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旬を迎える上海蟹の正式名称は? 日本に週2回も空輸される上海蟹の名店はココ

東龍グルメジャーナリスト
「蟹王府(シェワンフ) 日本橋店」 (C) 東龍

上海蟹の季節

日本では暑い夏も終わり、涼しくなってきました。10月に入ると肌寒い日も増えてきます。フランス料理ではトリュフがだんだんと色濃くなり、香りが強くなっていく時季。ジビエも始まり、自然からの贈り物が味わえます。

中国料理では、ある旬の食材が登場するということで、特別コースが提供されることが少なくありません。その非常においしい食材とは上海蟹です。

上海蟹は正式にはチュウゴクモクズガニといわれる淡水蟹。中国で広く生息していますが、江蘇省昆山市巴城鎮の陽澄湖でとれるものが最上とされています。他のカニに比べて味わいが深く、濃厚な蟹味噌も印象的です。9月から翌年1月くらいまでが季節ですが、一般的に10月は産卵前で卵を有するメス、11月はたっぷりと白子を抱えるオスが最旬であるとされています。

旬を迎える上海蟹は、日本でも大いに盛り上がりをみせるところです。

上海蟹の名店

蟹王府 日本橋店 (C) 東龍
蟹王府 日本橋店 (C) 東龍

日本でも上海蟹が食べられる中国料理店は少なくありません。しかし、誰もが認める名店となると、いくつかに絞られます。そのいくつかに絞られた中で、誰しもが声を揃えて絶賛するのが、「蟹王府(シェワンフ) 日本橋店」です。

「蟹王府」は60年以上の歴史をもつ上海蟹を専門とした企業・上海成隆行グループによって運営されており、2019年に香港のミシュランガイドで一つ星として掲載されました。

中国の壮大な自社養殖場で飼育された上海蟹は、年間4度の厳正なる免疫検査を経て、週に2回も中国から日本へ空輸されます。新鮮な状態を保ち、旬味を逃すことがありません。上海蟹料理のレパートリーは豊富で、独自のレシピで調理された味付けによって、そのポテンシャルを引き出しています。

コースは「蟹味コース」(27,500円)、「蟹趣コース」(38,500円)、「蟹尊コース」(55,000円)が用意されており、アラカルトも豊富です。

上海蟹の名門である「蟹王府」の代表的なメニューを紹介しましょう。

九種前菜盛り合わせ

九種前菜盛り合わせ (C) 東龍
九種前菜盛り合わせ (C) 東龍

「蟹尊コース」で提供される贅沢な9種類の日替わり前菜です。小皿で盛り付けられ、トレイに載せられています。

どれも印象的な料理ばかりですが、いくつかのメニューをピックアップしましょう。上段の真ん中はナマコの四川風で、豆板醤の甘味と辛味が食欲をそそります。その右にあるのが豚肉の醤油煮込み。とてもやわらかく、口中でとろけるような味わいです。中段の左が、酔っ払い上海蟹。紹興酒の香りが豊かで、蟹味噌に複雑味を与えます。下段の真ん中に置かれているのが、黒酢風味の蟹肉の煮こごり。黒酢の旨味が蟹肉の旨味をより引き立てます。

南蘇名物 夫婦蟹味噌ソースかけご飯

南蘇名物 夫婦蟹溝味噌ソースかけご飯 (C) 東龍
南蘇名物 夫婦蟹溝味噌ソースかけご飯 (C) 東龍

南蘇名物 夫婦蟹味噌ソースかけご飯 (C) 東龍
南蘇名物 夫婦蟹味噌ソースかけご飯 (C) 東龍

「蟹王府」のスペシャリテで、合わせて6匹もの雄と雌が使われているという、贅沢な上海蟹のかけご飯。ご飯は長粒種のタイ米で、サラッとしているので蟹味噌をよく吸います。最初に蟹味噌を全て載せて食べ、好みでバルサミコ酢を加えていくと、メリハリがあってよりおいしく味わえるでしょう。

以前はコースの最後の方に提供されていましたが、お腹が一杯で食べられないこともあることから、最初の方に提供されるようになりました。

雲南特産乾燥キノコとベビー白菜の蒸しスープ

雲南特産乾燥キノコとベビー白菜の蒸しスープ (C) 東龍
雲南特産乾燥キノコとベビー白菜の蒸しスープ (C) 東龍

鶏ガラスープをベースにし、松茸、スス茸、アガリクス茸を4時間蒸し煮したスープです。鶏の旨味に加えて、キノコの滋味と土のような香りによって、妙妙たる味わいに仕上がっています。ベビー白菜の甘味とシャキシャキ感がよいアクセントです。

上海蟹の姿蒸し

上海蟹を華麗に捌く (C) 東龍
上海蟹を華麗に捌く (C) 東龍

上海蟹の姿蒸し (C) 東龍
上海蟹の姿蒸し (C) 東龍

上海蟹をまるごと蒸した後に、足以外の肉と味噌を取り出し、再び元の姿に戻したプレゼンテーションが目を引きます。提供する直前に蒸し上げ、すぐにむくという、「蟹王府」ならではの職人技。身のホクホク感や甘味、口中に広がる磯の香りが秀抜です。好みで黒酢ダレを付けるとよいでしょう。

蟹肉蟹味噌フカヒレ炒め

用いられる食材と調味料 (C) 東龍
用いられる食材と調味料 (C) 東龍

蟹肉蟹味噌フカヒレ炒め
蟹肉蟹味噌フカヒレ炒め

本店でも人気のメニュー。ヒラシュモクザメの背ビレをきれいに掃除して、上湯で戻し、土鍋で炒めるという贅沢な食べ方です。煮込み料理であれば、フカヒレの質をごまかせますが、炒めるとごまかせません。上海蟹の雌の卵、雄の白子、足・爪・胸の肉を加えて、濃厚で旨味たっぷりに仕上げました。葱油、ザーサイ油、紹興酒、10種類の香味野菜が入ったラード、香菜の茎、モヤシ、卵、生姜、白胡椒、鶏のエキス、塩、砂糖で調味して、より複雑な味わいに。

蟹の濃厚白子味噌と板春雨の煮込み

蟹の濃厚白子味噌と板春雨の煮込み (C) 東龍
蟹の濃厚白子味噌と板春雨の煮込み (C) 東龍

茹でた春雨に、雄の白子と味噌を和えた、シンプルながらも濃密で出色の一品。季節に合わせた胡麻団子が添えられており、この時季には黄桃の餡が包まれていました。

蟹肉入り春巻き/蟹肉入り小籠包

蟹肉入り春巻き/蟹肉入り小籠包 (C) 東龍
蟹肉入り春巻き/蟹肉入り小籠包 (C) 東龍

ラードを使ったサクッとした生地に、蟹肉をたっぷりと包んだ春巻きです。奥に見えるのが、底に胡麻をたっぷりとまぶし、蟹肉をふんだんに包み込んだ小籠包。上海蟹の専門店でありながら点心師もいるのは、さすが「蟹王府」ならではです。

充実したお酒

左から順番にペリエ・ジュエ、ドメーヌ トラペ、ル・モンラッシェ  (C) 東龍
左から順番にペリエ・ジュエ、ドメーヌ トラペ、ル・モンラッシェ (C) 東龍

支配人でソムリエの木村好伸氏によるペアリングも素晴らしいです。ワインは400本も用意されています。

「ペリエ・ジュエ ベル・エポック ロゼ ブリュット 2004」は美しい色合いから連想される華やかさと、まろやかな味わいが魅力。いくつもの食味が味わえる前菜の盛り合わせをはじめとして、どの料理とも合うシャンパーニュです。

「ドメーヌ トラペ アルザス グラン・クリュ ゲヴェルツトラミネール ゾンネングランツ」はフランス・アルザス地方の白ワイン。ゲヴェルツトラミネールの華やかな香りが、濃厚な「南蘇名物 夫婦蟹味噌ソースかけご飯」をさっぱりとさせてくれます。

「ル・モンラッシェ グラン・クリュ 2001」は銘醸地であるフランス・シャサーニュ・モンラッシェ村の白ワイン。辛口でありながらも甘美な味わいで、「蟹肉蟹味噌フカヒレ炒め」の濃厚ながらも多様なニュアンスを寛容に包み込みます。

左が紹興酒、右がカクテル (C) 東龍
左が紹興酒、右がカクテル (C) 東龍

中国料理には珍しく、カクテルも合わせられるのが特徴的。シャルトリューズ、ジン、パイナップルのカクテルは非常にさわやかで、濃厚な上海蟹料理の後にぴったりです。

もちろん紹興酒も置かれています。中国ナンバーワンブランドである「古越龍山」の「古越龍山 陳醸20年(壷)」もあり、長期熟成原酒由来のしっかりとした味わいとまろやかな口当たりが堪能できます。

蟹料理のスタンダードをつくる

上海蟹 (C) 東龍
上海蟹 (C) 東龍

高価なメニューが多いですが、ランチにはお得なメニューも用意されています。20食限定の「蟹肉入り麻婆豆腐」(1,980円)や土鍋で提供される「フカヒレと蟹肉ソースかけご飯」(3,300円)といった手頃なメニューが用意されているのは嬉しいところ。

「蟹王府」は中国で誰もが知る名店ですが、実は海外には日本にしか出店していません。中国でのゲストはその6割が日本人であったことから、日本を海外初出店の地に決めたということです。

世界の蟹料理のスタンダードをつくっていきたいという「蟹王府」。上海蟹の専門店ですが、これからはズワイガニやタラバガニ、ケガニなど日本の蟹も使っていきたいということなので、ますます楽しみです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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