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新型コロナウイルスで飲食店はもう限界! 支持を集める飲食店を救う署名活動とは?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの影響が拡大

新型コロナウイルスが恐ろしい勢いで感染拡大しています。日本全国での感染者数は2000人を優に超え、東京でも感染者数が日々増加している状況です。

3月上旬に新型コロナウイルスが飲食店に及ぼしている凶悪な損害について記事を書きました。

この記事では、飲食店の悲惨な現状を憂い、たまには外食へ足を運んでもらえたらと考えていました。

しかし、その時点から事態はずっと深刻化しています。

国や自治体からの自粛呼びかけ

3月13日に新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案が可決され、翌14日に安倍晋三首相も述べていましたが、飲食店の経営状況はさらに厳しくなりました。

29日には東京都知事の小池百合子氏が緊急記者会見を開催。感染につながる「換気の悪い密閉空間」「多くの人の密集する場所」「近距離での密接した会話」を避けるように、そして不要不急の外出を控えるようにと、改めて自粛を要請しました。

4月に入ると東京がロックダウン(都市封鎖)されるのではないかという偽の情報も広まっており、国民の不安も高まっています。

このような状況では、人々が飲食店で食事することが憚られたり、飲食店が通常営業を自粛しなくてはならない雰囲気となったりすることは自明でしょう。

厳しい飲食店の落ち込み

大手レストラン予約サービスを運営するテーブルチェック(TableCheck)によれば、2020年3月における対昨年比は、予約件数が約6割に落ち込んでいます。

その一方で、キャンセル率は約1.8倍に跳ね上がっているのです。しかも、私も以前指摘したように、大人数の予約ほどキャンセルされているという状況。

こうした数字からも飲食店の苦境は容易に想像することができます。

外食産業の仕組み

飲食店のような外食産業、それもテイクアウトではなく店内で着席して食事することを主とする業種は、その時間に用意されている席しか売ることができません。ホテルや映画館などと同じといってよいでしょう。

当然のことながら、その時にその席が売れなければ、後日さかのぼって売ることは物理的に不可能です。

物を売る小売業の場合、その日に売れなくても後でたくさん売ることができれば、過去の不況をカバーできるかもしれませんが、飲食店にはできません。加えて、飲食店はもともと利益率が低い業態であり、売上の1割もあれば利益率はかなりよい方です。

国や自治体による度重なる自粛要請によって客が激減する中、ディナーを休止したり、2週間から1ヶ月くらい休業したりする飲食店もかなり増えてきました。

売上が大幅に減っていく一方で、賃料や人件費といった固定費は支払っていく必要があります。

新型コロナウイルス感染症にかかる衛生環境激変特別貸付といった融資は受けられるものの、補償が受けられるわけでもありません。

個人店であれば、もともとキャッシュに余裕がないだけに、この状態を数ヶ月も耐えることなどほぼ不可能です。

ノーショーやドタキャン

こういった状況であっても、もちろん予約が入ることはあります。

しかし、新型コロナウイルスへの対応や自粛ムードから、予約をキャンセルする客が少なくありません。しかも、大きな売上を計算できる大人数からキャンセルされる傾向にあるので、飲食店としては頭が痛いところです。

最近では少人数の食事もキャンセルが入っています。少人数の場合には、直前まで開催してもよいかどうか迷うケースが多いようで、ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)も多いようです。

飲食店からすれば、この時期に予約が入ったので安堵し、前日から準備をしたにもかかわらず、キャンセルされることになります。通常であれば、キャンセルポリシーにしたがって、キャンセル料を請求したいところですが、新型コロナウイルスが原因とあれば請求することが躊躇われるのです。

こういったことが続くと、金銭的な損害が積み重なるだけではなく、精神的にも疲弊してしまいます。

物販への転換

レストランとして営業することが難しいのであれば、テイクアウトやオンライン販売に力を入れたらよいという考え方もあるでしょう。

リスクヘッジの観点から鑑みれば、店内で客に食事をとってもらう以外にも、売上を立てる道があった方がよいことは明らかです。

ただ、ほとんどのファインダイニングにとって、急にテイクアウトを始めたり、オンライン販売を軌道にのせたりすることは簡単ではありません。

その最も大きな理由は、これまでと目指す方向性が全く異なるからです。

ファインダイニングは通常、食味や見た目にこだわったクリエーション、その時にしかないできたての料理、快適な空間、気の利いたサービス、ワインとのマリアージュを突き詰めています。

そこから急旋回し、持ち帰りや郵送に耐えられる商品を生み出すのは大変です。たとえ商品を生み出せたとしても、多くの消費者は物販が行われていることを知らないので、周知されるまでに時間を要します。

テイクアウトもオンライン販売も不可能ではありませんが、全てのレストランが簡単に対応できるとはいえません。

もしもうまくいったとしても、これまでの営業とは全く異なるので、キッチンスタッフやサービススタッフの雇用が維持されるのは難しいでしょう。

先払い予約

物販以外の新しいアイデアとして、先払い予約を行っているところもあります。

新型コロナウイルスが落ち着いてきた時に、訪れて食事する権利を購入する仕組みで、お金を先に支払うことによって、現状の資金繰りを助けようという試みです。

単なる寄付に比べると、購入しやすいかもしれません。ただ、いつ訪れることができるかわからない飲食店に対して先払いする人はあまり多くないので、その売上だけで飲食店が数ヶ月も存続していくことは難しいでしょう。

よほど有名なスターシェフの飲食店であれば可能かもしれませんが、ほとんどの飲食店にとっては現実的な対策にならないと思います。

メディアの報道

ただ、飲食店の中には、物販や先払い予約にある程度適応できるところもあります。

メディアがこういった成功事例を紹介することによって、ノウハウや方法が共有されるのは有用なことでしょう。それによって、励まされてポジティブな気持ちになったり、新しいアイデアが浮かんだりする飲食店もあるからです。

ただ、成功した稀な例を取り上げるだけでは、視聴者や読者が飲食店に及ぶ危機を実感できなくなるのではないかと危惧しています。

ほとんどの飲食店がうまくいっていないことも、合わせて伝えなければなりません。加えて、もしも、うまくいっていたとしても、それが普段と同じ水準の売上や利益を上げられていないこと、および、今後もそれが続けられるかどうかも、しっかりと報道する必要があります。

関係業者への影響

飲食店が不況になると、飲食店と取引のある業種にも影響が及びます。中でも最も関係が深いのは、食材を提供する生産者や食品会社や、ワインなどのお酒をはじめとしたビバレッジを納入する業者。

ファインダイニングに食材を卸している生産者の中には、少量生産をして、特定の飲食店にだけ納入しているようなところもあります。小さな生産者であれば、体力も少なく、新たな販路を見出すのも大変でしょう。

「飲食店倒産防止対策」に関する署名が開始

ここまで新型コロナウイルスが飲食店に与える影響について改めて述べてきました。

国や自治体が飲食店を訪れないようにと自粛を促しており、飲食店も営業してよいかどうか戸惑っていますが、国や自治体は飲食店への補償には否定的です。

そのような状況にあって、とうとう飲食店から声が上がりました。

立ち上がったのは大阪にある「HAJIME」オーナーシェフの米田肇氏。「HAJIME」は2017年に出版された「ミシュランガイド京都・大阪 2018」以来、三つ星として掲載されており、世界中からゲストが訪れるイノベーティブレストランです。

その米田氏が発起人となり、内閣総理大臣、自治体へ宛てた「飲食店倒産防止対策」という署名運動を開始しました。

署名の主旨は、新型コロナウイルスによる売上減少や店舗休業が余儀なくされる状況にあって、多くの飲食店が倒産するおそれがあるので、家賃と雇用者給与の補助をお願いしたいというものです。

3月29日に署名が始まってから、現時点で既に5万人以上が署名しており、まだまだ伸びています。

飲食店のオーナーや料理人、さらには、食に関するメディアの方々が続々と署名していることを鑑みれば、この嘆願事項は飲食業界の総意とみなしてよいのではないでしょうか。

署名の背景

発起人である米田氏に話を聞きました。

米田氏は「日本の飲食店は世界でも稀にみるほどコストパフォーマンスが高い。その裏には、ゲストに喜んでいただくため、飲食店がコスト的に無理をしながら薄利多売の経営をしているという実情がある。そのため、ゲストが少しでも減少すると、利益に大きな影響がでてしまう飲食店がほとんど」と、日本の外食産業について説明します。

では、このような状況が続いたら、飲食店は今後どうなるのでしょうか。

「飲食店の家賃は、オフィスを借りる家賃よりも高く設定されている。それだけに、家賃や人件費といった固定費の負担が重くのしかかり、多くの飲食店が倒産することは明らか」と警鐘を鳴らします。

この構造は、飲食店に関わる生産者や食材業者、流通業者も同じであるともいい、「飲食店の倒産が始まると、連鎖倒産が始まる可能性が高くなる」と強い懸念を表明。

日本では飲食店に対する具体的な補償などの支援策が発表されていませんが、海外ではどうなのでしょうか。

「たとえば、フランスではアラン・デュカス氏を中心に署名活動が行われ、政府に訴えかけて飲食店に補償がでるようになったと聞いている」と例を挙げます。

確かに、フランスでは、政府の新型コロナウイルス対策によって休業を余儀なくされた飲食店に対して、金銭を補償する施策が発表されました。

「政府が自粛を要請しているのであれば、休業していなくても補償されるようにするのが筋ではないか」とも補足します。

もしもロックダウンが起きたとして、それが解除された後に、飲食店は活気を取り戻すことができるのでしょうか。

米田氏は「ゲストがすぐ飲食店に訪れるようになるとは考えづらい。以前の状態に戻るまでには、おそらく半年くらいを要するのではないか。したがって、かなり体力がある飲食店でないと存続できないと考えている」と冷静に分析します。

それなりに現金に余裕をもってオープンしたとしても、3ヶ月後にクローズしてしまう飲食店も珍しくないだけに、残念ながら、この指摘は正しいでしょう。

他にも、社会保険料の免除を要望したり、助成金に関しては、申請書の簡易化や相談窓口の拡充、審査や入金までに要する時間の短縮化を訴えたりと、様々な課題を指摘。

最後に米田氏は「食は人類に未来を与える希望。ぜひその光を消さないように、素晴らしい食を提供してきた飲食店を応援していただきたい」と思いを吐露します。

日本が世界に誇る食

東京はミシュランガイドで最も多くの星を獲得している都市であり、日本は2020年「アジアのベストレストラン50」で最も多くのレストランがランクインしている国です。

一般社団法人 日本フードサービス協会の「外食産業市場規模推計について」によれば、2018年の外食産業の市場規模は前年比0.3%増加の25兆7692億円、総務省統計局の「平成28年経済センサス-活動調査」によれば、全国の飲食店数は約45万店、飲食店の従事者数は約319万人にも上ります。

新型コロナウイルスは様々な業種に甚大な影響を与えており、被害を受けているのは飲食店だけではありません。しかし、飲食店は飲食店の立場から声を上げるしかないのです。

日本が世界に誇り、多くの人々が携わっている飲食業界が、国や自治体の無策や拙策によって見殺しにされるようなことがあってはなりません。

一刻も早く、飲食店に対する有効な対策を打ち出していただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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