Yahoo!ニュース

なぜ人気テレビ番組で「緑茶はお祝いのお返しに贈ってはいけない」が炎上したのか?

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

緑茶はお返しによくない

<お祝いのお返し 「緑茶はダメ」ってホント? 老舗茶屋がバラエティ番組に反論>で取り上げられていますが、TBSのバラエティー番組「この差って何ですか?」の放送内容に対して、視聴者や老舗のお茶屋から反論があり、話題となっています。

番組内で<お祝いのお返しに贈ってはいけない物はどっち!?>という問いがあり、緑茶と紅茶が選択肢として提示されました。

マナー講師が「お葬式の時に手土産として使われることが多い。そのため、お葬式を連想し、縁起が悪い」という理由で緑茶を正解としていましたが、お茶の川村園のTweetに端を発し、多くの人から「そのようなマナーは聞いたことがない」「むしろ緑茶をもらったら嬉しい」「これまで贈っていたが問題なかった」という声が続々と上がっています。

三越伊勢丹では問題なし

緑茶はお祝いのお返しによくないというのは本当でしょうか。

調べみると、決して多くはありませんが、マナーとして言及されていることは少なくないようです。

しかし、三越伊勢丹が運営するサイトでは、以下のように説明されています。

お祝い返しに「お茶」を贈ってもいの?

祝いごとや結婚祝いのお返しにお茶を贈っても失礼にはなりません。中国ではお茶の木は「植え替えができない」「根づく」ということから不老長寿のもととされたことから、九州地方では結納品にはつきものとされています。

出典:キノギフト

マナーやしきたり、贈り物のプロである百貨店、それも日本を代表する百貨店がこのように述べているだけに、緑茶がお祝いのお返しによくないと言い切ることは難しいのではないでしょうか。

問題となった理由

私はマナーの専門家ではないので、マナー自体について特に述べることはしませんが、食に関連したテレビ番組、さらには食文化という観点から意見を述べたいと思います。

今回大きな問題となった理由を、以下の点から考えてみます。

  • 意外性
  • 分かり易さ
  • 時間の短さ

意外性

テレビ番組では、今回のように、質問形式でコーナーが進行することがあります。視聴者も一緒に考えてもらって、より番組に取り込むことができるからです。特に二択であれば、気軽に選ぶことができるので、視聴者も参加し易いでしょう。

食をテーマにしてものであれば「どちらの方が栄養があるか」「どちらを食べた方がお得なのか」といった質問を投げかけ、出演者に回答してもらったり、スタジオで反応があったりすることで盛り上がります。

解答は意外性があった方が盛り上がるでしょう。視聴者にとって驚きがあればあるほど、つまり、予想外であればあるほど、番組は面白くなります。

こういった観点からすれば、緑茶はお祝いのお返しによくないという解答が、視聴者にあまり受け入れられないと思ったとしても、それだからこそ意外性があってよいとして、採用された可能性が高いです。

分かり易さ

テレビ番組では分かり易さが特に重要視されます。テレビはマスメディアであり、パッと見てすぐ理解できるくらいにしなければ、非常に幅広い層の視聴者に伝わらないからです。

分かり易くするためには一貫性も重要なので、今回のように、緑茶がお祝いのお返しによくないということを中心に構成が練られます。

このマナーが一部でしか認識されていないことや現在では一般的ではないこと、さらには白にできる大手百貨店では気にされていないことなど、他の情報は排除されるのです。

下手に補足してしまうと、チグハグしてしまい盛り上がりにも欠けてしまうでしょう。

しかし、テレビは非常に瞬発力が強いので、一方的な主張だけを紹介したのは、今回に限っては間違いだったと私は考えています。

テレビの影響力の大きさと、違和感を持つ人のことも考慮に入れられたらよかったでしょう。

時間の短さ

先の分かり易さとも関係しますが、テレビ番組はそもそも時間が短いので、説明する時間があまりありません。

間を作ってしまうと視聴者はチャンネルを変えてしまいます。そうさせないために、テレビ番組はテンポよく進める必要があるのです。

また、他にも質問はたくさんあるので、緑茶のことばかりを紹介しているわけにもいきません。

従って、緑茶はお祝いのお返しによくないが例外もあると説明しようとしたとしても、そもそも尺を捻出するのも大変だったかも知れません。

ただ、せめてテロップで補足したり、司会者やアシスタントが一言付け加えたりしていれば、ここまで反対意見が大きくなることもなかったのではないでしょうか。

日本の食文化

日本における2016年の緑茶の統計では、年間80200トンが生産され、79710トンが消費されています。世界への輸出量も4108トンあり、近年増加しています。

日本における2014年の紅茶の生産量が僅か122トンであることを鑑みれば、日本人にとって緑茶はいかに大切な食文化であるか分かるでしょう。

私はこれまでに、食に関するテレビ番組について記事を書きましたが、テレビはとても影響力が大きいだけに、日本の食をよい方向に導いてもらえることを期待しています。

しかし、今回のテレビ番組では、日本で大切にされている緑茶がお祝いのお返しによくないと断定的に放送されてしまったので、緑茶の生産や販売に従事する人々が困惑し、緑茶を愛する人々も残念な気持ちになりました。

テレビ番組では今後、もっと日本の食文化を尊重し、食に携わる人に配慮した番組を製作してもらいたいと願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事