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大反響があった食の炎上事件2018年 ワースト5

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

食に関する炎上事件

2018年もあと一週間となりました。今年は様々な災害や人災が起き、日本漢字能力検定協会は2018年の世相を表す漢字を「災」と発表しています。

食に関しても色々な事件が起きており、SNSなどで多くの意見が飛び交いました。

年始めには<なぜ人気テレビ番組で「緑茶はお祝いのお返しに贈ってはいけない」が炎上したのか?>で取り上げた事件が反響を呼びました。

人気テレビ番組で緑茶はお祝いのお返しに贈ってはいけないと紹介されましたが、そのような風習は自分の地元にはないと、SNSなどで大きな批判が湧き上がったのです。先の記事では、どうして大きな問題に至ったのかを考察し、最後に日本の食文化に関連して言及しています。

この緑茶お返し事件を皮切りにし、2018年も1年を通して食にまつわる炎上事件が断続的に起きました。

年末の総決算として、この1年間に起きた食にまつわる炎上事件について振り返ってみたいと思います。

炎上事件の反響の大きさや重要性を鑑みて、ランキング形式でトップ5を紹介することにしましょう。

5位/YouTuberのマナー

最初に取り上げるのは、YouTuberのマナー違反です。

アメリカの有名YouTuberが来日し、回転寿司店のスシローで迷惑行為を行いました。その迷惑行為とは、YouTubeに投稿するため、回転寿司の寿司レーンにビデオカメラを勝手に載せて撮影したことです。記事では、衛生面や飲食店の裏側からこの行為のどこがいけなかったかについて言及しています。

似たような事件には、顔面シュークリームがありました。顔にシュークリームを押し潰した動画や写真をSNSに投稿することが流行していることが流行しており、記事ではその問題点について述べています。

YouTubeを始めとするSNSでは目立つことが重要視されており、インパクトのある動画や写真を撮るためであれば、食のマナーや品は全くおかまいなしという考えが見受けられるのが残念です。

影響力のあるインフルエンサーは、是非とも他の人を楽しい気分にさせるために、食を利用して欲しいと願います。

4位/子連れ入店

4位は子連れ入店に関してです。

事件は、老舗の喫茶店である銀座ウエストがTwitterで子連れ客に苦言を呈したから始まりました。

批判ばかりという通常の炎上事件と異なる特徴は、擁護派と批判派に別れて議論が白熱したことです。SNSなどの反響を確認してみればみるほど、私は次のことが気になるようになりました。それは、子連れ入店に対する曖昧な基準が、時代の流れによる客層の変化に対応できなくなり、事態を悪化させているということです。

子連れで品のよい喫茶店に入店してよいかどうかと、子供と一緒に居酒屋で夜ご飯を食べてよいかどうかは、問題の本質が同じであると考えています。

飲食店は全ての客層を取り込みながら、その全ての客に満足してもらうことはまず不可能です。飲食店は自身がどのような方向性へと舵を切るのかを考え、態度を明らかにしていかなければならないのではないでしょうか。

3位/訪日外国人へのお通し

次は、訪日外国人へのお通し問題です。

訪日外国人が居酒屋のお通しでトラブルになることがあります。オーダーしていないお通しの料金を請求されることから、会計時に問題になるというのです。

記事でも言及していますが、日本の食文化を知らない訪日外国人に対して、しっかりとした周知や明示が不足していることは確かでしょう。

欧米でチップを渡すことが当然のように、日本の居酒屋でお通しを出すことは日常的な光景であり、日本の食文化の一部です。したがって、まずはその日本人自身がお通しについてよく認識し、理解しておく必要があります。

外国人に日本の食文化を伝えるという面では、グルメアニメの存在が今後有効になってくるかもしれません。

記事で取り上げたグルメアニメ「異世界居酒屋~古都アイテーリアの居酒屋のぶ~」は、なぜか古代都市とつながった日本の居酒屋が舞台となっています。この異色の設定と日本の食文化の描写が好評を博し、英語や中国語に翻訳されて、ネット配信されました。そして、このグルメアニメの中にはお通しもよく描写されます。

海外で人気の高い日本食と、同じく海外から高い評価を受けているアニメが融合することによって、外国人に日本の食文化を伝えることがより容易になるのではないでしょうか。

グルメアニメが日本の食文化の理解を深めるきっかけになることを期待しています。

2位/無銭滞在

2位は無銭滞在です。

無銭飲食は飲食したのに料金を支払わないことで、ニュースなどで無銭飲食の事件も報道されるので、よく知られている言葉でしょう。

一方、無銭滞在は店内に滞在しているにも関わらず何も注文せず、料金を支払わないことです。注文したのに料金を支払っていなければ無銭飲食となりますし、宿泊施設に泊まったのに料金を支払わなければ無銭宿泊となるので、無銭の意味合いが違います。無銭滞在とは、行為の悪質性を直感的に認識するために、私が勝手に考えた造語です。

記事では、カフェに入店したのに何も注文せず、席に座っている人を取り上げています。

非常に影響力の強いマツコ・デラックス氏が番組内で発言したことで、無銭滞在は大きな話題となりました。記事では、改めて無銭で飲食店内に居座ることが、どのようにいけないことであるかを説明しています。

食が成熟している日本において、グルメな日本人は非常に多いです。グルメな方が会話する時にはよく、コストパフォーマンスが高い、低いということが議論となります。しかし、こういった時のコストは皿の中の料理だけが対象となっており、料理が載せられた皿自身の価値はもちろん、ダイニングの広さやサービススタッフの人数、ソムリエの有無などが語られることは少ないです。

こういった傾向が強まってきたため、皿の中の料理以外にコストがかかっているという意識が低くなっているような気もしています。

店の空間やサービススタッフによる水の注ぎ足し、内装やテーブルウェア、光熱費など、飲食店が成立させている要素の全てに、コストがかかっているのです。

カフェで無銭滞在することは、安易に許されることではありません。

1位/ノーショーによる被害

最後の1位はノーショー(無断キャンセル)問題です。ドタキャン(直前キャンセル)と合わせて、様々な事件がありました。

大きな事件だけでもいくつかあり、関連記事も以下の通り、他に比べて多いです。

60人という大規模なノーショーから、同席者による連続ドタキャン、近所にある小学校関係者による貸切予約のドタキャン、50人のノーショーの作り話まで、残念ながらノーショーに関する炎上には事欠きません。

特に大人数のノーショーに対してはSNSで厳しい批判が相次ぎ、テレビでも大きく取り上げられたので、世の中の認識もだいぶ変わってきたのではないでしょうか。

そして、秋には大きな動きがありました。

ノーショー問題に対して官民が一体となり、指針を含んだ対策レポートを発表したのです。

これによって、改めてノーショーの被害が客観的に可視化され、利用者の意識も高められたはずです。ノーショーの対応も共有されてノウハウも蓄積されていき、キャンセル料の請求および支払いも促進されていくのではないでしょうか。

しかし、まだ課題は山積されています。

飲食店のキャンセル被害で最も件数が多いドタキャンに関しては、まだ考察が不足しているでしょう。最も重要となる指標、ドタキャン=直前キャンセルは予約日時のどれくらい直前であるかという点に関しては、全く参考となるものがありません。

キャンセル料が、3時間前までペナルティなし、3日前でも100%と飲食店によって大きく違っていれば、利用者は混乱してしまうでしょう。カジュアルな飲食店や特別な日に訪れるファインダイニングなど、同じ業態であっても、ドタキャンに関するキャンセルポリシーは全くバラバラとなっています。

次の課題は、ITツールの導入についてです。ノーショーに効果的に対応するには、予約台帳を始めとしたITツールの力が必要不可欠ですが、個店の多い飲食店では導入があまり進んでいません。もしもITツールがなければ、回収コストがかかりすぎてしまうので、キャンセル料の請求も支払いも絵に描いた餅となってしまうでしょう。

ITツールの導入促進には、経済産業省が行ったITツール導入補助のような金銭的援助が有効です。今年度は既に終了し、来年度の実施はまだ決まっていません。しかし、実施する可能性が高いということなので是非とも注視したいところです。

3つ目の課題は、クレジットカードの加盟店手数料です。ITツールのノーショー対策はクレジットカードの利用が前提とされています。しかし、営業利益率が10%以下であり、個店が多くを占める飲食店では、クレジットカード加盟店手数料の4%~6%が大きな負担となるので、クレジットカードに加盟する余裕がなかなかありません。

そういった状況で、TableCheck(テーブルチェック)の支払いサービスTableCheck Pay(テーブルチェックペイ)では、飲食店のクレジットカード加盟店手数料を軽減するという日本では初めての施策が行われています。

キャッシュレス促進という文脈で政府もクレジットカード加盟店手数料の引き下げについて言及しているだけに、来年はもう少し動きがあるかもしれません。

日本人が日本の食文化を理解する

さて、2018年に起きた食に関する炎上事件を振り返ってみました。

それぞれの炎上事件の背景に潜んでいるのは、食材や食べ物、食を提供する側や環境に対するリスペクトの欠如であるように感じます。おそらく、すぐに意識を変えるのは難しいかもしれませんが、食に対する尊厳を取り戻すためには、私も含めたメディアが毎回しっかりと丁寧に問題を提起していくことが必要です。

2019年は東京五輪も間近に迫ってくるだけに、日本の食文化を訪日外国人にどのようにして伝えていくかも大きな課題となってくるでしょう。

その際に、より多くの日本人が日本の食に対して考えて理解し、そして自信を持って訪日外国人をもてなしていくことができるかどうかが重要であるように思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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