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インフルエンサーが発言した「モテる男は複数の飲食店を予約」が許されない理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

美容家・美容ライターによるTweetが炎上

有名女性誌で執筆を手掛ける美容家・美容ライターの女性が、クリスマスの2018年12月25日にTwitterへ投稿し、その内容が大きな炎上に発展しています。

私が知っているモテる男の人たちに共通しているのは、フレンチ、中華、和食のだいたい3軒くらいを事前に予約しておき、女の子に「(予約していることは言わず)どれが食べたい?」と聞いて、スマートに入店できるようにしておくということ。

投稿に対しては、「飲食店のことを考えていない」「常識はずれだ」「迷惑であることがわかっていない」といったリプライが大半で、このTweetは削除されました。

翌日になり、以下3つの文章がTwitterに投稿されました。

※原文ママ

昨日の軽はずみな発言で不快な気持ちにさせてしまった方、大変申し訳ございませんでした。決してそのような行為を良いとは思っていません。本当にすみませんでした。

その方々は、予約をしてキャンセルすることになっても他の人に譲って空席が出ないようにしたり、予約も何日も前からずっとキープするのではなく、女の子に聞く直前にお店に空き状況を聞くような形をとっていて、お店には迷惑をかけないように配慮はしていました。ドタキャンやコースを頼んでいるにも

関わらずキャンセルする、などといったお店側の迷惑になるようなことはしていませんでした。言葉足らずだったこと、不快な気持ちにさせてしまったこと、お詫びいたします。すみませんでした。

謝罪を述べているものの「言い訳だ」「当初の内容と矛盾している」「飲食店に謝るべきだ」といった返信が多く、まだまだ沈静化する気配がありません。

<大反響があった食の炎上事件2018年 ワースト5>でも取り上げたように、ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)が今年大きな話題となっただけに、改めて何がいけないことであるのかを説明しなければならないと考えています。

私としてはノーショーやドタキャンの問題を取り上げて改善していきたいだけで、この方には個人的な恨みは何もなく、個人攻撃をしたいわけでもありません。したがって、ここでは関連リンクや具体的な表記は控えることにします。

複数予約がノーショーやドタキャンにつながる

最初に、そもそものところ、件のTweetに記載されたように、フレンチ、中華、和食など複数の飲食店を予約しておくことは、本当にノーショーやドタキャンにつながるのでしょうか。

大手予約台帳サービスを展開するTableCheck(テーブルチェック)が実施した飲食店の無断キャンセルに関する消費者意識調査によれば、ノーショーが発生する理由の1位(39.8%、複数回答可)に「とりあえず場所を確保するために、複数の飲食店を同時に予約した」があります。

「予約したこと自体をうっかり忘れてしまった」が2位(35.2%、複数回答可)となっていますが、複数の飲食店を予約していれば、予約していたことをうっかり忘れる可能性も高そうです。

複数の飲食店を予約することはノーショーにつながりやすいので、たとえモテるとしても、全く好ましいことではありません。

Tweetでは飲食店には迷惑をかけていないという記述もありますが、これは間違っています。

飲食店の準備は、予約された時から既に始まっているからです。テーブルの配置を決めたり、必要な食材を発注したり、当日の流れを考えたりと、飲食店は予約した客が訪れることを想定して着々と作業を進めているのです。そうでなければ、当日にスムーズなサービスなどできません。

また、飲食店以外にも迷惑を掛けてしまっています。予約したことによって、他の客が予約する機会を奪ってしまっているのです。飲食店にとっても予約したい人にとっても機会損失になっていることを自覚しなければなりません。

始めから訪れる気がなく、キャンセルするために飲食店を予約することは、偽計業務妨害罪となる可能性もあるので、キャンセル前提で予約するのは改めるべきことでしょう。

予約を譲ればよいという考えは危険

翌日の謝罪Tweetには、訪れなかった飲食店の予約は他の人に譲っているので、そもそもキャンセルしていないという趣旨が記載されています。

これも非常に危険な考え方です。

私は、フーディーや食通の方が他の人に予約を譲ったのを見聞きしたことがあります。しかしそれは、訪れるつもりで数ヶ月前に予約したものの、訪問日が近付き、仕事や他の予定が入ってどうしても訪れることができなくなった場合だけです。

基本的にグルメ好きの方は、スケジュールを立てて、食べに行きたい飲食店を計画して訪問しています。そうであるからこそ、計画した通り、訪れることができるように調整しているのです。

また、日時や飲食店が既に決まっている上に、日が近付いた予約を利用してくれる人を探すのは容易なことではありません。

想像してみればすぐに分かることでしょう。

日にちと時間が変えられないことに加えて、料理のジャンルやコース、さらには値段も決められているのです。これら全てを承諾して代わりに訪れてくれる人を探すのは、大変なことでしょう。

件のTweetには「だいたい3軒くらい」の飲食店を予約すると記載されているので、予約を譲るのは2店舗以上と考えられます。1店舗2席の譲り先を探すだけでも難儀だというのに、2店舗以上を譲るというのは常識では考えられません。

たまたまその時は予約を利用してくれる人がいたとしても、それは極めて幸運なだけです。次回からも同じようにうまくいくと考え、問題に感じないのは不思議で仕方ありません。

もしも予約を他の人に譲れたとしても、まだ問題は残ります。

飲食店、それもデートで訪れるようなファインダイニングであれば、訪れる人の好みやアレルギーの有無、さらには前回の訪問日や訪問回数によって内容を最適に仕上げるものです。そのため、場合によっては料理内容を急遽変更する必要があり、飲食店に迷惑を掛けてしまいます。

自分以外の誰かが利用するために、自分の名前で飲食店を予約するものではありません。予約した人が自分自身で訪れることができるように、責任を持つことが必要です。

ノーショーやドタキャンに対する意識の低さ

残念ながら、日本では<飲食店の予約は契約である>という意識が薄いので、ノーショーやドタキャンがここまで大きな問題となっています。

ホテルを予約して宿泊しなかったり、飛行機や新幹線のチケットを購入して乗らなかったりしても、料金は支払うものであるという認識はあるでしょう。しかし、飲食店に関しては予約してコースまで注文しているにも関わらず、何も食べていないからとキャンセル料を支払わなくてもよいと考える人がいるのです。

ノーショーやドタキャンを解決するためには、予約台帳サービスなどのITツールが発展する必要があります。しかし、これだけでは足りません。ITツールの普及に加えて、飲食店の予約は契約であり、ノーショーやドタキャンは非常に悪いことであると認識されなければならないと考えています。

急速にノーショーやドタキャンのキャンセル料を請求することが先行してしまうと、飲食店に対する敷居が高くなってしまい、予約して訪れる人が減ってしまうでしょう。飲食店に損害を与えるノーショーやドタキャンを撲滅する施策によって、飲食業界が萎縮してしまっては本末転倒です。

したがって、テレビや雑誌などのメディア、ジャーナリストやライターは、ノーショーやドタキャンはよくないことであり、キャンセルポリシーに従って請求されても仕方ないと常に伝えていく必要があると考えています。

Tweetした方は食に関係する方ではありませんが、多くのフォロワーを抱えたインフルエンサーであり、トレンドを生み出すメディアで執筆されているのです。

それだけに、曖昧な「モテる」というパワーワードを用いて、飲食店が抱える問題を矮小化させたことは残念に思います。

ノーショーやドタキャンは誰も得にならない

<席予約の無断キャンセル(ノーショー)で5割のキャンセル料は高い? 官民一体の施策に対する5つの考察>でも紹介した経済産業省から配信されたレポートには、ノーショーが与える影響について記載されています。

No show が飲食業界全体に与えている損害は、年間で約 2,000 億円 とも言われている。さらに、通常の予約のうち、1 日前、2 日前に生じるキャンセルも加えるとその発生率は6%強に達し、被害額は約 1.6 兆円 にも及ぶと推計される。

出典:No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート

損害額の2000億円という数字が多いかどうかは別の議論に譲るとして、ひとつ明らかなのは、こういった理不尽な損害が発生する限り、ノーショーやドタキャンによる損害を織り込んだ価格を設定する飲食店はなくならず、結果としてノーショーやドタキャンをしない客に費用が転嫁されるということです。

ノーショーやドタキャンは全体的な視点に立ってみれば、誰にとっても嬉しいことではありません。ノーショーやドタキャンが撲滅されるまでにはまだ時間がかかるかもしれませんが、せめて行為を助長するような発言がなくなることだけは願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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