への意欲すら表明している。しかし、前者はともかく後者にはそれにはまず政府の禁輸措置の解除が前提になるだろう。

この二国間の関係は、政府間も野球界同士も少しずつ雪解けの道を進んでいることは間違いないが、ここに述べたように全てが順風満帆という訳ではない。22日のエキジビションは、オバマ大統領が観戦しあのデレク・ジーターも現れるようだが、そんな背景を背負って開催されるのだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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