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人気YouTuberがスキンケアクリーム入りシュークリームを食べて大炎上。その不快感の理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

YouTuberによる食の炎上事件

つい先日、<ゴミ箱から魚、床に唐揚げ、商品なめる、口に出し入れ。続出する従業員の炎上事件は、ある3つの欠如が原因>という記事で食に関連したバイトテロについて取り上げました。

その後もバイトテロに関する記事が多く見掛けられ、どうすれば撲滅できるのかと関心が寄せられています。

そういった状況の中で、今度は<「ニベア入りシュークリーム」 人気YouTuber企画に、メーカー「おやめください」>で取り上げられているように、YouTuberによる食の炎上事件が起きました。

スキンケアクリーム入りのシュークリーム

人気YouTuberがスキンケアクリームをシュークリームに詰め、2人で7個も食べたというのです。

過激な振る舞いで人気を集めるユーチューバー集団「レペゼン地球」のDJ社長さんが2019年3月4日、同じくユーチューバーのはじめしゃちょーさんにドッキリを仕掛ける動画を投稿した。

(中略)

その過去を踏まえ、DJ社長さんは今回の動画で「(ニベアクリームは)お風呂にするもんじゃないって、食べるもんやろ」「習わなかったんですかね、食べ物で遊ぶなって」と豪語し、ニベアクリームを詰めたシュークリームを食べさせるドッキリを実行。毒味のシーンでは、「体に害はない絶対に、と思う。そう信じよう」と食べた感想を話していた。

結局、顔を歪ませながら2人で7個を平らげ、ニベア缶から直接すくって食べる場面もあった。

出典:「ニベア入りシュークリーム」 人気YouTuber企画に、メーカー「おやめください」

この動画を投稿したところ130万回も再生され、しかも、驚いたことに多くの高評価を獲得しています。しかし、SNSの反響では「不愉快」「信じられない」「面白くない」「気持ち悪い」といったネガティブな意見や批判が多く見掛けられるなど、反応が分かれています。

動画は130万再生を記録し、好評価(5万9000)が低評価(1500)を大きく上回っている(数字は5日夕時点)。コメント欄でも「レペゼン本当すき!なんでこんな才能の塊なの」「これはシリーズ化してほしい」と好意的な声が多数書き込まれている。

出典:「ニベア入りシュークリーム」 人気YouTuber企画に、メーカー「おやめください」

スキンケアクリームの会社に問い合わせたところ、広報から、健康に害はないが食品ではないので口に入れたりしないようにと回答がありました。

不快の理由

昨年末に<大反響があった食の炎上事件2018年 ワースト5>で総括したように、食の炎上事件は定期的に起こっています。

今回の炎上事件に関しては、まず食品ではないものを食べるという行為が危険なことです。そして、動画を観た人が真似をして、もしも何か身体に不調をきたしたら、より大きな問題となります。

食品ではないものを摂取するという身体へのリスクも考慮されてしかるべきですが、私はどうしてこの事件が、多くの人を不快にさせているか考察したいと思います。

食べ物のように扱う

<炎上中のSNSで流行している「顔面シュークリーム」に対する3つの懸念>では、シュークリームを顔で潰す動画や画像がSNSで流行していることに対して、懸念を述べました。

これは、食べ物を食べ物ではないかのように、粗末に扱ったことが問題の根本にあります。

今回の炎上事件は、これとは反対です。

つまり、食べ物ではないものを食べ物のように扱い、実際に食しています。

人は、自分が食べないものを食べる人を受け入れることが難しいです。

例えば、クジラ、サメ、イルカ、イヌ、ウサギなどがそうでしょう。他の国の人々が食べていても、自分が食べていなければ受け入れることができず、国際的な問題にも発展しているほどです。

生き物であってさえも受け入れられないのに、明らかに食べ物ではないスキンケアクリームを食べる人を受け入れるのは、より難しいのではないでしょうか。

本来であれば、食べられるために生産者が作った食材を、作り手が調理して食べ物にし、食べ手の口へと運ばれていくものです。

それが手作りであるにせよ、工業化されたものであるにせよ、食べられるためにつくられたものであることには変わりありません。

食べ物とみなしていないものを食べることを、不快に思うのは当然のことです。

他に食べられる物がいくらでもある

昨今の日本において、食品ロスの問題が大きく取り上げられています。

日本では、本来食べられるにも関わらず捨てられた食品は2015年度で約646万トンと推計されています。これだけ廃棄されている一方で、世界にはまだ飢えに苦しんでいる人々もいます。

少しでも食品ロスを削減しようと人々の意識が変わっている中で、食べられるのに捨ててしまうくらい食べ物が余っているのに、あえて食べ物ではないものを食べることに違和感を覚えてしまうのです。

戦時中など貧しい時であれば、空腹のせいで食べ物ではないものを口にすることは十分に理解できることでしょう。

しかし、これだけ食品が余ってしまっている時代に、あえて食べ物ではないものを喜んで食す行為は理解に苦しみます。

他に食べられる物がいくらでもあるのになぜ、という気持ちが、不快感の原因になっているのです。

食行動の価値観

食の習慣や価値観は人間関係において非常に重要な要素です。

一緒に食事をとる人の食べ方やマナーが自分と全く合わなければ、残念ながら、あまりおいしいと感じられないのではないでしょうか。

たとえば、米粒ひとつ残さずに食べようとする人にとっては、偏食が多かったり、食べ残しを何とも思わなかったりする人と食卓を共にすることは、よい気分がしないものです。

何から順番に食べるという感覚や、箸の上げ下げの仕方、音を立てて食べることがどうしても気になるなど、人によって様々なポイントがあるでしょう。

相手との食の習慣や価値観が異なっていたら、一緒に食事するのが苦痛なので、共に暮らしていくことなど、まずできないのではないでしょうか。

この炎上事件では、他に食べられるものがいくらでもあるのに、食べ物ではないものを食べ物として喜んで食べることが、まさしく理解できない食行動にあたります。

理解できない食行動に対して、不快な気持ちを抱いてしまうのは仕方ありません。

敬意や感謝が必要

スキンケアクリーム入りのシュークリームを食べることがどうして不快であるかについて考えてきました。

食べ物を粗末に扱うのはもちろんよくないことですが、かといって、食べ物ではないものを食べ物としてふざけて扱うこともまた、食への冒涜であるように思います。

この動画に対する評価がよいことも気になるところです。おそらく食べることに対する価値観が非常に軽くなってきているのではないでしょうか。

様々な意見が飛び交っていますが、食品ロスもバイトテロも、ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)も、そしてYouTuberによる食の炎上事件も、解決するのに重要となってくるのは、やはり食材や生産者への敬意の念や作り手への感謝なのではないかと、私は思うのです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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