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世界3位の日本人シェフが腕をふるうレストランは? ほとんどの料理に「ある食材」を使うワケ

東龍グルメジャーナリスト
レストラン ブリーズヴェール (C) 東龍

トロフェ・パッション インターナショナル

日本では様々な料理コンクールが行われていますが、美食の王様であるフランス料理では特に活発です。フランス料理の三大コンクールといわれているのが、「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」「エスコフィエ・フランス料理コンクール」「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」。

これらに加えて、最近注目されているのが、若手料理人が競う「トロフェ・パッション インターナショナル」です。アカデミー・キュリネール・ドゥ・フランスが主催している、40歳未満の若手料理人が競うフランス料理国際コンクールで、2年に1度だけの開催。

直近2022年11月6日にフランスで行われた「トロフェ・パッション インターナショナル 2022」では、日本代表は見事、世界3位となりました。

茂手木了氏が世界3位に

日本代表の座を勝ち取り、世界で3位に輝いたのが、1985年生まれの茂手木了氏。

茂手木氏は、オードブルに「有機の卵を中心にしたオードブル」、メインディッシュに「2つの焼いたヴォライユ・フェルミエール」、デザートに「カフェ・グルマン」を創作して、高い評価を得ました。

これまでにも、2018年に「第52回ル・テタンジェ国際料理賞コンクールジャポン」で優勝したり、2021年に「第31回プリンスホテル料理コンクール 洋食部門 シティエリア」で準優勝したりと輝かしい実績を残しており、今回はとうとう世界へと羽ばたいた形になります。

「レストラン ブリーズヴェール」の料理長

ザ・プリンス パークタワー東京 (C) 東龍
ザ・プリンス パークタワー東京 (C) 東龍

茂手木氏が料理長を務めるのは、ザ・プリンス パークタワー東京のフランス料理「レストラン ブリーズヴェール」。プリンスホテルのフラッグシップであるザ・プリンスにカテゴライズされており、食にも定評のあるホテルです。

日本料理、天ぷら、寿司、鉄板焼、中国料理というファインダイニングがある中で、「レストラン ブリーズヴェール」がメインダイニングとなっています。

この「レストラン ブリーズヴェール」で楽しみたいのが「シェフズパッション」(26,000円、税込・サ別)です。その名の通り、茂手木氏のパッションが感じられる、スペシャルなコースとなっています。

季節によって内容がかわりますが、2023年4月1日からのメニューを詳しくご紹介していきましょう。

お食事前の軽い一皿

お食事前の軽い一皿 (C) 東龍
お食事前の軽い一皿 (C) 東龍

最初は旬の新タマネギの魅力を味わえるアミューズ。ステムの長いカクテルグラスで美しく映えます。3層構造になっていて、下から順番にハーブのソース、新タマネギのムースリーヌ、半日かけてエキスを抽出した新タマネギのコンソメジュレ。上にはバフンウニと新タマネギのチップをのせています。

オマール海老とオセトラキャビア ポタージュヴェールとメロン ヴァニラと生姜の風味で

オマール海老とオセトラキャビア ポタージュヴェールとメロン ヴァニラと生姜の風味で (C) 東龍
オマール海老とオセトラキャビア ポタージュヴェールとメロン ヴァニラと生姜の風味で (C) 東龍

新緑をイメージした春の新作。ボイルしたオマール海老を主役にし、グリーンピースの冷製スープを添えました。豆のツル、スナップエンドウ、ソラマメ、バニラとショウガ、さらにはメロンも加えて、フレッシュな味わい。

ジャガイモに包まれた御養卵 スパイス香るズワイ蟹

ジャガイモに包まれた御養卵 スパイス香るズワイ蟹 (C) 東龍
ジャガイモに包まれた御養卵 スパイス香るズワイ蟹 (C) 東龍

茂手木氏のスペシャリテのひとつで、前のレストランでも提供して好評だったことから「レストラン ブリーズヴェール」でも提供することに。卵のビルロワ風を再解釈したという意欲作で、「トロフェ・パッション インターナショナル」でもつくりました。

臭みのない栃木県那須の御養卵を用いたモダンなスコッチエッグ風の料理で、鶏肉のムースを衣にして揚げられています。春菊のピューレと卵のムースリーヌを合わせ、柚子を削りました。料理コンクールでは、鶏肉でしたが、今回はターメリックと生姜の風味をまとわせたズワイガニを配しています。トマトソースはサスティナブル商品の富山県産フルティカを使用。上にはハーブがあしらわれており、こちらも爽やか。

ホワイトアスパラガスのパート包み焼き ラングスティーヌを添えて

ホワイトアスパラガスのパート包み焼き ラングスティーヌを添えて (C) 東龍
ホワイトアスパラガスのパート包み焼き ラングスティーヌを添えて (C) 東龍

フランス・ロワール地方のホワイトアスパラガスを生ハムで巻いてから、パートブリックに仕上げて、旨味とパンチを増しました。ポンカン、ムースリーヌ、クルミオイルのソースで、コクと酸味を加えています。ラングスティーヌのソテーが添えられており、とても贅沢。

白身魚 アーティチョークとアンチョビ シャンパーニュの風味で

白身魚 アーティチョークとアンチョビ シャンパーニュの風味で (C) 東龍
白身魚 アーティチョークとアンチョビ シャンパーニュの風味で (C) 東龍

白身魚は愛媛県から取り寄せており、その時々に鮮度のよいものを使用。身を香ばしく、ふんわりと焼き上げました。シャンパーニュにアーティチョークとアンチョビを合わせたソースが白身魚の滋味を引き出します。セリのシャキシャキとしたテクスチャも出色。

メインディッシュ

メインディッシュは2つのうちから1つを選択します。どちらとも紹介しましょう。

フランス産 仔羊背肉のロティとフォアグラ 栗カボチャとグレープフルーツのアンサンブル

フランス産 仔羊背肉のロティとフォアグラ 栗カボチャとグレープフルーツのアンサンブル (C) 東龍
フランス産 仔羊背肉のロティとフォアグラ 栗カボチャとグレープフルーツのアンサンブル (C) 東龍

フランスの仔羊を美しいロゼ色にローストし、ジューシーで繊細な味わいを残しました。ジュ・ド・アニョーとグレープフルーツのソースで、ほんのりと酸味のアクセントがあります。ガルニチュールは、カボチャのムースをグレープフルーツのジュレでコーティングしました。

黒毛和牛フィレ肉 “シャトーブリアン” 干し草の芳香 トリュフソースとモリーユ茸のア・ラ・クレーム

黒毛和牛フィレ肉 “シャトーブリアン” 干し草の芳香 トリュフソースとモリーユ茸のア・ラ・クレーム (C) 東龍
黒毛和牛フィレ肉 “シャトーブリアン” 干し草の芳香 トリュフソースとモリーユ茸のア・ラ・クレーム (C) 東龍

黒毛和牛をストウブ鍋で火をかけ、干し草で燻製しました。ローリエ、タイム、ローズマリーを用いながら風味付けしています。付け合わせは旬の野菜で、トリュフソースの妖艶な香りが食欲をかき立てます。

エル・エ・ヴィールチーズのスフェール 宮崎マンゴーとアネットのソルベ

エル・エ・ヴィールチーズのスフェール 宮崎マンゴーとアネットのソルベ (C) 東龍
エル・エ・ヴィールチーズのスフェール 宮崎マンゴーとアネットのソルベ (C) 東龍

なめらかなフランスのナチュラルチーズ「エル・エ・ヴィールチーズ」を主役にしたデザート。中にはライムのコンポート、上にはディルのソルベをあしらいました。メレンゲチップとシナモンのチュイールを添えて心地よいアクセント。

「エル・エ・ヴィールチーズ」は、茂手木氏がフランスに訪れた時に是非とも使いたいと思った食材。「塩味が利いていて、ミルクが濃厚です」ということで、柑橘の酸味と合わせました。さらには「ソルベにはハーブが合います。ディルはマンゴーと、マンゴーはクリームチーズと相性が抜群です」と自信をもちます。

ワインも充実

左から順番に本文のワイン (C) 東龍
左から順番に本文のワイン (C) 東龍

料理はどれも茂手木氏の“パッション”が込められた印象に残るものばかりでした。それにマリアージュするワインを、ソムリエが茂手木氏と相談してチョイスしてくれます。

「シャンパーニュ バロン ド ロスチャイルド ブリュット」は「レストラン ブリーズヴェール」のハウスシャンパーニュ。シャルドネ60%で優雅な香りがあり、適度な酸味とクリーミーな泡立ちが、食欲をかきたてます。

「アンティノリ チェルヴァロ・デラ・サラ 2018」はイタリア白ワインの白眉。フレッシュでみずみずしい果実感と程よいミネラル感があり、茂手木氏のスペシャリテである「ジャガイモに包まれた御養卵」をさっぱりとさせてくれました。

「シャトー・ド・ベロック」はフランス・ボルドー地方のメルロー主体の赤ワインです。骨格がしっかりとしており、黒毛和牛に負けず、溶け込んだタンニンと和牛香の相性も抜群です。

料理へのこだわり

茂手木了氏 (C) ザ・プリンス パークタワー東京
茂手木了氏 (C) ザ・プリンス パークタワー東京

茂手木氏は鶏料理、ファルス(詰め物)、コンソメ、ソース全般とフランス料理の基本となる食材や調理方法が得意です。それだけに、ここまで紹介してきた料理がどれも非常に素晴らしかったのも首肯できます。

料理に対するこだわりについて訊くと、茂手木氏は次のように答えます。

「母が栽培していたこともあって、小さい頃からハーブに親しんでいました。特に好きなハーブはディルですね。香りは記憶に残るので、大切にしています。ほとんどの料理にハーブを入れていますね」

ハーブだけではなく、伝統も大事にしています。

「クラシックは守りたいので、フレンチの技法は必ず入れます。また、調理作業をする時には必ず、食べる方の情景を思い浮かべますね。どういう方が召し上がるのか、こう調理すればどう思うだろうとか、このように盛り付けたらキレイで食べやすいだろうかと思いを寄せます」

新しいメニューを創る時には、まずどの食材を主役にしようかと考えます。そして、この食材にはどういった食材が合うか、どのハーブが寄り添うのか思案するといいます。

コースの組み立て方

コースはどのようにして組み立てるのでしょうか。

「最初にメインディッシュを、そこから魚料理、前菜、最後にデザートの順番で組み立てています。2品から選べるメインディッシュのうち、1品は必ず牛肉を入れていますね。もう1品はフレンチっぽい食材で、鴨肉、鹿肉、小鳩などを入れており、牛肉に飽きたり、ジビエがお好きであったりするお客様に選んでいただけるようにしています」

今回のコース「シェフズパッション」については、どのように組み立てたのでしょうか。

「特別コースなので、コンクールでつくった卵料理は入れたいと思いました。私が得意な料理であり、大切な料理なので、是非ともお客様に召し上がっていただきたかったからです。他は季節の食材を中心にした料理で構成しています。デザートは、今回私が初めて手掛けていますので、全体を通して一貫性のあるコースに仕上がっていると思います」

チャレンジした理由

茂手木氏はどうして「トロフェ・パッション インターナショナル」にチャレンジしたのでしょうか。

「これまで料理コンクールで実績を残してきたということで、上司から推薦がありました。自身が磨いてきたフランス料理の技術が本場でどこまで通用するか試してみたかったので、挑んでみました」

コンクールに向けては、次のように対応しました。

「日本人が作るフランス料理をつくることと、クラシックなことを取り入れつつも、これまでにないフランス料理を作ることに専念しましたね。日本の食材をフレンチとしてどう活かすか、審査員が見たことのない料理を作ることを考えながら料理のトレーニングに励みました」

コンクールでは什器の故障などもあり、なかなか上手くいかないことが続きました。つくり終えた後は、見た目も思う通りに仕上がらず、あまり手応えがなかったといいます。しかし、それでも料理の味がしっかりと評価されて3位を勝ち取ったのは、これまでの積み重ねが大きかったのではないでしょうか。

幸せな気持ちになれるレストラン

「レストラン ブリーズヴェール」内観 (C) 東龍
「レストラン ブリーズヴェール」内観 (C) 東龍

今後の目標は何でしょうか。

「料理コンクールには、また挑戦していきたいですね。フレンチレストランのシェフとしては、ミシュランガイドの星の獲得も目標です。しかし、何よりも、お客様や従業員が幸せな気持ちになるようなレストランをつくっていきたいです」

スタッフが幸せに働いていれば、ゲストを満足させられます。ゲストが満足すれば、スタッフの励みになることでしょう。料理コンクールで活躍する茂手木氏が腕をふるう「レストラン ブリーズヴェール」に引き続き注目したいです。

※仕入れの状況により、食材の産地やメニューに変更がある

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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