沖縄県の名護市長選で辺野古移設を黙認した現職が勝利したことで安堵している政府だが、実はアメリカ側の雲行きが怪しくなっているようだ。この問題に精通しているアメリカの元外交官が「辺野古移設は唯一の解決策ではないどころか、既に好ましくない解決策だ」と語った。(写真は筆者撮影)

1月23日に投開票が行われた名護市長選挙。アメリカ海兵隊普天間基地の移設先となっている辺野古を抱える自治体の首長選挙は、現職の渡具知武豊氏が移設反対を掲げた岸本洋平氏を破り2回目の当選を果たした。

その2日前、私は長い付き合いになるアメリカ政府の官僚だった人物と都内で会っていた。まだ安全保障関係の業務に携わっているために名前を明かすことはできないが、普天間基地の返還に日米両政府が合意した1995年当時からこの問題に関わっており、以後、ワシントンと東京でこの問題に向き合ってきたアメリカの元外交官だ。

彼から「辺野古の視察に行ってきた」との話が出たので、普天間基地の話になった。

日米両政府から様々な説明を受けているようだったが、私は敢て、「友人のあなたの気分を害する気は無いが、辺野古移設が『唯一の解決策』とは思えない。勿論、あなたはそれに同意しないでしょうが」と伝えた。

すると彼は「ユイイツノカイケツサク」と日本語で言った後、英語で次の様に話した。

唯一の解決策だった・・・(返還が決まった)1995年当時は。しかし今は違う。辺野古は『唯一の解決策』どころか、好ましくない解決策だ

私は、驚いて「好ましくない解決策?」ときき返した。すると、彼は頷いて次の様に言った。

当時と現在では中国の軍事力が全く違う。今の中国の軍事力をもってすると、米軍基地を沖縄一か所に集中させることはマイナスだ

沖縄には海兵隊の部隊、航空基地に加えて、極東最大と言われる嘉手納空軍基地や原子力潜水艦が寄港する軍港、そして補給基地と、米軍のあらゆる機能が集中している。それが逆に米軍にとってアキレス腱になっているという認識だった。それは普天間基地の県内移設が決まった95年当時とは明らかに異なる中国軍の軍事力がもたらした変化だという。

米軍資料から
米軍資料から

彼は「あくまで個人の見解だ」とした。しかし、普天間基地の問題に長く携わり現在も安全保障問題に関りを持つ「関係者」の発言だけに単なる私見と片付けることはできない。しかも、彼は辺野古移設を推進してきたアメリカ側の人間だ。

実は、彼の発言は唐突なものではない。そうした指摘は日米の専門家から出されている。1つは2016年2月に日米の安全保障の専門家からなる「日米同盟の将来に関する日米安全保障研究会」がまとめた「The U.S.-Japan Alliance to 2030: Power and Principle(邦訳「パワーの原則:2030年までの日米同盟」)」だ。以下がその抜粋だ。

長期的には、日米両国は沖縄に集中する負担を軽減し、日本全体で米軍を受け入れる責任を共有するという前向きな方向に向かうよう努力しなければならない。そこには、基地の日米の共同利用の拡大、米軍部隊の移設、オスプレイなどの沖縄配備航空機の沖縄以外の基地へのローテーション展開や二国間の共同訓練の増加などが含まれるべきである(筆者訳)。

(in the long-term, the two countries must work hard to reduce the concentrated burden on Okinawa and move towards a more positive concept of sharing responsibility for hosting U.S. forces throughout Japan; policies should include increased joint use of bases, colocation of units, rotational deployment of Okinawa-based aircraft such as MV-22s to bases outside Okinawa, and increased bilateral training opportunities)」

とりまとめにあたったアメリカ側の中心人物は海兵隊出身で日米の安全保障問題に長く携わってきたリチャード・アーミテージ元国務副長官だ。この提言では辺野古移設に直接触れていないが、事実上、辺野古移設を否定する内容だ。

また、日本側で普天間基地の返還交渉に関わってきた軍事アナリストの小川和久氏も著書「フテンマ戦記」で、「キャンプ・ハンセン陸上部への移設構想と、沖縄米軍基地に関する沖縄の負担を日本国民全体で等しく分担する構想」を善策と指摘している。軟弱地盤が明らかになっている辺野古だが、小川氏は同書で、辺野古が津波、高潮に弱い点も指摘している。

オスプレイ
オスプレイ

普天間基地の辺野古移設について防衛省は、「沖縄は、米国本土、ハワイなどと比較して、東アジアの各地域に近い位置にあると同時に、我が国の周辺諸国との間に一定の距離を置いているという利点を有しているなど、安全保障上、極めて重要な位置にある」としている。しかし、実は中国の軍事力の強化の前で、仮に中国を「周辺諸国」とした際に、「一定の距離を置いている」とは言えないということだ。既に辺野古移設の前提が崩れている。

歴代政権は「辺野古移設が唯一の解決策」という言葉を繰り返してきた。それはあたかも事実であるかのように明言されてきた。岸田首相も、去年10月11日の国会答弁で「同盟の抑止力の維持と普天間の危険性の除去を考え合せた時、辺野古移設が唯一の解決策です」と発言している。私が編集長を務めるInFactでは、この発言をファクトチェックし、上記の日米の専門家が別の選択肢を示している事実を踏まえて「ミスリード」な発言だと指摘した。

参議院ネット中継から
参議院ネット中継から

実はその後、岸田首相の発言に変化が見られることはあまり知られていない。今年1月20日の国会答弁では、「辺野古移設は唯一の解決策であるとの方針に基づき」と、「唯一の解決策」は「方針」であることを認める発言をしている。勿論、これはInFactの指摘を受けたものと言うつもりはない。現実的な判断をすれば、「唯一の解決策」が「事実」ではないことはわかるからだ。

「唯一の解決策」が、あくまでも「方針」なのだと言い換えたことは小さな一歩だが、評価できる。更に現実的に判断すれば、辺野古に新たな基地を建設して米軍基地を沖縄に集中し続けることが、安全保障上も「好ましくない解決策」であることが見えるはずだ。

名護市長選で示された民意も大事だが、これまで沖縄県知事選挙や県民投票で示されてきた辺野古移設に反対する民意も大事だ。その際に、政府は安全保障の問題は政府が大所高所から判断するとして民意をはねつけてきた。その大所高所の議論も揺らいでいるという現実を冷静に判断する必要が有る。辺野古の美しい海が無駄に失われる前に。

埋め立てが進む辺野古
埋め立てが進む辺野古