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ミシュランガイドと食中毒の残念な疑似相関

東龍グルメジャーナリスト

食中毒のニュース

ここ最近ある有名店で発生した食中毒のニュースが流れていますが、報道の仕方や周囲の反応に対して少し残念な印象を抱いています。

食中毒それ自体に関しては、ノロウィルスを防ぐことが難しいことについて触れて欲しいものの、ただ事実を述べているものがほとんどなので特に思うところはありません。

私が気になっていることは、次の2点です。

  • ミシュランガイドを強調する表現
  • 星を獲得しているのにという反応

ミシュランガイドを強調する表現

この事件を報道する時に、記事内にはもちろん、見出しにも「ミシュランガイド」の文字が大きく踊っています。その店がいかに評価されているか、もしくは、有名であるかを端的に表せるので、ミシュランガイドで星を獲得しているというのは便利なのでしょう。

しかし、「『東京最高のレストラン』に掲載」「ワンコインランチ人気店」「食べログ<ベストレストラン>選出店」など、他の表現が見掛けられることはほとんどありません。

ミシュランガイドはそれだけ権威があり、ミシュランガイドに掲載されていることを強調すれば、事件をよりセンセーショナルに演出できるので無理もありませんが、私としてはミシュランガイドに対するネガティブキャンペーンではないかと思うのです。

それは2点目に挙げたことにも関係します。

星を獲得しているのにという反応

こういった報道を受けると、「ミシュランガイド掲載店なのにどうして食中毒を?」「ミシュランガイドを信じるのをやめた」「ミシュランガイドはいい加減だ!」といったように、必ず何故かミシュランガイドに対するネガティブな反応があります。

飲食店を運営するにあたり、食中毒を防ぐ目的として食品衛生責任者を置くことになっていますが、ミシュランガイドは、レストラン(ラーメンも掲載されるようになったので、以前よりもさらに対象がレストランではなくなっていますが)の料理、快適さ・豪華さを評価しているのであって、この食品衛生責任者や食中毒をいかに起こさないかということを評価しているわけではありません。

従って、厚生労働省の総合衛生管理製造過程で承認された工場であるのに食中毒を起こしてしまったのであれば、「総合衛生管理製造過程承認工場なのにどうして食中毒を?」「総合衛生管理製造過程を信じるのをやめた」「総合衛生管理製造過程はいい加減だ!」と憤るのは分かりますが、ミシュランガイドに憤ってみてもそれは全くのお門違いでしょう。

事実を報道することは重要ですが、「ミシュランガイド」云々がなくても意味が通じるのに、わざわざ加えることはないと思います。

過剰なサービス

何だかミシュランガイドの肩を持っているように思われたら困るので、はっきりと書いておきますが、私が恐れていることは、ミシュランガイドなどレストランを評価する機関や媒体が不当なイメージダウンを被ることにより、必要以上にレストランへの憧れが失われてしまうことです。

人の不幸は蜜の味とはよく言ったものですが、こういった格付けされたレストランが堕ちていくのを心地よく思う大衆心理に対して、報道機関が過剰においしいサービスをしているようにも感じられます。

レストランを愛してやまない私としては、食中毒が一切なくなればよいと願うことはもちろん、持ち上げてから落とすような表現もなくなればよいと願っているのです。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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