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「NHKクローズアップ現代」をリニューアルして放送継続するとの発表を受けての筆者の判断

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:西村尚己/アフロ)

NHKが「クローズアップ現代+」についてリニューアルしての放送継続を発表した。この番組の終了を報じた私の記事には根拠が有る。しかし、結果的に記事通りにならなかった点を無視することはできない。筋を通す必要から、Yahoo!への出稿を暫くの期間止める。

2月9日にNHKで放送総局長会見が行われ、4月からの新番組について説明が有った。その概要によると「『クローズアップ現代』は家族視聴など幅広い世代に視聴してもらえるようにリニューアルしてゴールデンタイムで放送する」という。

現在は火曜から木曜までの午後10時から放送している「クローズアップ現代+」は、名称を「クローズアップ現代」に戻した上で月曜から水曜にして午後7時半から放送するというということだ。

私はYahoo!において2021年4月に、NHKがクローズアップ現代の終了を決めて後継番組の検討に入ったとする4本の記事を出した。以下がその記事だ。是非読んで頂きたい。

4月9日の記事

4月10日の記事

4月11日の記事

4月12日の記事

NHKはその最初の記事が出た日に「2021年4月9日、一部ネットメディアで、NHKが『クローズアップ現代+』の終了を決定したとする記事が掲載されましたが、まったくの事実無根で、大変遺憾です。執筆者に対し抗議するとともに、記事の削除を求めてまいります」とする見解を出している。極めて異例な声明だ。

この見解に関わったNHKの幹部は「あまりの反響に、ああいう見解を出すしか無かった」と明かした。また、根拠を示した続報について「あれを先に出してくれれば、少なくとも『全くの事実無根』との見解を出すことはなかった」とも明かした。

記事を読んで頂ければ、根拠も含めて取材の内容は明確だろう。見解通りだとは全く思わない。1つ、一連の記事で明示しなかった証拠を示しておく。

関係者提供(職員名については加工)
関係者提供(職員名については加工)

これが「クローズアップ現代+」の後継番組を制作するためにNHK全体で取り組むとした通知だ。この作業に関わっていた職員から提供を受けたものだ。「課題曲」とは前掲の記事に詳述しているが、取り組みがNHKの上層部からの指示であることを示している。更に担当者を増やすことも示されている。

つまり、NHKが「クローズアップ現代+」を終了させて新たな番組を開始しようとしていたことは否定できない。その詳細は記事に書いているので是非読んで頂きたい。

一方で、「クローズアップ現代」が名称を元に戻しキャスターを変え、放送時間を変更して放送を続けることになったことは事実であり、誤報だとの指摘も寄せられている。取材者として筋を通すことは重要だろうと考える。このため、今後一定の期間、Yahoo!個人への出稿をとりやめる。一定期間とは数週間ではない。数か月と考えている。

もとよりYahoo!からの原稿料は私が編集長を務めるNPOメディアInFactにとって重要な取材活動資金だ。痛手であることは認めざるを得ないが、スタッフも理解してくれている。

1つ有名なエピソードを紹介したい。ニクソン大統領のウォーターゲート事件を暴いた記者の活動を描いた映画「大統領の陰謀」に出てくる。

主人公の若い2人の記者(ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタイン)が出した記事が、その後の発表と異なる事態となった。うなだれる2人に、編集局長のベン・ブラッドレーが語る。

「ジョンソン大統領がFBI長官のフーバーの交代を決めて後任探しを始めているとの情報を入手して、『FBI長官交代』と書いたことがある。それを読んだ大統領が激怒し、方針を撤回。フーバーを終身長官にした。そして、『くたばれブラッドレー』と言った。皆は記事を非難したが、私の記事は間違っていなかった」

NHKの「全くの事実無根」との見解は、私にはこの「くたばれブラッドリー」に聞こえるが、その確証は得ていない。

今回「クローズアップ現代」は継続が決まったが安堵はできない。この番組を止めさせようという「圧力」はNHK内でも弱くないからだ。前田会長の後任として名前が取り沙汰されている理事などは、その筆頭だろう。

私のNHK研究は終わるわけではない。出しどころはなくても取材は続ける。

※「クローズアップ現代+」の現在の放送時間を訂正しています。当初は「月曜日から木曜日」と書いていましたが、正しくは「火曜日から木曜日」でした。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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