3万円でも大赤字? 中国料理の三大珍味を用いた名店の2日間限定コースが特別なワケ

ふかひれの姿煮二種 気仙沼産モウカ鮫とヨシキリ鮫 (C) 東龍

星岡茶寮

「星岡茶寮(ほしがおかさりょう)」という名称を聞いたことがあるでしょうか。

「星岡茶寮」とは1925年3月20日にオープンした会員制高級料亭です。書道家、陶芸家、画家であり、そして稀代の美食家であった北大路魯山人が顧問を務めていたことでよく知られています。山海の食材を自ら調理するだけではなく、その料理を自身が焼いた器に盛り付け、大変な評判を呼びました。政財界の名士の間で話題となって会員数が激増し、その数は1000人を超えていたといいます。

アニメ化もされた漫画「美味しんぼ」は1980年代にグルメブームに火を点けました。そこに登場する美食家の海原雄山は北大路魯山人を、その海原雄山が開いた美食倶楽部は星岡茶寮をモデルにしています。

残念ながら、「星岡茶寮」はもう存在しませんが、その名を引き継ぐ美食レストランは存在します。それはザ・キャピトルホテル 東急の中国料理「星ヶ岡」です。

「星ヶ岡」とは

「星ヶ岡」は東急ホテルグループのフラッグシップであるザ・キャピトルホテル 東急の中国料理店。王道を守りながらも、日本各地を巡る食材フェアを行ったり、六千円を超える高級担々麺「金昇坦々麺」を生み出したりと、チャレンジを忘れていません。

アラカルトも非常に豊富で、特に有名なのが「ふかひれの姿煮」「蟹の卵入り つばめの巣のスープ」「パーコーメン(星ヶ岡スタイル)」。料理の素晴らしさに加えて、永田町というロケーションにあり、大小7つの個室も設けられていることから、「星岡茶寮」と同じく政財界の名士も足繁く訪れます。

この「星ヶ岡」の顔となるのが、2003年から長らく料理長を務めてきた小林昇氏。各国VIPや著名人をもてなしてきた実力派の料理人で、現在の「星ヶ岡」の礎を築きました。

その小林氏が退任し、山橋孝之氏が新たな料理長に就任するということで食通たちの耳目を集めています。

新料理長の山橋孝之氏

新料理長の山橋孝之氏は1978年生まれ。日本のホテルとしては、40代で料理長というのは若い方です。

しかし、ただ若いというだけではありません。日本中国料理協会が主催するコンクールでは2018年に銀賞、2019年には金賞を獲得するなど、非凡な才能をもちあわせています。

山橋氏の料理は、伝統的な中国料理を大切にしながらも、日本料理や西洋料理のエッセンスを取り入れ、モダンなニュアンスも感じられるのが特徴です。

継承の特別ディナー

小林氏から山橋氏へと料理長が受け継がれることは、「星ヶ岡」にとっても、ザ・キャピトルホテル 東急にとっても、そしてゲストにとっても非常に大きな節目。

この重要な節目を祝うべく、2021年6月29日と30日に料理長交代記念ディナー「星の継昇」(30,000円、税・サ込)が行われます。継承ではなく継昇となっているのは、小林氏の名前にちなんでいるから。

2日間だけ行われる貴重なディナーの内容は次の通りです。

料理長交代記念ディナー「星の継昇」

・アミューズ

烏骨鶏卵の茶碗蒸し ツバメの巣と蛤

・前菜

七種前菜の盛り合わせ

・ふかひれ料理

ふかひれの姿煮二種 気仙沼産モウカ鮫とヨシキリ鮫

・海鮮料理

三重県産伊勢海老 二つの味わい 翡翠ソースとチリソース

・肉料理

仔豚の丸焼き 星ヶ岡特製甘味噌

・鮑料理

岩手県産干し鮑 オイスターソース煮

・食事

内子たっぷりズワイ蟹のあんかけ炒飯

・デザート

杏仁豆腐 クラシックスタイル 白桃とバラのペアリング

・小菓子、茶

自家製クリスピーカスタード月餅 ・ 近江「琵琶湖かぶせ」

全部で9品のしっかりした構成になっており、魚介類だけでもフカヒレ、イセエビ、アワビ、ズワイガニと高級食材ばかり。前菜は7品の盛り合わせで、デザートも2種類が用意されています。中には、2人の料理長にとって思い入れ深い料理もあります。

では、代表的なメニューを詳しく紹介していきましょう。

烏骨鶏卵の茶碗蒸し ツバメの巣と蛤

烏骨鶏卵の茶碗蒸し ツバメの巣と蛤 (C) 東龍
烏骨鶏卵の茶碗蒸し ツバメの巣と蛤 (C) 東龍

烏骨鶏の卵を用いた澄んだ味わいの茶碗蒸し。上にはジューシーなハマグリとたっぷりのツバメの巣にクコの実。ツバメの巣のテクスチャが十分に感じられる一品です。

七種前菜の盛り合わせ

七種前菜の盛り合わせ (C) 東龍
七種前菜の盛り合わせ (C) 東龍

山海の珍味を盛り合わせた漢方の効用もある医食同源のプレート。レンゲにのせられた八角風味の黒ナマコ、タラバガニや干し貝柱などを包み込んだキヌガサダケ、紅花であしらった生麩、アワビのウニソース、旨味を引き出したミスジ肉、長野県のヤマブシタケ、ガチョウの肉と様々な味わいや食感を楽しめます。

ふかひれの姿煮二種 気仙沼産モウカ鮫とヨシキリ鮫

ふかひれの姿煮二種 気仙沼産モウカ鮫とヨシキリ鮫 (C) 東龍
ふかひれの姿煮二種 気仙沼産モウカ鮫とヨシキリ鮫 (C) 東龍

気仙沼のモウカザメとヨシキリザメを食べ比べできるという一皿です。モウカザメの立派な尾びれは6人前ものボリューム。3日間かけてつくられた白湯スープをベースにしたソースは非常に濃厚で口福に満たされます。

三重県産伊勢海老 二つの味わい 翡翠ソースとチリソース

三重県産伊勢海老 二つの味わい 翡翠ソースとチリソース (C) 東龍
三重県産伊勢海老 二つの味わい 翡翠ソースとチリソース (C) 東龍

赤と緑の彩りが印象的なイセエビの変化を堪能できる料理。イセエビは身がプリっとしていて、黄ニラやレタスがよいアクセントです。

岩手県産干し鮑 オイスターソース煮

岩手県産干し鮑 オイスターソース煮 (C) 東龍
岩手県産干し鮑 オイスターソース煮 (C) 東龍

最高級とされる岩手県吉浜近くのアワビ。5日間かけて干しアワビから戻して、しっかりと味を入れました。アワビは肉厚なのでオイスターソースがよくからみ、味わいが深まります。

内子たっぷりズワイ蟹のあんかけ炒飯

内子たっぷりズワイ蟹のあんかけ炒飯 (C) 東龍
内子たっぷりズワイ蟹のあんかけ炒飯 (C) 東龍

ズワイガニの身と内子を用いた餡かけ炒飯。餡が内子と身、ご飯をまとめ上げて、素晴らしいハーモニーを生み出しています。

杏仁豆腐 クラシックスタイル 白桃とバラのペアリング/自家製クリスピーカスタード月餅 ・ 近江「琵琶湖かぶせ」

杏仁豆腐 クラシックスタイル 白桃とバラのペアリング/自家製クリスピーカスタード月餅 ・ 近江「琵琶湖かぶせ」 (C) 東龍
杏仁豆腐 クラシックスタイル 白桃とバラのペアリング/自家製クリスピーカスタード月餅 ・ 近江「琵琶湖かぶせ」 (C) 東龍

ホテル内で全てつくられた自家製月餅。エッグタルトのようにしっとりとして、香りも豊かです。中にはシェンタン(塩漬け卵)とカスタードが包まれており、自家製ならではの甘味を抑えた繊細な味わい。

新たな料理長に就任した背景

中国料理の最高級食材を取り揃えたコースは圧巻としかいいようがありませんが、山橋氏が料理長となったのはどのような背景があったのでしょうか。

「星ヶ岡」では季節ごとに日本の各地を巡るフェアが行われています。昨年11月から12月にかけて開催された金沢フェアでは、小林氏が以前から実力を認めていた山橋氏が担当。金沢市長も出席するほどの肝煎りのプロモーションでしたが、山橋氏の料理が大変好評を博しました。

こういった直近の実績や料理コンペティションの好成績、信頼性や人柄から判断され、山橋氏が小林氏の後継者に決まり、3月頃には「星の継昇」の開催も決定したということです。

コースの内容はどのようにして考案されたのでしょうか。

食材は互いに思い入れのあるものにしたといいます。小林氏は千葉県大原出身なので、水揚げ量が日本最大であり、幼少時から慣れ親しんだイセエビを使用することにしました。30年以上にわたって「星ヶ岡」の味を代表してきたフカヒレや上海料理を代表する干しアワビ、さらには自家製の月餅もコースに入れたかったといいます。

このようにして豪華料理が揃いましたが、小林氏がおすすめするのは「ふかひれの姿煮 モウカ鮫とヨシキリ鮫」、山橋氏がおすすめするのは「鮑のオイスターソース煮」ということです。

2人のおすすめメニューを紹介したところで、「星の継昇」の特長を挙げていきましょう。

テイクオーバーのフォーハンズディナー

小林氏と山橋氏による特別ディナーとなりましたが、2人の料理人によるフォーハンズディナー、3人の料理人によるシックスハンズディナーが行われるのは珍しいことではありません。師弟関係で行われることもよくあり、3代にわたる師弟のシックスハンズディナーが行われたこともあります。

しかし、引き継ぎのタイミングで、師弟の料理が楽しめることはなかなかありません。なぜならば、人事が公式発表されてからあまり時間がない上に、料理長交代で慌ただしくなっているからです。

そういった事情がある中で「星の継昇」が行われることになったのは、小林氏がゲストから深く愛され、ホテル内での信頼も厚く、そして山橋氏に対する期待が大きいことの表れだと考えてよいでしょう。

2種類のフカヒレ

「星ヶ岡」が誇る名物料理のひとつに「ふかひれの姿煮」があります。フカヒレを用いた料理が欧米系のホテルで食べられなくなっているのは、周知のことでしょう。

今回のコースではポピュラーなヨシキリザメのフカヒレに加えて、四川料理で重宝されるモウカザメのフカヒレまでも味わえます。現在はただでさえ希少となっているだけに、この豪華な「ふかひれの姿煮」は是非とも体験おきたいところです。

仔豚の丸焼き

仔豚の丸焼きがコースに組み込まれていることも、見逃せません。艷やかに焼き上がった皮が富や繁栄を表すことから金運が向上するとされ、中国料理の重要な宴席では不可欠な一品です。

ただ、日本では、仔豚の丸焼きを食べられる機会などそうありません。それも「星ヶ岡」のような高級中国料理店では、なおさらのことです。新料理長の就任というおめでたい特別ディナーは、仔豚の丸焼きを堪能するのに、ちょうどよいチャンスではないでしょうか。

採算度外視の豪華な食材

中国料理は高価な食材が多いといわれていますが、「星の継昇」はそれを網羅しているといってよいでしょう。2種類のフカヒレ、干しアワビ、ツバメの巣、ナマコ、イセエビ、ズワイガニと、希少食材のオンパレード。しかも、このどれもが惜しげなく使われています。

通常であれば飲食店の食材費は価格の30%から40%なので、3万円のコースであれば1万2千円。料理に使われているボリュームを鑑みれば、中国料理の三大珍味であるフカヒレ、干しアワビ、ツバメの巣だけでこの値段を超えてしまうのではないでしょうか。

採算度外視の料理ばかりであり、ゲストを喜ばせるためのイベントであることは間違いありません。

バトンの受け渡し

ザ・キャピトルホテル 東急への地下からの入口 (C) 東龍
ザ・キャピトルホテル 東急への地下からの入口 (C) 東龍

山橋氏は最も印象に残っている小林氏との思い出について、こう話します。

「十数年前に『星ヶ岡』で働き始めた頃、料理について悩んでいた時期があった。小林料理長が京都 東急ホテルの開業手伝いで東京を離れていた時、連絡することを忘れるほど思い詰めた末に、いきなり京都へ相談しに行ったことがある。しかし、迷惑がるどころか、親身になって多くのアドバイスをくれたことは、今でも忘れていない」

料理長の交代は、リレーのバトン受け渡しと似ています。しっかりバトンを受け渡し、さらにリードを広げているかどうかが重要です。

山橋氏と小林氏の信頼関係や「星の継昇」によるコースの完成度の高さを鑑みれば、山橋氏がよい形でバトンを受け取ったことは確かなので、この後は「星ヶ岡」のさらなる躍進を期待したいです。