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中国で大食い動画に罰金160万円の衝撃! 日本も検討するべき5つの理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:Paylessimages/イメージマート)

中国で「反食品浪費法」が可決

中国からあるニュースが飛び込んできました。

飲食店などでの食べ残しが問題となっている中で、飲食店が料理を注文しすぎた客に対して食べ残しの処分費用を請求できるようになる法律「反食品浪費法」が成立したのです。

飲食店に対しても、客に大量注文させたとして、最高で1万人民元、つまり、日本円で約16万円の罰金を科すとしています。

中国でも人気を集めている大食い映像の配信も禁止。大食い番組にかかわったテレビ局や動画配信業者などには最高で約160万円の罰金が科されるということです。

昨年夏に法案を示唆

法律が可決されたのは驚くべきことでしたが、前触れはありました。

2020年8月11日に習近平国家主席が食べ物を粗末にしないようと述べており、中国で人気があるという大食いの映像を取り締まる動きがあったのです。

この時もそうでしたが、今回の法案可決でも、日本のインターネットでの反応は概ね好評。この話題はYahoo!ニュースでトピックスにも取り上げられましたが、ヤフコメでも多くの賛同を集めていました。

「これは日本にも必要」

「無意味な大食い番組とか自分は観ててあまり気持ちいいもんじゃない」

「素晴らしい取り組みだと本気で思うし、日本の方が負けている」

「いまだに大食い系の番組がありますが、あれは見るに耐えないものがあります」

※いずれも原文ママ

以上のように、中国政府の動きを支持するコメントが多いです。

私は以前から大食いというコンテンツはもはや時代錯誤だという立場で記事を書いてきましたが、中国で法律が成立したことを機会にして、改めて大食いおよび大食いコンテンツがなぜよくないのかを説明していきましょう。

当記事で述べている大食いとは、1回の食事で2~3人前くらいの分量を食べているといった程度ではなく、何十人前や何キロといった並外れたボリュームを一気に食すようなことを指しています。

食料自給率が低い

中国は大豆などの農産物をアメリカなどからの輸入に依存。そのため、習国家主席は食料安全保障への危機意識を高めており、今回の動きにつながったという背景もあります。

中国の食料自給率は詳細が明かされていないところもありますが、見立てによれば70%程度であるとのこと。日本における2019年度の食料自給率は、生産額ベースで66%、カロリーベースでは38%となっており、中国よりも低いです。

そういった意味では、日本の方がもっと食べ残しや大食いについて真剣に考え、対応する必要があるのではないでしょうか。

2018年度の食品ロスは前年度に比べて2%減の600万トンとなり、推計を始めた2012年度以降で最少となりました。

食品ロスが少なくなったことを喜ぶ声もありますが、それでもまだ1年間で国民1人あたり約47kgの食品を廃棄しているのです。食料自給率が低い日本としては、まだまだ減らしていかなければならないでしょう。

摂食障害につながる

大食いコンテンツは摂食障害にもつながります。

並外れて大食いするような人の中には、摂食障害を患っている方も少なくありません。そういった方が大食いの番組や動画に出演しています。大食いを競ったり、大食いにチャレンジしたりするコンテンツがテレビやYouTubeなどで流されると、大食いを奨励することになるでしょう。摂食障害の引き金となったり、摂食障害を助長することにつながったりしかねません。

私も関係者から話を聞いたことがありますが、収録後に嘔吐していることも大きな問題。嘔吐しないこともあるかもしれませんが、何キロという並外れた量を食べていれば、嘔吐につながりやすいことは容易に想像できます。現場の状況を考えても、到底まともなコンテンツではありません。

大食いは映像にインパクトがあって視聴率や再生数が稼げるので、臭いものに蓋をして制作しているのでしょう。イメージを向上させるためにフードファイターと呼び名を改め、大食いする方をヒーロー化したところで、行っていることに変わりはありません。

摂食障害という闇を宿しながら大食いをコンテンツ化するのは極めて不健全です。

つくり手へのリスペクト欠如

大食いに欠けている視点があります。それは、つくり手の立場を考慮していないことです。

視聴者の中には「たくさん食べている様子を見ているのが気持ちいい」「あれだけたくさん食べられるのはすごい」といったポジティブな意見も聞かれますが、料理ができた背景を考えれば、とてもそうは思えません。食材を調理する方や食材を生産する方がいて、料理ができあがっているのです。

通常の何十倍という尋常ではない分量を意味もなくひたすら胃に流し込む姿を見て、料理人や生産者が快く思うはずがありません。節度を持って味わって食べることが、料理人や生産者、そして料理そのものに敬意を表することになるのではないでしょうか。

食育に反している

大食いは食育にも反しています。食育は、2005年に成立した食育基本法で「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるもの」。

食育基本法の中では「ゆっくりよく噛んで食べる」ことにも言及されています。食事する際には、たくさん食べることを意識するのではなく、しっかりと味わって食べることが重要となっているのです。

日本は近年、黒毛和牛や日本酒をはじめとした食を海外へ輸出することに尽力しています。食育が進んでいるヨーロッパなどに輸出するのであれば、食育に反するコンテンツが蔓延している状況を速やかに見直す必要があるでしょう。

スポーツとは思えない

大食いを正当化する主張に、大食いはスポーツである、大食いするフードファイターはアスリートであるといったものがあります。

スポーツ庁のスポーツ基本法によれば、スポーツとは「心身の健全な発達や健康及び体力の保持増進のために行われる身体活動」。

必要以上の分量を食べることが、心身の健全な発達を促したり、健康や体力を保持増進させたりすることはないでしょう。食育に反し、摂食障害につながることも鑑みれば、なおさら相応しいように思えません。

スポーツ基本法に記載されている「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営む」という主旨からも外れているのではないでしょうか。

日本でも議論する価値がある

ここまで、大食いおよび大食いコンテンツが相応しくない理由を述べてきました。

現代はもはや、大量生産と大量消費の時代ではありません。世界の資源が枯渇し始めており、エコロジーやサステナビリティが重要となっています。いくら映像としてインパクトがあるとはいえ、大食いを推進するような動きは好ましくありません。

2019年10月1日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」=「食品ロス削減推進法」が施行されたのは非常に素晴らしいことです。日本でも中国と同様に大食いを禁止する法律をつくる必要があるかどうかは難しいところですが、議論する価値は十分にあるのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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