Yahoo!ニュース

「フレンチの名店」と「一つ星の日本料理店」が七夕にコラボディナー 開催された背景とある仕掛けとは?

東龍グルメジャーナリスト
「アルジェント」と「乃木坂 しん」のコラボレーション (C) 東龍

特別感のあるコラボレーションディナー

レストランのコラボレーションは日々行われています。

ゲストは二つのレストランの味を体験でき、レストランは普段とは異なる層のゲストが訪れるので、双方にとって嬉しいイベントです。数日だけ開催されることが一般的なので、特別感もあります。

つい先日も非常に注目されたレストランのコラボレーションが行われました。

それは、2023年7月7日に銀座のフランス料理店「アルジェント」で行われた、日本料理「乃木坂 しん」との一夜限りのコラボレーションディナーです。

「アルジェント」は、日本のフランス料理界に寄与してきたひらまつが運営する、銀座のフランス料理店。経験豊富な鈴木健太郎氏が2019年から料理長を務め、2023年「ボキューズドール国際料理コンクール」で日本代表に選出された石井友之氏が副料理長を務めています。

「乃木坂 しん」は徳島の名料亭、銀座の名店で経験を積んだ石田伸二氏が腕をふるう、日本料理店。ミシュランガイドではオープン以来ずっと一つ星に輝いています。

コースの内容

「アルジェント」入口 (C) 東龍
「アルジェント」入口 (C) 東龍

今回のコラボレーションではフランス料理と日本料理という垣根を超え、石田氏、鈴木氏、石井氏の三者が互いのもつ技術やアイデアを紡いで特別コースを共創しました。

料理を引き立てるペアリングは、「ゴ・エ・ミヨ 2022」でベストソムリエ賞を受賞した「乃木坂 しん」オーナーソムリエの飛田泰秀氏と「アルジェント」支配人兼ソムリエの添田恒平氏が選定。

メニューは次の通りです。

・先付

フォアグラ 青梅 和三盆/太刀魚 おかき揚げ クレソン

Delamotte Blanc de Blancs

・前菜

折戸茄子 オマール海老 雲丹

2020 Condrieu Etienne Guigal

・お椀

鰻 枝豆 赤紫蘇

2021 ELOGE Grande Cuvee 平川ワイナリー

・お造り

あおり烏賊 瞬〆スズキ すだち

2011 Verdicchio di matelica Vertis Borgo Paglianetto

・強肴

天竜鮎 すいか 蓼

2008 Chateau Trotte Vieille

・お凌ぎ

そうめん南瓜 セロリ節 レモン

琥珀プレミアムとHITOYO Centauri

・八寸

鱧 じゃがいも 黒トリュフ/鮑 水貝 肝醤油/秋田牛 玉蜀黍/胡瓜 キャビア/黒ニンニク きのこ

2016 Componidori Contini

・炊き合わせ

仔羊 蕎麦 クロモジ

2004 Alte Domenico Clerico

・食事

蛸飯 ベアルネーズ

・水菓子

桃 泡 くず餅/かき氷 阿波番茶 さくらんぼ

2012 Passito Oro La Spinetta

・小菓子

ミニャルディーズ

日本料理の流れになっていますが、フォアグラ、オマール海老、黒トリュフ、仔羊、ベアルネーズなど、日本料理では扱わない要素が見かけられます。多皿ながらも、ほぼ全てがペアリングになっており、数多のマリアージュを体験できるのもガラディナーならでは。

では、それぞれのメニューを詳しく紹介していきましょう。

先付

フォアグラ 青梅 和三盆/太刀魚 おかき揚げ クレソン

先付 (C) 東龍
先付 (C) 東龍

先付は2種類が同時に提供されます。左が、フォアグラのテリーヌで青梅を包み、和三盆を加えた一品。甘味と酸味、濃厚さが一体となり、口の中で複雑な味わいが広がります。右が脂がのった太刀魚のフリット。おかき粉をまぶし、少し粘り気がありながらもサクっとした食感です。

前菜

折戸茄子 オマール海老 雲丹

前菜 (C) 東龍
前菜 (C) 東龍

静岡県の丸茄子「折戸茄子」を揚げ浸しにし、器に仕上げました。滋味のあるオマール海老に、適度な苦味を有する万願寺唐辛子の取り合わせがよいバランス、雲丹のアイスクリームとオマール海老の出汁からつくったジュレが爽やかです。

お椀

鰻 枝豆 赤紫蘇

お椀 (C) 東龍
お椀 (C) 東龍

鰻の骨からとった滋味のあるスープが非常に美味。鰻の力強さと枝豆の青い香りが、秀抜なコントラストです。トップには赤紫蘇と木の芽の鮮やかなアクセント。

お造り

あおり烏賊 瞬〆スズキ すだち

お造り (C) 東龍
お造り (C) 東龍

「瞬〆スズキ」は活〆(血抜き)・神経抜きすることで、鮮度と旨味を長く維持した千葉県のブランド魚。食味のいい「瞬〆スズキ」を2週間熟成させて旨味を増しました。甘味のあるあおり烏賊は、石田氏の包丁技術によって佳味を存分に引き出してから、雪塩とスダチの汁をかけて提供。とろみのついたバター風味のソースに合わせたのが、新しい感覚です。たっぷりの花穂紫蘇は見た目にも美しいプレゼンテーション。

強肴

天竜鮎 すいか 蓼

強肴 (C) 東龍
強肴 (C) 東龍

天然の鮎のように育てられた天竜鮎を、シンプルに塩焼きしました。香魚ともいわれるほどの幽香が、添えられたスイカのガスパッチョにぴったり。苦味のある蓼のソースが、鮎の肝と調和します。

お凌ぎ

そうめん南瓜 セロリ節 レモン

お凌ぎ (C) 東龍
お凌ぎ (C) 東龍

ガラス製のタンブラーで提供され、見た目が涼しげです。そうめん南瓜に加えて、三輪そうめん「白竜」も用いられていて、取り合わせの妙味が感じられます。セロリ節のハーバルな香り、レモンコンフィチュールのキリッとした酸味と苦味が印象的です。

八寸

八寸 (C) 東龍
八寸 (C) 東龍

5種類がワンプレートに載せられた八寸。左下から時計回りの順番で紹介していきましょう。

「鱧 じゃがいも 黒トリュフ」は、湯引きした鱧と、夏が旬のオーストラリア産の黒トリュフ、粗く潰したジャガイモを天ぷらにしました。玉蜀黍のケーキに見立てた「秋田牛 玉蜀黍」は、「アルジェント」特製の秋田牛のベーコンを生かした醤油風味のサンドイッチです。

「黒ニンニク きのこ」はモリーユ茸、トランペット茸、ポルチーニ茸を、マデラ酒と醤油、味醂で炊き上げた和仏折衷の料理。蓋として被せられている黒ニンニクのチュイールが奥深い味わいです。

「鮑 水貝 肝醤油」は夏らしい一品。コリコリっとした鮑に妙妙たる味わいの肝醤油のソースが出色です。「胡瓜 キャビア」は、石井氏のスペシャリテ。胡瓜のすり流しと大葉やミントの相性は白眉で、キャビアの塩味が心地よいパンチとなっています。

炊き合わせ

仔羊 蕎麦 クロモジ

炊き合わせ (C) 東龍
炊き合わせ (C) 東龍

仔羊はフランス・ロゼール産で、その鞍下肉(セルダニョー)を大胆にアレンジしました。仔羊のロティは穏やかな火入れで、その甘味と繊細さを十分に賞玩できます。蕎麦の実の雑炊が小気味よく、クロモジのほのかなフローラル香も素晴らしいです。

食事

蛸飯 ベアルネーズ

石田氏がテーブルを回って土鍋の中身を見せてくれました。ふっくら炊き上げられた米は、味わいが凝縮された蛸と抜群の相性。味噌を加えた卵黄とバターのベアルネーズソースを合わせて、リッチな“〆の食事”に仕上げました。

水菓子

桃 泡 くず餅/かき氷 阿波番茶 さくらんぼ

水菓子 (C) 東龍
水菓子 (C) 東龍

蓮の葉を外すと「桃 泡 くず餅」が現れます。発泡感を残したシャンパーニュのジュレに、桃を包んだ葛饅頭を合わせ、初々しい甘味が感じられます。

「かき氷 阿波番茶 さくらんぼ」は、酸味のある阿波晩茶のかき氷にマラスキーノと赤ワインのシロップをかけ、とても香り高い氷菓に。ペドロヒメネス風味のレンズ豆のぜんざい、発酵させたサクランボが忍ばされており、洋風のニュアンスが感じられます。

小菓子

ミニャルディーズ

小菓子 (C) 東龍
小菓子 (C) 東龍

鉢植えの上に花と枝……と思ったら、最後の小菓子でした。紙に包まれたチーズケーキがカカオニブの上に載せられ、小枝に刺した抹茶パウダーをまとったチョコレートがカカオニブの中に埋められているという、心憎い演出です。

充実のペアリング

ワインのペアリング (C) 東龍
ワインのペアリング (C) 東龍

先付に合わせたのは、ひらまつのオリジナルラベルが付いた「Delamotte Blanc de Blancs」。シャルドネ100%のシャンパーニュで、クリーミーな泡がフォアグラにもフリットにもよく合っています。

前菜のペアリングは「2020 Condrieu Etienne Guigal」。フランスのコート・デュ・ローヌ地方の有名な生産者エティエンヌ・ギガルによる白ワインで、クリームやハーブに寄り添います。

お造りには「2011 Verdicchio di matelica Vertis Borgo Paglianetto」をマリアージュ。ボリュームはありながらもすっきりとした柑橘系で、あおり烏賊に合わせられたスダチにもぴったりです。

炊き合わせには、イタリアのピエモンテ州の赤ワイン「2004 Alte Domenico Clerico」。ネッビオーロのタンニンと渋味が仔羊の脂やクロモジの香りと相乗効果を創出しています。

開催された背景

これだけの特別なコラボレーションが、どのようにして開催されることになったのでしょうか。

以前から、ひらまつのスタッフと「乃木坂 しん」の飛田氏が、コロナ禍が落ち着いた頃に何か楽しいコラボイベントを行いたいと話していました。「乃木坂 しん」が改装休業に入った今回のタイミングで具体的な企画として立ち上がり、アルジェントのシェフ、鈴木氏がこの企画に最初に興味を持ち、真っ先に手を挙げてコラボレーションに立候補したという経緯です。

互いを知る

左から順番に、鈴木氏、石田氏、飛田氏、石井氏 (C) 東龍
左から順番に、鈴木氏、石田氏、飛田氏、石井氏 (C) 東龍

コラボレーションのコースでは、料理を交互に提供するケースがほとんど。しかし、新しい料理体験をゲストに提供したいということで、日本料理とフランス料理を交互に提供するコースではなく、全員が一つになり、一皿ずつ創り上げるコースを紡ぎました。「乃木坂 しん」がコラボレーションする際には、このようなスタイルを採用しているので、今回もスムーズに進められたといいます。

コラボレーションで難しいのは、どのようにメニューを決めるかです。才能ある三者が同じ一皿を完成させるとあれば、簡単ではありません。そこで最初に行ったのは、料理人とソムリエが、それぞれの店に訪れて試食し、互いをよく知ることでした。

複数回の試作

コースを考案する際には、まず使いたい食材をリストアップし、各メニューでメインとなる食材を選定。そこから議論を重ねていき、調理方法や付け合せを決定しました。それぞれで試作を行い、最終的には全員が何度も「アルジェント」に集まり、試作と調整を重ねて、一皿一皿を完成させていったといいます。

石田氏が「仔羊は普通、日本料理では使いません。しかし、議論を重ねていってよい食材だと思ったので、チャレンジしました」と述べるように、新たな試みが生まれていきました。

何度も試作と議論を重ねて完成させたので、全員が納得する内容に仕上がったのではないでしょうか。

意識したところ

石井氏は「味の構成をみるようにして、甘味と酸味のバランスを考えました」と述べます。飛田氏は「ペアリングはワインにこだわらず、メニューに合わせて様々な角度から模索しました」と述懐。

最も苦労した点について、鈴木氏は次のように答えます。

「苦労したところはないといってもよいくらい、色々なアイデアを融合させながら、一皿一皿を創り上げました。唯一難しかったのは塩分濃度です。塩で旨味を引き上げるのか、旨味があるから塩を決め過ぎないかなど、フランス料理と日本料理の考え方の違いがありましたが、石田さんや飛田さんの話を聞いて、なるほどと納得して、とても勉強になりました」

演出も印象的

七夕の短冊がメニュー (C) 東龍
七夕の短冊がメニュー (C) 東龍

料理やワインだけではなく、演出にも凝っていました。当日は七夕ということで、ダイニングに立派な笹竹が置かれ、短冊がたくさんあしらわれていました。この短冊が実はメニューになっており、会がスタートすると、スタッフが短冊を外してテーブルまで運んで来たのです。この演出には、多くのゲストが感嘆させられました。

石田氏が最後の“食事”で土鍋を披露するため、各テーブルを回っていたのも印象的です。日本料理ではお馴染みの演出ですが、「アルジェント」の広い洋風ダイニングでも行われたのは、石田氏のサービス精神の現れでしょう。

次は「乃木坂 しん」で開催

改装中の「乃木坂 しん」は2023年9月8日にグランドオープンします。そして10月20日と21日には、新生「乃木坂 しん」でこのコラボレーションが開催される予定です。メニューは一新され、もっと日本料理に寄せられます。

「乃木坂 しん」オープンならびにコラボレーションは秋となりますが、夏本番を迎える今から、非常に待ち遠しいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事