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これがトランプ前大統領が手放したホワイトハウス近くのホテルだ

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:ロイター/アフロ)

ドナルド・トランプ前米大統領の一族が経営するトランプ・オーガニゼーションが、首都ワシントンにある高級ホテルのリース権を3億7500万ドルで投資ファンドに売却することで合意したとアメリカのメディアが報じた。ホテルから「トランプ」の名前は無くなるという。業績悪化が報じられており、事実上手放すということだ。筆者は開業間もないそのホテルに滞在した経験がある。そのホテルで見たものは・・・(記事中の写真は全て筆者撮影)

このホテル、鳴り物入りでオープンした超高級ホテルだ。2016年の大統領選挙戦のさ中の9月に開業し、トランプ氏が大統領に就任すると中東の政府関係者などが利用していた。

一番安い部屋で日本円で8万円

私はその実態を知ろうと、ホテルに潜入・・・否、宿泊したことがある。トランプ氏が大統領になって暫く経った2017年のことだ。当時は最も安い部屋が日本円で8万円だった。

ホテルはホワイトハウスの目と鼻の先にある。もともとは郵便局として使われていた政府の建物だが、そのヨーロッパの城の様な重厚な造りが首都の名物となっていた。

上の写真は正面からのものだが、ここからは入れない。中庭に回り込むとエントランスがある。外観とは異なり、ホテルの中は明るく、白やクリーム基調の内装でさわやかな印象だ。中央が大きな吹き抜けになっていて、はるか上方にある屋根はガラス張りだ。広々としたラウンジに、陽光がたっぷり降り注いでいた。

ラウンジの上には鉄骨のアーチが組まれ、そこから豪華なシャンデリアがいくつもぶら下がっている。ホテルの人に尋ねると、「ホテル内には大小、630のシャンデリアが設置されている」という。最新の空間デザインに、レトロ感覚とヨーロッパ的な貴族趣味を加えたという感じだ。

そのラウンジを囲む壁の1つは、巨大な星条旗で覆われていた。「America First」を標語にする大統領らしいという感じだった。

「TRUMP」の文字があちこちに

私の部屋は2階だった。一番安い部屋だから仕方ないが、中に入り、まずベッドのサイズに驚いた・・・というより、部屋の狭さに驚いたと言うべきかもしれない。

ベッドが部屋の大半を占有していた。このため、他の家具との配置バランスが悪い。ベッドの脇に置かれたライティングデスクは狭苦しく、テレビの前のスペースも小さい。ベッドで横になる以外何もできないといった感じだった。

部屋のアメニティには当然だが、「TRUMP」という文字が記されていた。ミネラルウォーターやワインのラベル、ナッツの瓶のふた、チョコレートの包み紙などにも、しっかりと「TRUMP」の文字が入っていた。

「米国製」の品は探せず

トランプ氏は大統領時代に「バイ・アメリカン」(米国の製品を買え)と語って保護主義的な方針を打ち出し支持を広げた。特に、政府機関の備品は米国製にするようにという指示まで出している。

では、自分のホテルにあるものも米国製ばかりなのか?

部屋は狭いと書いたが、実は隣接するバスルームは無駄と思えるほど広かった。そのバスルームに入り、洗面台のマウスウォッシュを手にした。見ると、カナダ製だった。次にシャワーキャップをチェックした。これには、おそろしく小さな字で「メイド・イン・チャイナ」と書かれていた。タオルは「メイド・イン・インディア」だ。ホテルが「自慢の」と紹介したバスローブを見てみると、それも「メイド・イン・チャイナ」だった。

結局、客室内で「メイド・イン・USA」(米国製)と書かれたものを見つけることはできなかった。

それにしても、1泊8万円まで出して泊まるのは、よほどのトランプ支持者かトランプ氏につながりたい人だろうというのが実感だった。客数は伸びなかったようで、価格はその後、かなり下がっていたようだ。

中東の国の大使館が貸し切りのパーティーを開いたといった話は度々耳にしたが、それも途中からは耳にしなくなった。因みに日本大使館にこの時に確認したところ、利用した事実は無いとの返答だった。

予想以上に早い撤退となったホテルだが、トランプ氏自身はどうだろうか?2021年1月6日の連邦議会襲撃事件で元側近のスティーブ・バノン氏が訴追されるなど厳しい状況にある反面、共和党内での人気は下がる状況にない。次の大統領選挙出馬への意欲にも変化は無い。このホテル同様に政界からも撤退となるのか。それは来年(2022年)11月の中間選挙次第だろう。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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