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はあちゅう氏のセクハラ証言を受けて、レストランやホテルでパワハラやセクハラはあるのか?

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

はあちゅう氏が証言

<はあちゅうが著名クリエイターのセクハラとパワハラを証言 岸氏「謝罪します」>という記事が大きな話題となっており、アメリカのエンターテインメント業界から端を発したセクハラ問題が、日本にも影響を及ぼしています。

はあちゅう氏に関する記事を読んでいて、外食産業について思うことがありました。電通のようにクリエイティビティや人脈が重要となり、仕事の拘束時間も長く、個人単位での仕事が賞賛されるという意味では、外食産業、それもガストロノミーやホテルのレストランと似ているところがあるからです。

私もパワハラやセクハラに関しては、以前から考えるところがあったので、特にレストランやホテルについて述べたいと思います。

レストランやホテルでパワハラやセクハラなど、ハラスメントが起きる相手は以下の方が対象です。

  • 部下
  • 関係部署
  • 提携先
  • メディア

それぞれについて、どのような場合で起こるのか、説明していきます。

部下

飲食業界では製菓職人をやサービススタッフを除けば、ほとんどが男性です。それだけに、レストランに関しては、上司の男性が部下の男性に対してのパワハラが特に散見されます。

町場に関しては、オーナーやオーナーシェフやオーナー支配人であればもちろん非常に大きな力を持っていますが、オーナーではなくとも、シェフ(料理長)であれば、そのレストランにおいては発言力や影響力は最も大きいでしょう。

ホテルという大きな組織であっても、シェフやスーシェフ、シェフ・ド・パルティエ(部門料理長)であれば同様です。

こういった料理人が他のスタッフに暴行することは一昔前であれば当然のことであり、パン(フライパン)や鍋や調理器具を投げることもありました。今では、外食産業はただでさえ人手不足なので、モラルも改善されてきており、こういったことは少なくなっていますが、それでもまだ見聞きします。

外食産業は利益率が低い業態であるだけに、無駄を省くことは重要ですが、部下の失敗に対して、必要以上に個人の尊厳を傷つけるまで怒鳴りつけたり、賠償責任を負わせたりすることもあるのです。

レストランは、街場では特にスペースが狭いだけに、怒鳴り声は間違いなくメインダイニングまで届きます。どの客が好き好んで、人が怒鳴られているのを聞きながら料理を食べたいと思うのでしょうか。これでは、せっかく高い値段を払っているのに、非日常から全くの日常に引き戻されてしまいます。

このようなレストランでは、スタッフの離職率が高い上に、評判も伝わってしまうので、スタッフの確保に苦労します。また、怒鳴って教えていては教育の効率もよくないので、仕事の技もしっかりと伝えることはできないのでしょうか。

部下にパワハラを行って、よいことなど全くありません。

関係部署

町場のレストランは小さい組織なので、他の部署は存在しません。しかし、ホテルは非常に大きな組織であり、全く種類のことなる職種がホテルを作り上げており、たくさんの部署が存在しています。

その中で、私が気になっているのは、料飲部門と企画を調整する営業企画部門、および、料飲部門と広報を含むマーケティング部門との関係です。料飲部門には男性が多く、特にシェフクラスになればほぼ全てが男性ですが、営業企画部門やマーケティング部門には女性が少なくありません。

男性である料理人が、男性がほとんどを占める料飲部門の感覚で営業企画部門やマーケティング部門と接していると、セクハラに近い言動が見掛けられることがあります。

料理人が必要以上に営業企画部門やマーケティング部門の女性に触れる場合もありますし、女性に配慮しないような女性蔑視の発言を聞くこともあります。

どんなに素晴らしい料理やスイーツを作ったり、稀有なアイデアを持っていたり、多くのメディアから賞賛されたりしていても、取材時にこういった場面に出くわしてしまうと、残念ながら食べた時の印象が変わってしまいます。

レストランは男性が女性をエスコートするシーンが多く見掛けられる場所です。それだけに、男性の料理人も他の関係部署の女性に対して、尊敬の念を抱く必要があるのではないでしょうか。

提携先

有名な料理人ともなると、他のホテルやレストランとコラボレーションを行うことが多くあります。そういった料理人は当然のことながら内外から非常に高い評価を得ており、他の料理人からも尊敬されています。

しかし、コラボレーションを行うなどしている提携先に対して、パワハラまがいの態度を示す料理人もいます。飛行機ではファーストクラスを使って移動する、ハイグレードな宿泊先を準備する、チーム全員で訪れるなど、こういった項目が契約に入っているのは、単なる契約条件なので驚くべことでありません。

しかし、契約以外の条件で、多くのスタッフで出迎えることを求めたり、直前になって気分によって変更や中止を強要したり、身の回りの世話まで要求したりするなど、常識外のことを言い出し、それが満たされなければ怒り出す料理人もいます。

コラボレーションやイベントは双方が存在して初めて成り立っているものです。いくらその料理人が偉大であったとしとも、一人では実施できません。

提携先のことも思いやった上でイベントを実施することができれば、よりよいイベントが開催できて、その料理人自身の評価もさらに上がるのではないでしょうか。

メディア

メディアに対しても様々な場合があります。無料で取り上げるパブリシティであれば、その影響力や無料という側面もあって、レストランやホテルによるパワハラは生まれ難いでしょう。もしも、パワハラやセクハラによって悪い印象をメディアに与えれば、次回から取材されなくなるからです。

しかし、お金を払って出稿する広告はもちろん、掲載料を支払うレストラン情報サイトや手数料を取る予約台帳であれば、事情は異なります。レストランもホテルもお金を支払っているので、内容に対してとても細かく口出ししますし、場合によっては、パワハラやセクハラにつながることもあります。

メディアからすれば、有名なホテルから広告を出稿してもらったり、勢いのあるレストランに情報を掲載してもらったり、予約のための席を供給してもらったりしたいので、その傾向は強まります。

しかし、メディアにパワハラやセクハラを行ったレストランやホテルの未来は明るくありません。メディアには蓄えられている情報が多く、その情報伝播のコネクションも多岐に渡り、すぐに情報は伝わるからです。

パワハラやセクハラを行ったレストランやホテルは、最終的に悪評が巡ってしまい、よいように取り上げられなくなってしまいます。

ハラスメントに取り組む必要がある

外食産業は、まだまだ古い業界です。これだけインターネットが発展していても、店舗のウェブサイトを持っていなかったり、予約台帳や情報サイトをうまく使いこなせていなかったりすることがあります。

<「マツコの知らない世界」のケーキバイキング炎上を通して伝えたい3つの違い>でも述べたように、「マツコの知らない世界」におけるブッフェの演出、フジテレビが生み出した保毛尾田保毛男氏の再登場など、今は昔と違っており、時代錯誤をしていると、とんでもない反発をくらうことになります。

レストランやホテルなどの世界は未だに閉鎖的であり、時代の流れに対してはあまり敏感であるとは言えません。しかし、今風の感覚を携えた客が訪れる場所であるだけに、パワハラやセクハラといったハラスメントに対して、自ら積極的に取り組む必要があると私は考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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