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ホストがTikTokで「あえて低評価の飲食店」をリポートして話題に! 画期的な動画の功罪とは?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

低評価の飲食店リポート

外食する際にどれくらい飲食店を調べますか。

店舗データをチェックしたり、評価の点数を見たり、クチコミを確認したり、シェフのインタビューまで読んだり、もしくは、全く調べたりしなかったりと、人によって差は大きいです。

少し前に、あるホストの方に関する記事を読みました。

「留置場で思いついた」“低評価店グルメリポート”が話題のホストTikTokerを直撃/bizSPA!フレッシュ

あえて評価が低い飲食店に訪れて、動画を撮影し、TikTokでリポートを配信するというシリーズです。他にはない飲食店リポートということもあって反響もあり、再生回数も多いです。現在でも続けられており、全部で59店をリポートしています。

リポートの概要

飲食店のリポートは、だいたい次のような流れで行われています。

Google マップで低評価の飲食店を見つけるところから始まり、予約してから飲食店を訪問。一人、もしくは、複数人でリポートすることもあります。最初にメニューを映し、食レポが続き、従業員と話すことも少なくありません。最後にレシートを確認して、何か不審点や納得できないことがあれば従業員に確認します。

飲食店には、撮影すること、および、動画で公開することを知らせていません。見切れさせたり、ぼかしを入れたりして、基本的にはどの店であるかわからないようにしていますが、映り込みによって、わかりそうになることもあります。

カジュアルな創作居酒屋が多く、コースではなくアラカルトを注文。全て自腹で支払っています。

価格の問題

一連の動画では、飲食店における景品表示法や消費者契約法の問題が提起されているように思います。

まず価格の問題。飲食店では席料、お通し、サービス料、週末割増などが追加されることがあります。予約時もしくは当日に、飲食店は、表記や口頭で、料理やドリンク、サービス、空間を、どのような条件や価格で供するかを提示。客は納得すればオーダーして対価を支払います。両者はあくまでも契約関係にあり、重要となるのは、飲食店が客にしっかり説明することです。

前述した料金は、飲食業界で曖昧にされているケースが少なくありません。件の動画では、最後にレシートを確認し、提示されていなかったり、説明されていなかったり、同意が取られていなかったりした料金を従業員に指摘していました。

メニューに記載された価格よりも多い金額が請求されていたケースもありますが、これは明らかに違法でしょう。

飲食店における曖昧な料金体系を具体的に炙り出したのは意義があるといえます。

メニューの問題

次はメニューの問題です。メニューに名前や写真が掲載されていますが、実物が提供されて、本当に同じものなのか疑問に感じられる時もあります。

件の動画では、不審に思った時に、メニューと同じものであるかどうかを従業員に確認。すると、メニューに記載された食材と、実際に提供されたものが違っていたこともありました。

メニューの写真が実物とどれくらい同じでなければならないかは、非常に難しいところ。ただ、飲食業界における表記の問題が映し出されているのは確かです。

明細書の義務

リポートした飲食店では明細が記載されたレシートが発行されていたので、前述の問題点を指摘できました。ただ、これはあくまでもカジュアルな業態だけでの話です。

ファインダイニングでは通常、雰囲気を壊すような野暮なものという認識があり、レシートのような明細書はほぼ出されません。会計時に、合計金額だけが提示されます。オーダーする際にも、値段が明示されることはほとんどありません。

民法486条により、飲食店は客から領収書を求められたら交付する義務はありますが、明細書を出す必要はないのです。ただ、会計時に、客が訝しがったり、納得しなかったりした場合には、支払ってもらうために、飲食店は明細を提示することになるでしょう。

不誠実な飲食店の淘汰

総務省統計局が集計した2016年の経済センサスによれば、飲食店は全国に453,541店。データが古いので、現時点での実情を最もよく表している食べログで調べてみると、記事執筆時点で、全国では849,376店、東京都には132,593店、大阪府には66,815店が掲載されています。

Number of restaurants/World Cities Culture Forum

World Cities Culture Forumによれば、東京は世界で最も多くのレストランを擁している都市。ミシュランガイドで最も多くの星を獲得している都市も、東京です。飲食店の競争は厳しく、オープンしてから1年後には10%から20%が廃業し、5年間存続するのは10%であるといわれています。

様々な飲食店があるのは、飲食業界の魅力です。しかし、不誠実な飲食店が存在していれば、飲食業界は信頼を失ってしまい、真面目な飲食店に迷惑をかけてしまいます。したがって、利用者に不信感を与えるような飲食店は、淘汰されてしかるべきではないでしょうか。

味の評価

ここまで紹介してきたように、飲食業界の暗部に一石を投じたということで、低評価の飲食店リポートには、一定の意義があると考えています。

ただ、気になる点もあります。

冷凍品が適切に処理されていなかったり、代替食品の状態がよくなかったりと、料理が明らかにおいしくなさそうなことが、画面から伝わってくる場面もありました。

ただ、味の評価は個人差に依拠するところが大きいです。必要以上にまずいと喧伝するのは、飲食業界にネガティブな印象を植え付けてしまうので、あまり好ましくないと感じます。

顔バレでの評価

動画が人気になっていることもあり、リポートする飲食店の従業員に顔が知られていることがありました。

自分のことを知っていると、確かに厳しい評価は出しにくいものです。ただ、嬉しかったからといって、チヤホヤされたといい、お通しやサービス料について言及せず、よい店と持ち上げてしまうのはアンフェアであると思います。

本来であれば、飲食店の潜入調査は匿名が好ましいです。たとえば、ミシュランガイドでは調査員の匿名性は非常に高く、調査中(食事中)に身元がバレたり、名乗ったりすることはありません。件の動画は、TikToikで自身を売り出すための企画なので顔出ししたいのは理解できますが、顔バレしていれば、このような事態は十分に起こりうることです。

飲食業界によい影響があることを期待

動画主が働くホストクラブという業態は、風俗営業における接待飲食等営業の1号営業に分類されます。大きな括りでは同じく飲食店営業を行う業態であるだけに、風営法の対象ではない通常の飲食店によい影響を及ぼすようなコンテンツが制作されることを期待したいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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