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ブッフェ・バイキングで「割り込むな!」と激怒 “本当”のルールやマナーとは?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

2022年のシルバーウィーク最終日

2022年のシルバーウィークも本日9月25日が最終日です。20日から22日に有給休暇を取得すれば、17日から25日の9日間が休みとなり、大型連休になります。長期休暇であったかどうかにかかわらず、旅行に出掛けたという人は少なくないでしょう。

旅行でホテルに泊まるとなれば、楽しみなのが朝食ブッフェ。

人件費を減らせて儲かるから? ホテルが朝食でブッフェ・バイキングを行う本当の理由(東龍)/Yahoo!ニュース

少し前に朝食ブッフェで気になる記事を読んだので、拙文を寄稿しました。朝食ブッフェは、人件費を減らせて儲かるから行っているという主張に対して、私の見解を述べています。

ビュッフェで「割り込むな」と怒られた! 空いている料理を取ったらダメなのか、体験談めぐり議論白熱/J-CAST ニュース

最近になって、また新たに気になる記事を拝読しました。

割り込みを注意

J-CASTの記事によると、ある旅館経営者のツイートが大反響だということです。

そのツイートとは、シティホテルの朝食ブッフェについて2022年9月12日に述べたもの。

投稿者が空いているブースから料理を取ったところ、高齢の男性から割り込むなと怒られました。入口近くの台から一列に並び、全ての料理を順番に盛り付けるべきだといわれます。投稿者はこれに対して、それは配給だと指摘しました。SNSでの反応は、投稿者への共感が多いということです。

当記事では、今回のようなブッフェでの割り込みについて考察していきましょう。

ブッフェの歴史

本題に入る前に、ブッフェの歴史について説明しておきましょう。

1957年、帝国ホテルの村上信夫氏(後の第11代料理長および初代総料理長)が北欧の「スモーガスボード」を学びに行きました。「スモーガスボード」は「パンとバターの食卓」を意味し、肉、魚、野菜などの各種料理を食卓に並べ、自由に取り分けて食べる北欧の伝統料理です。

村上氏が帰国し、1958年8月1日に日本初のブッフェレストラン「インペリアルバイキング」(2004年のリニューアルから「インペリアルバイキング サール」)をオープン。店名を社内に公募したところ、当時話題となっていた北欧の海賊映画「バイキング」から想起された名前が選ばれました。バイキング誕生50周年となる2008年には、8月1日が「バイキングの日」に制定されます。

こういった背景からもわかるように、バイキングは「インペリアルバイキング サール」からつくられた造語で和製英語です。ブッフェとビュッフェは日本語での発音表記が違うだけで、どちらともbuffetを指しています。

ブッフェのルール

ブッフェは伝統と歴史を有するものであり、ルールやマナーも存在しています。

8月1日は生誕60周年を迎える「バイキングの日」 あなたのブッフェは時代遅れではないか?(東龍)/Yahoo!ニュース

原型となった「スモーガスボード」で推奨されているのは、山盛りにせず、適量を取り、必要であれば、何度でも取りに行くこと。自分で自由に取ることができるといっても、大食いや早食いをするためではありません。あくまでも配膳式の食事に対して、自ら取りに行く食事という、ひとつのスタイルです。

日本では食育の一環として、小学校や中学校でバイキング給食が実施されることがあります。栄養のバランスや分量を考えながら取ったり、他の人が気持ちよく取れるように配慮したりと、バイキング給食を通して教えられるのです。

各人によって好き嫌いや食べられるボリュームは異なりますが、できるだけ色々な栄養を取り、新しい料理や味覚にチャレンジし、自分に合った適量を食べることが重要視されます。

動線を分ける

ブッフェ台における考えについて説明していきましょう。

ブッフェ台には動線があります。

店内のどこにブッフェ台を置いて、そこにどういったものを並べ、どのように並んで取ってもらうかといったことを、当然のことながら支配人やマネージャー、スタッフは考えています。動線の最初にトレーやプレートを配してここがスタートだと示し、そこから人が流れるようにつくるのが一般的。

ブッフェで苦情が多いのは、補充が遅いことと、列が混雑していることです。したがって、ブッフェ台の列が混雑しないように工夫を凝らしています。

動線をいくつもつくることは基本中の基本。動線が一本しかなく、入口と出口がひとつずつしかなければ、途中のどこかたった一箇所で人が止まってしまえば、その後の列が全て滞ってしまいます。したがって、全体の動線をいくつかに分けたり、人気のある実演コーナーはそのメニュー専用の動線をつくったりしているのです。

1人あたりが取れる料理

ブッフェ台が混雑しないためには、どうすればよいでしょうか。

それは、1人あたりが取れる料理を少なくすることです。それとは反対に、できるようであれば、1つの料理が取れる人数を増やすことが大切。このように述べると、よく意味が理解されなかったり、意外に思われたりしますが、意図することは次の通りです。

1人がある場所で取れる料理がたくさんあると、その場所で止まってしまい、いくつもの料理を取ることになります。ある場所で1つの料理しか取れない時と、ある場所で5つの料理を取れる場所とを比べれば、後者が前者よりも5倍も時間がかかってしまうでしょう。したがって、ブッフェ台の動線では、できるだけ1人が取れる料理を少なくした方がよいです。

1つの料理を1人だけが取れるのではなく、2人以上が取れるようにすれば、効率はもっと向上するでしょう。たとえば、ブッフェ台があって、そこを挟むようにした両面から料理が取れるようにすれば、効率も2倍となります。

ブッフェ台が渋滞しないようにするためには、1人あたりが取れる料理を少なくして早く進むようにし、どんどん列が流れるようにすることが最も重要です。

全体効率の考え方

ブッフェ台の混雑を解消するためのマクロ的な全体効率の考え方があります。

その時、店内にいる人全員ができるだけ時間を無駄にしなければしないほど、つまり、店内にいる人全員が効率的に料理を取れば取るほど、列は解消されるという考え方です。

誰にも取られていない料理が少なければ少ないほど、時間が無駄になりません。現実的には、誰にも取られていない料理が全くないことはありえないので、誰にも取られていない料理が存在する時間を、できるだけ少なくすることが重要です。

件の事案

ここまで説明したところで、冒頭の事案に戻りましょう。

全体的にブッフェ台の列を解消するためには、空いているところに、どんどん取りに行った方が全体の効率がよくなるので好ましいです。スモーガスボードやブッフェには、一列に並ばなければならない、および、全ての料理を取らなければならないというルールやマナーは存在しません。

したがって、投稿者のように、空いているブッフェ台に取りにいくことは全く問題ないのです。

ただ、既に列ができているところに押し入って料理を取りに行くことは好ましくありません。なぜならば、他の人に配慮して取るというマナーに違反しているだけではなく、全体の効率の向上にも寄与していないからです。

では、どれくらい列が空いていたら、列に入ってもよいでしょうか。

悩ましいところではありますが、目安としては、3人分以上の間隔が空いていれば、入っても問題ないでしょう。これならば無理に横入りしたという感じがしません。加えて、次に料理が取られるまでに時間もかかるので、その間に取れば、全体効率も向上します。

ブッフェは何度でも取りに行けるので、数量限定でなくなってしまうものがある場合を除いて、抜かされたと騒ぎ立てるのは不毛です。

途中で入った人は、その列の前にあったものは取っていません。これよりも前のものを取らないのに列の最初から並んでいたら、余計に列が長くなり、全体的により非効率になっていました。

朝食ならではの事情

朝食ならではの事情もあります。ホテルの朝食は、7時から8時、もしくは、7時30分から8時30分といった極めて短い時間スロットに集中します。しかも、ランチやディナーとは異なり、宿泊客の多くが利用するとなれば、非常に混雑することは必至。

ブッフェ台の列を解消することが、全体における客の利益となるだけに、個人的な感情を抜きにして、取りたい人が取れるものをできるだけ早く取れるようにした方がよいです。そうすることによって、結果的に列が解消されやすくなり、どの人も取りやすくなります。

ブッフェのルールやマナー

日本においては、ブッフェの文化が未熟です。今回のような事案でもそうですが、モトを取らなければという考えが広まっていたり、大食いや早食いに利用されたり、食事スタイルであるのにジャンルであるかのように錯覚されたりと、勘違いされていることが多分にあります。

ブッフェはあくまでも、自分らしく自由に食べられるという食事のスタイルです。全体的なブッフェ台の効率を向上させ、結果的に全ての人にとってメリットをもたらすためにも、取りたい人が取れるところから取ってもよいことが周知されるとよいでしょう。それには、朝食ブッフェを提供する会場ではもちろんのこと、テレビや雑誌、新聞やインターネットなどのメディアでも、ブッフェのマナーや仕組みを積極的に伝えていくべきであると考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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