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食べ物を粗末にする系YouTuberがヒカキンにカレーパンを投げて非難の嵐! 真の問題は何か?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

食べ物を粗末にする動画

今年もYouTuberによる炎上事案を何度も取り上げてきましたが、年の瀬になっても残念に思うことがありました。

チャンネル登録者数71.5万人を誇るYouTuberのオセロが、食べ物を粗末に扱う動画を配信しています。

2023年12月16日に「24時間投げやすい食べ物生活!有名YouTuber達に投げたよ!」と題したコンテンツを投稿。カレーパン、豆腐、赤飯、肉まん、ゼリー、卵、ハンバーグ、大福を、壁に貼り付けたヒカキンをはじめとした有名YouTuberなどの写真に向かって投げつけました。食べ物を投げる様子、それも、人の写真に投げつける様子は、観ていて楽しいものではありません。

公開されたばかりということで、まだ視聴数は1万未満。「今日の動画も面白いですね!」「流石におもろすぎwww」といったポジティブなコメントもありますが、「日本人として恥ずかしい」「このチャンネルもうダメだー」「もうやめてくれ」「もうこいつの人生終わった」など非難するコメントがほとんどです。

前日にも食べ物を粗末にする動画を公開

この前日となる2023年12月15日には「24時間踏みやすい食べ物生活!」と題した動画を公開しています。

シュークリーム、赤飯、ミートボール、肉まん、セブンイレブンの「ななチキ」、バナナ、アイスクリームを足で踏み潰しました。その後でぐちゃぐちゃになったものを食べ始めましたが、動画が終了したので、どれだけ食べたのかは不明。踏み潰している場面も、食事している場面も、視聴していて気持ちの良いものではありません。

視聴数は1.6万回程度。コメントでは「食べたら良いって問題じゃないんだよな。」「食べ物を踏んで、食べるのは、普通の食べ方には考えられない」など批判が多いですが、「ちゃんと食べるの偉い」「やばいけどおもろい笑笑」と肯定しているものもあります。

以前にも食べ物を粗末にする動画を配信

以前にも、食べ物を粗末にする動画を配信して炎上していました。

「24時間打ちやすい食べ物生活」というタイトルの動画は、2023年12月5日に公開されて視聴数6.2万回。先の動画に出演していたのとは違う人物が、シュークリーム、肉まん、バナナ、卵、鮭、カレーパン、赤飯、豆腐をバットで打っていました。ふざけながら次々と食べ物を打って壁に叩きつけており、こちらも気分が悪いです。

これより前には「寒いので100度の豚汁を頭にかけてあげました」(2023年11月28日公開、1.8万回視聴)や「友達が作った花束風カプレーゼ投げてみた!」(2023年11月18日公開、1.2万回視聴)など、食べ物を粗末にする動画が上がっています。

「食べ物粗末にして何が悪いん?今日から俺の時代や!」(2023年12月2日公開、5万回視聴)という動画もあり、食べ物を粗末にすることがネタとなっているようで、“食べ物を粗末にする系YouTuber”ともいわれています。

食べ物を粗末にしてはいけない理由

なぜ食べ物を粗末にしてはいけないのでしょうか。

それは、食材への感謝やつくり手へのリスペクトが欠如している行為だからです。

「いただきます」の語源は諸説ありますが、最もよく知られているのは、食材である植物や動物の命をいただいていることへの感謝から生まれたという説。植物を育てたり、生き物を育てたり、魚をとったりする生産者、さらにはそれを運ぶ人たちがいて、食材が食べられるようになります。動植物の命をいただいていること、多くの人の手を介することを鑑みれば、食材をぞんざいに扱うことは、動植物や生産者を蔑ろにしているということです。

料理人や菓子職人など、つくり手に対する尊敬も欠落してます。料理やお菓子をつくったり、食品を開発したりするには手間や時間がかかります。つくり手は、食べ手に喜んでもらえるように、満足してもらえるようにと、食べ物をつくっているのです。遊んでもらうために、食べ物をつくっているのではありません。

もしも、配偶者やパートナー、母親や父親、祖母や祖父など、自分にとって大切な人がつくったと考えたら、その食べ物を粗末に扱えるでしょうか。少し想像力を働かせてみれば、たとえ大切な人がつくったのではなくとも、食べ物を粗末には扱えないものです。

食べ物を粗末に扱うコンテンツ

以前はよく、テレビ番組で、パイを投げあったり、相手の顔に押し当てたりする場面が見掛けられました。こういったパイは食べるためにつくられたパイではありません。単に紙のパイ皿にホイップクリームが載せられていたり、場合によっては、ホイップクリームですらなくシェービングクリームが使われていたりすることもあります。

もしも、食用ではないフェイクであったとしても、粗末に扱うことは賛同できません。なぜならば、本当は食べ物ではないとしても、食べ物のようなものを粗末にしている行為が放送されることによって、食に対するリスペクトが損なわれてしまうからです。

テロップで「食用ではありません」「シェービングムースです」と表記されていたとしても、視聴者には食べ物を粗末にしているように感じられます。そうすると、食べ物を粗末にしてもいいのだと誤認する人が現れるのです。消費期限や賞味期限が切れた食品を粗末にしても同じことでしょう。

些細なことから食に対する尊厳は失われていきます。

まだ食べられるものであれば当然のことながら、消費期限切れや賞味期限切れであったとしても、フェイクであったとしても、食べ物や食べ物と思われるものを粗末に扱うコンテンツは全く好ましくありません。

食育の重要性

食べ物を粗末にする行為は食育に反しています。

食育は、2005年に成立した食育基本法で「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるもの」です。食育基本法の第一章第三条では「食に関する感謝の念と理解」が記載されています。

小さい頃、茶碗に残った米一粒まで食べるように教育された人と、好き嫌いがあって何を残しても注意されなかったりした人とでは、食べ物を大切にする感覚が全く異なります。

食べ物を粗末にすることを何とも思わない人は、食材を育てたことがないのはもちろんのこと、簡単な料理さえもしないのではないでしょうか。少しでも、料理や食材に接していれば、食べ物を粗末にしないものです。

食べ物を粗末にする動画が制作されたり、この動画を面白く感じる人が存在したりする状況を鑑みると、食育がもっと必要であると痛感させられます。

日本の食は世界からも評価

2013年12月に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食および日本料理、日本の食文化の素晴らしさが、改めて世界から認識されるようになりました。

2022年の農林水産物・食品の輸出額は、前年比14.2%増となる過去最高の1兆4,140億円を記録。世界から日本の食品が求められていることがわかります。

2023年12月5日に発表されたばかりの「ミシュランガイド東京2024」では、東京は引き続き世界で最も多くの星を獲得。三つ星の12軒、二つ星の33軒、一つ星の138軒は、それぞれ世界で最も数が多いです。

「ミシュランガイド東京2024」の読み方 発表会に参加したグルメジャーナリストの視点(東龍)/Yahoo!ニュース

今後の日本

日本の食は世界からも非常に評価されています。しかし、当該国である日本で、食が軽く扱われているのは大きな矛盾です。こういった動画が広く拡散されるようであれば、日本の食の価値は国内外で著しく毀損されてしまいます。

今後、人口が減少していき、エネルギー資源もなく、国力が低減していく日本では、食は非常に強い武器となることは間違いありません。若い方が多いYouTuberにとっては、なおさら切実なことではないでしょうか。

日本の食文化を毀損したり、貶めたりする動画は、我々の子孫にとっては極めてネガティブとなります。YouTubeは世界に発信できるプラットフォームであるだけに、日本の食文化が素晴らしいと世界に発信していただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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