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絶対にやってもらいたい食品ロスを削減するための最も簡単なこと

東龍グルメジャーナリスト

シェアリングエコノミー

宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのサービス「Airbnb」や自動車配車サービス「Uber」が世界で大成長を遂げている中で、日本でもだいぶシェアリングエコノミーという言葉が浸透してきました。

このシェアリングエコノミーは食の世界でも存在しており、食品ロス(フードロス)への対策としてフードシェアリングが注目されています。

海外のフードシェリング

海外では以下のようなフードシェアリングのサービスがあり、PECUNIAに詳しいです。

  • 廃棄食品が発生した時にフードバンク等に連絡するアプリ

「MealConnect」

  • レストラン・スーパー等のディスカウント(割引セール)を通知してくれるアプリ

「Too Good To Go」「No Food Wasted」「ResQ」

  • 作ったご飯のおすそ分けしてくれる相手とされたい相手を探せるアプリ

「OLIO」

出典:PECUNIA

こちらで紹介したフードシェアリングは全て、食とIT技術(テクノロジー)が融合したフードテックと呼ばれる新しい産業分野に位置しています。金融とテクノロジーが融合したフィンテックが目覚ましい発展を遂げていますが、フードテックも同様にますます伸びていくでしょう。

日本のフードシェアリング

海外に比べると日本のフードテックやフードシェアリングは遅れている感が否めません。しかし、今年になって風向きが変わってきたように思います。

「オイシックスドット大地」(旧「オイシックス」)が日本で初めてとなるフードテックへの投資を行う「フードテックファンド」を2016年10月に立ち上げました。第1号案件として2016年11月10日にアグリテックベンチャーである「ルートレック・ネットワークス」と事業資本提携を合意し、第2号案件として2017年4月13日に「ふらりー と」を完全子会社化することになったのです。

特に注目したいのは、「ふらりーと」が行うフードシェアリング事業です。

(株)ふらりーとは、主婦などの空き時間を活かした家庭料理のシェアリングサービスを手掛けています。

オイシックスのサブスクリプション型(定期購入型)食品Eコマースとしてのプラットフォームや13万件以上の顧客データベースを含むプラットフォームを活用し、食の新しいスタイルの構築をすすめ、3年後には月間流通総額1億円を目指してまいります。

主婦などの空き時間を活用した家庭料理のシェアリングサービス「ごふぁん」を提供予定で、2017年5月末にベータ版サービスを開始し、2017年秋には本格展開を目指します。

出典:PR TIMES

「ふらりーと」は2015年11月に設立された会社です。栄養士による料理代行サービスを2016年5月か ら提供しており、プレスリリースに記載されているように、主婦による家庭料理のシェアリングサービス「ごふぁん」は既に世田谷区、恵比寿駅、笹塚駅、幡ヶ谷駅に限定してベータ版を開始しています。

TABETEのクローズドベータ版が開始

「ごふぁん」に続くフードテックとして挙げたいのが「コークッキング」が手掛ける「TABETE(タベテ)」です。フードシェアリングを実現する国内初のアプリで、2017年9月4日(月)に15店舗程度が参加したクローズドベータ版を開始します。

TABETE は、飲食店や惣菜店等で発生してしまう余剰をユーザーとマッチングし、最後まで売りきる・食べきることを応援するプラットフォームとしての社会派 Web サービスです。

予想外のできごとや急な予約のキャンセルなどによって発生してしまい、完全な対策が難しい飲食店での食料廃棄。本サービスでは、せっかく想いを込めて準備した食事を無駄にしたくないというお店の想いを「食べ手」が発見し、その食事をレスキューすることができます。「フードシェアリング」と呼ばれるこのしくみは、欧州などでは広く浸透していますが、国内での実際の試みは初となります。

出典:PR TIMES

「TABETE」は食品ロスを削減するフードシェアリングのサービスとして期待していますが、心配していることもあります。

小売と外食に有効

まず食品ロスについて現状を確認してみましょう。

農林水産省の統計では、2014年度の統計では食品ロスは全体で621万トンもあり、そのうち家庭系食品廃棄物は282万トン、事業系食品廃棄物は339万トンになっています。事業系食品廃棄物で大きな割合を占めているのは、食品製造業の144万トン、外食産業の120万トン、食品小売業の60万トンです。

最も食品廃棄量が大きい食品製造業では、製造能力を向上させたり、継続的なリサイクルを行ったりして食品ロスを削減していきます。

私たち一般消費者にとって身近であるのは食品小売業と外食産業でしょう。この2つを合わせると、事業系食品廃棄物全体の半分以上を占めますが、食品小売業と外食産業のどちらにも有効となる対策はなかなかありませんでした。

しかし、「TABETE」はこのどちらにも有効です。飲食店であれば食品ロスになりそうな食材や料理を用いて商品を作り、販売することができますし、小売であれば余った商品を割り引きして販売できます。また、ウェブで決済するので、その時に手持ちの現金がなかったとしても購入できますし、会計の煩わしさもありません。

「TABETE」は、食品ロスになりそうな食材や料理と、それが欲しい「食べ手」とをスムーズにマッチさせるプラットフォームであると言えるでしょう。

規模が小さすぎる

期待する一方で心配していることもあります。

それは、クローズドなベータ版なので仕方ないところはあるものの、15程度の店舗規模ではあまり試験にならないのではないか、ということです。

「TABETE」を利用するユーザーにとっては、食べられる時(夜ご飯の予定がないなど)に、食べたいと思う(嗜好や体調)ものがあり、取りに行ける(時空的条件)ことが重要になってきます。

店舗では細かいものまで入れると食品ロスが発生しない日などあまり存在しないかも知れませんが、15程度の店舗では、先に述べた利用者の購入機会とうまくマッチさせることが難しいのではないかと考えているのです。

ベータ版を利用するユーザーであれば、食品ロスに対して高い課題意識を持ち、フードシェアリングに対しても興味があるはずですが、機会が得られなければ購入するに至りません。

利用者の自宅や通勤先の最寄り駅と店舗の商圏が同じであること、かつ、小売と飲食店の別や料理のジャンルを考えると、数十店舗は必要となってくるのではないでしょうか。

この心配が杞憂に終わり、ベータ版でも有意な結果を残して、正式にリリースできることを願っています。

人と食とをつなぐフードテック

食品ロスの問題は少しずつ浸透してきていますが、食品小売業であれば消費期限の3分の1ルールの問題、外食産業であればノーショーやドタキャンの問題など、商習慣や人の意識と関係が深いため、そう簡単には解決できません。

また、事業系食品廃棄物だけではなく、食品ロス全体の半分以上を占める家庭系食品廃棄物についても、より効果的な対策が必要でしょう。

そういった状況の中で「ごふぁん」では家庭系の食品ロスを、「TABETE」では事業系の食品小売業と外食産業の食品ロスを大きく削減できる可能性を秘めています。

人と食とを有機的かつ瞬間的につなげられる、フードテックを利用したフードシェアリングのサービスを積極的に使うことは、私たち消費者にとって、食品ロス削減に貢献できる最も簡単なことであると、是非とも知っていただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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