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人気アニメの特製グッズ目当てか……スイパラで大量の食べ残しに非難殺到! 再発防止のある対策とは?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

人気店で食べ残し

食事の際に食べ残すことがありますか。

私は好き嫌いがなく、お酒も大好きなので、供されたものは全て食べて飲みます。ただ、アレルギーや宗教における食の忌避があったり、どうしても苦手なものがあったりすれば残すことはあるでしょう。

体質的な面や信条的な面で、食べ残してしまうのは仕方ありません。しかし、それとは異なる事情で大量の食べ残しがあったという記事を読み、色々と思うことがありました。

コラボメニューのグッズが目当て

その記事とは、J-CAST ニュースで配信されたもの。

コラボグッズ目当てで「大量食べ残し」スイパラ迷惑客が物議 居合わせた人が怒りの告発...店長も肩落とす/J-CAST ニュース

全国に展開する、スイーツブッフェ(スイーツバイキング)で有名な「スイーツパラダイス」における事案です。

人気ゲーム「原神」とコラボレーションしたグッズが目当てとされる客によって、大量の食べ残しがありました。何品ものコラボメニューを注文しておきながら、コラボグッズを入手すると、料理やデザートは食べずに退店したということです。転売のためではないかとも述べられていますが、個人的なコレクションのためかもしれず、その理由は不明。

隣の客がこの様子をTwitterに投稿したところ、2.5万のリツイート、6.8万のいいねがあり、大きな反響を呼んでいます(記事執筆時点)。そのほとんどは食べ残した人に対する非難です。

当記事では、この事案について考察していきます。

スイーツパラダイス

「スイーツパラダイス」とはどういった飲食店でしょうか。

「スイーツパラダイス」は大阪に本拠を置く井上商事が運営するスイーツブッフェの店で、東京や大阪を中心として全国に店舗を展開。同ブランドとしては、施設によってテーマが異なるコラボレーションカフェ、テイクアウトショップも手掛けています。他には、リーズナブルなスイーツを販売している「メイプリーズ」が有名です。

「スイーツパラダイス」は手頃な価格で数々のスイーツやサラダバーを自由に好きなだけ食べられるとあって人気を博し、東京に出店した際には衆目を集めました。その親しみやすさから、スイパラと呼ばれ、大きな知名度を誇っています。

昔はワンプライスでしたが、現在では3つの価格帯で営業。スイーツ+フード+ドリンクバーの「スタンダードバイキング」が70分1,390円、左記+ハーゲンダッツとイルジェラートの「おすすめバイキング」が80分1,490円、左記+ポテト+サラダの「スペシャルバイキング」が80分1,690円となっています。

季節ごとに旬のフルーツを好きなだけ食べられる「フルーツパラダイス」も実施。シャインマスカットとナガノパープル、沖縄・宮古島マンゴーと山梨県の桃など、魅力的なフルーツを合わせたプランを提供(前述の2つ共に2,580円)するなど、フェアも積極的に行っています。

スイーツブッフェ専門店であること、10代にブッフェを広めたことなどから、食文化としてもビジネスとしても、飲食業界に衝撃を与えた店であるといってよいでしょう。

コラボレーションの概要

原神×SWEETS PARADISE -櫻舞万雷-/スイーツパラダイス

「スイーツパラダイス」はアニメやゲーム、YouTubeチャンネルなど、様々なブランドとのコラボレーション企画を開催しており、集客に寄与しています。

そのブランドとのコラボレーションで起きたのが当事案でした。2022年9月28日から10月31日にかけて行われている人気ゲーム「原神」とのコラボです。

コラボメニューの各商品はブッフェとは別にアラカルトで提供。コラボフードとコラボデザートは合わせて8品(各700円)、コラボドリンクは9品(各500円)あり、いずれも注文する度に料金がかかります。つまりコラボメニューはブッフェのメニューではありません。

問題となったコラボグッズは次の通りです。ペーパーランチョンマットは、コラボメニューを注文すると1度の入店につき、ランダムで1人1枚提供され、全2種類。等身キャラコースターは、コラボフード&メニューを1品注文する度にランダムで1枚提供され、全16種類です。ちびキャラコースターは、コラボドリンクを1品注文する度にランダムで1枚提供され、全17種類。

このコラボグッズをたくさん入手したいがために、たくさんオーダーし、全く食べず、大量の食べ残しが起きたのです。

食べ残しが悪いのは当然

大量の食べ残しは、当然のことながら、食べ残した方が最も悪いことはいうまでもありません。

意図して食べずに食材を廃棄させたり、つくり手の労力や気持ちを蔑ろにしたりしたことは非常に残念です。お金を払ってさえいれば、食べ残してもよいと考えているのであれば、それは改めるべきであると思います。

ただ、当記事では、食品ロスや食のマナーについて深入りする気はありません。

ブッフェ専門店のビジネス

「スイーツパラダイス」はスイーツブッフェの専門店です。ブッフェ専門店ならではの事情を説明していきましょう。

ブッフェ専門店におけるビジネスの考え方は、そこそこの客単価で、たくさん集客することによって利益を上げること。

街場のブッフェであればカフェやファストフードよりも、ホテルであればアラカルト中心のレストランよりも客単価が高いです。それほど高単価でもなく、フルサービスではなく訪れるハードルも高くないので、友人や家族からカップルまで気軽に利用できます。そのため席数も多く設けることができ、集客できるのです。

コスト面では、食材費はかかりますが、セルフサービスの分だけ人件費を抑えられます。自由に好きなだけ食べられるということで、メディアにもよく取り上げられ、SNS映えもしやすいでしょう。

課題は、客単価を引き上げること。客席稼働率が高くなっている店では、売上を積み上げるためには客単価を引き上げるしかありません。ただ、もともと定額で何でも食べられるだけに、客単価を上げることが難しいです。

売上を増やすために

そういった状況にあって期待されるのが、別料金による追加の料理やデザート、ドリンクのオーダーやフリーフロー。別料金のメニューを注文してもらえれば、売上が増えるのは明白です。

ただ、別料金による追加の料理やデザートは注文されることが少ないのが現実。定額で30種類以上ものメニューが食べられるのに、あえて料金を追加してまで、食べたいと思えるアラカルトがほとんどないからです。

追加メニューで大きな武器になるのがコラボメニュー。なぜならば、この店だけでしか食べられない有名ブランドのメニューは、追加料金を支払ってでも食べてみたいメニューになるからです。

「スイーツパラダイス」が定期的にコラボメニューを行い、アップセルを促進しているのは上手な運営であるといえるでしょう。

大量に食べ残しさせないために

売上を増やすために、別料金のコラボメニューを提供するのはよいです。ただ、コラボメニューに依存してしまうと、そもそものブッフェ専門店という魅力が薄れてしまうので、好ましくありません。

「スイーツパラダイス」ではコラボメニューの注文を制限しており、コラボフードとコラボデザートは8品まで、コラボドリンクは8品までと制限しています。

コラボグッズの総数はコントロールしているのでよいですが、問題となるのは、1度における注文数です。いくら別料金であり、売上に貢献できるとはいえ、1人が同時に数品のアラカルトを注文するのは普通ではありません。ブッフェでもオーダーメニューが存在しますが、1度にオーダーできる数が制限されていることがほとんど。

1度にオーダーできるコラボメニューの数を制限すると共に、オーダーしたコラボメニューを全て食べ終えてから次のコラボメニューをオーダーできるようにするべきであったように思います。このようなルールになっていれば、大量に注文して食べ残すことはできなかったのではないでしょうか。

ペナルティの考え方

ブッフェでは、食べ残した分量に対してペナルティを課すことで、食べ残しを減らす方策があります。ただ、実際のところ、客商売ということもあって、ペナルティをしっかり課しているところは少ないです。

今回の食べ残しは、ブッフェメニューではありません。比較的食べ残しが多いブッフェメニューでさえもペナルティを課していないのであれば、ブッフェではないメニューにペナルティを課すことが容易でないことは想像に難くないでしょう。

したがって、大量の食べ残しを防止するには、前述したように、1度における注文数を制限し、かつ、食べ終えてからオーダーできるようにするしかありません。

利用者の意識改革と飲食店の工夫が必要

件の食べ残しは、スイーツブッフェ専門店における、非ブッフェメニューの大量食べ残しです。状況が少しややこしいので、ブッフェメニューで大量に食べ残しがあったと勘違いされることも少なくありません。

別料金のメニューで起きた事案なので、当然のことながら、ブッフェ以外の飲食店でも同様のことが生じる可能性があります。

利用者はお金さえ払えば食べ残してもよいという考え方を改め、飲食店は売上が増えればよしとするのではなく、食べ残しをさせないように工夫することが大切です。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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